スキルは神からの贈り物
私はスキルの説明に関する本を手に取り、読み進めることにした。
この世界では、スキルを持つこと自体が特別なことだ。30年近く針子として働くベテランでさえ、裁縫スキルを得ることは稀だという。それなのに、生まれたばかりの赤子がすでにスキルを持っているケースもあるため、スキルは「神からの贈り物」と呼ばれているらしい。
では、もしスキルを持つ赤子が15歳になるまで一度もそのスキルを使わなかったらどうなるのだろうか? 本には、ある女性の例が紹介されていた。
彼女は3歳の時、教会の水晶鑑定で「槍のスキル」を持っていることが判明した。両親は娘にスキルがあると喜び、「将来は女騎士だ!」と大いに期待したという。しかし、幼い頃の彼女は体が弱く、槍どころか外で遊ぶことすらほとんどなかった。両親には槍を買うお金もなく、彼女は一度も槍に触れることなく成人式を迎える。
彼女の街の成人式では、まず水晶で自身のスキルを確認し、その後礼拝堂で神に感謝を捧げ、再度水晶鑑定を行うのが習わしだった。彼女も最初の鑑定で槍のスキルを確認し、祈りを捧げた後、再び水晶鑑定を受けた。その結果は――「スキル無し」。
このような事例は極めて稀だが、実際に起こり得るようだ。
逆に、こんな事例もある。
幼い頃から縫い物が好きで、針子の真似事をしていた娘がいた。器用に針を操る娘を見て、母親は「もしかしたら裁縫スキルがあるのでは?」と教会へ連れて行き、水晶鑑定を受けた。結果は「スキル無し」。それでも娘は針子ごっこをやめることなく、10歳になると本物の針子として働き始めた。
そして15歳。最初の水晶鑑定では「スキル無し」だったものの、礼拝堂で神に感謝を捧げた後の再鑑定で、彼女はついに「裁縫スキル」を授かったという。娘は喜び、これまで以上に針子仕事に打ち込んだそうだ。
その後20年間、彼女はひたむきに努力を重ね、王族の衣装を手掛けるほどの腕前になった。しかし、不幸にも病で両手が動かなくなり、針を持つことすらできなくなってしまう。それでも彼女は毎年水晶鑑定を受け、裁縫スキルが失われていないことを確認しては安堵していたという。
「裁縫はできなくなってしまったけれど、この上なく愛している」と、彼女は友人によく語っていたそうだ。そして、亡くなる間際、針を握りしめながら静かに「ありがとう」と言って息を引き取ったという。彼女は裁縫ができなくなっても、生涯裁縫スキルを持ち続けたのだった。
さらに、ある男性の事例も紹介されていた。彼は代々武術に長けた家系に生まれ、自身も幼い頃から剣術スキルを持っていた。彼の家では鍛錬が日常であり、鍛錬すればするほどスキルが上がるのは当たり前だと思っていたらしい。
しかし18歳の時、流行病にかかり1ヶ月間寝込んでしまう。病が完治した後も、彼は剣に触れようとせず、酒と女に溺れる生活が続いた。「今まで剣の鍛錬ばかりだったんだから、しばらくは好きにさせてほしい」と両親に告げ、1年以上も真剣に剣を握ることはなかった。
だが20歳になり、騎士団への採用試験が近づく頃には本格的に鍛錬を再開した。しかし、以前のように体が動かず、周囲に八つ当たりばかりしていたという。試験当日、水晶鑑定を行うと、彼の鑑定結果は――「スキル無し」。
これらの事例から、スキルは神からの贈り物であり、その贈り物を授かった者は、感謝の気持ちを忘れずに日々を過ごさなければならないのだろう、と本は締めくくられていた。
私は、普段スキルを便利なものとして使っている。もし急になくなってしまったら、この世界では生きていけないかもしれない。スキルに対して感謝しているつもりだけど、これで本当に大丈夫なのだろうか? 本を読んだことで、不安な気持ちになってしまった。
リオが私の様子に気づいたのか、声をかけてきた。
「キャロル、どうしたの? 少し顔が怖いけど……」
「ねぇ、リオは持っているスキルに感謝してる?」
「感謝? もちろんさ。スキルもだけど、僕は出会いにこそ感謝しているよ」
マッドも会話に加わってきた。
「キャロルは何を読んでたの?」
マッドに先ほど読んでいた箇所を見せると、すごい勢いでページをめくっていく。速読スキルって、読むのが早すぎる。
「俺もスキルに関する本は何冊か目を通したよ。人によって見解は様々だけどね。スキルの数は人の数ほどあって、まったく同じものは一つもない。同じスキル名でもできることは人によって違うし、上達速度も違うらしい。ただ、まったく同じではないが遺伝はするようだ。そうやって王族や貴族はスキルを継承しているらしいよ。それと、俺たちのスキルの数は、本を読む限り異常だと思う。平民は持っていない者も普通にいるし、多くても3つだ。あとは、村や街でスキルや魔法を使っているのを見る事ってあまりないよな? 誰もが魔力は持っているし、属性も必ずあるけど、日常使いできるほどの魔力量は持っていないみたいなんだ」
「僕もスキルの本は読んだけど、一つ気になったことがあるんだ。自分のスキルは、見たいと思えば簡単に確認できるのに、どうしてわざわざスキルを調べるのに水晶鑑定をするんだろうね?」
リオの言うように、私もそこは少し気になっていた。他の人にも見てもらうためなのだろうか?
マッドが考える仕草をしながら言った。
「実は俺も気になっていたんだ。もしかしたら、普通は自身のスキルを見ることができないのかもしれない。いずれにしても、まだまだ分からないことだらけだな」




