十九話 薬・内蔵生食・泣き虫両生類
中央騎士団本部、会議室。
その円卓に、七人の人間がついている。
その中の一人、ジェイルは、卓に突っ伏し、重低音で唸っている。
「…あの、なんですか、これ」
「気にするな、団長殿のバッドトリップ… いつもの事だ」
ジェイルの姿に戸惑う、黒髪に白いメッシュを入れた青年に、バコプロが返した。
現在ここに集合しているのは、中央騎士団の第六部隊までの隊長である。
「それで、俺っち達はどうして急に召集かけられたワケ?」
両眼をバンダナで隠した陽気な声の男、第二部隊隊長、ナメス・グルッペン。
「ナメス、バッドトリップ中の団長じゃ、意味も無く召集なんざ、よくある事じゃろ」
下顎が機械になっているガラガラ声の男、第四部隊隊長、ゼモニス・エイグロン。
「おいおい、ダザムにラブラ、捕らえてたカメレオンがどっか行ったんだぞ、それについてちゃんと話した方が良いだろ」
右眼を包帯で覆った長髪の女、第五部隊隊長、クロード・ピスケス。
「良いでしょ… 問題児二人と実験生物… カメレオンを取り戻せば、それで良い…」
両眼を縫われた隻腕の女、第六部隊隊長、リジェクト・ウィング。
「それも、スラッグの第七部隊が捜索してるんだろ? 俺達の出る幕じゃあ無い」
そして第三部隊隊長、バコプロ・ルッテンバウワー。
「つーかさぁ、その白メッシュのヤツは誰なワケ? 初めて見る顔なんですケド〜」
「コイツはホーンテッド、スラッグの代理だ」
ホーンテッドが申し訳無さそうに会釈する。
「ああああああああ…」
ジェイルが再び重低音を響かせる。
「団長は戦闘力だけなら人間最強じゃが、それ以外は論外じゃ、無視してラブラとダザムの処遇を決めよう」
ゼモニスにクロードが賛同する。
「そうだな、ラブラは貴重な頭脳派だし、ダザムは契約者だ」
「でも、基本はカメレオン最優先ね、魔人は色々調べたい、バコプロはどう思う」
「カメレオン調べるなら、ラブラは必須だ、心臓もだ、優先順位は高い方からラブラ、カメレオン、ダザムだ」
「ああ、それじゃ、隊長に伝えて来ます!」
ホーンテッドが立ち上がり、部屋を飛び出た。
「おい待… もう居ねえ」
「はぁ〜〜〜! 隊長怖え〜!」
ホーンテッドは震えていた。
「やっぱ第七で正解だったな… 他のじゃ碌に動けない… 特に第三部隊、アソコはヤバい、肌でわかる」
そして懐から十字架のネックレスを取り出し、首に掛けた。
「騎士団は長居できそうに無いな…」
ジャケットを脱ぎ、本部の窓から飛び出した。
「やっぱ白十字教が一番かな〜」
場所は戻り、キリクジラの体内。
丸呑みされた三人は、そこまで慌てていなかった。
「なあ、また黒翼展開を使ってくれないかい? ちょっと羽根が必要なんだ」
「羽根…? なんに使うんだよ」
「何って… キリクジラの肉が欲しいからだよ、食ってみたいし、調べてみたい…」
肉壁を撫でたり、舐めたりするラブラを脇目に、レヴィオスはそこらを歩いている。
辺りには衣服の混じった肉片など、消化跡が散らばっている。
自分達がこうなるのに、そこまで時間は要さないだろう。
「まあ… 俺らもここから出たいしな… フェーズ」
「はいはいッス〜」
漆黒の翼を広げ、手当たり次第に肉を切り裂く。
そしてその一つをラブラに渡す。
「コイツでいいか」
「おお、切るのもやってくれるのか、助かるよ」
ラブラは受け取ったそれを少し千切り、口に放り投げた。
「ふむ… 独特の甘味があるな… それに硬い… 生食には適さないか」
「その場で食うのか…」
壁の傷口に両腕を突っ込み、振り回す。
「ああ、そのやり方はおすすめしないよ」
「あ?」
「キリクジラは最小個体でも100mを越す… 体内から肉を掘って出るのは現実的じゃ無い」
「んじゃあどうすんだよ」
「さあ?」
「さあって…!?」
肉片が蠢き、血を噴き出す。
「なんだ!?」
「どうやら吐き出そうとしているらしい、痛みか… それとも別の理由か」
別の理由とやらを聞き出そうとした瞬間、肉片がより一層激しく動き、押し出される。
すかさずラブラを翼で包み、そのまま身を任せる。
「オイ、出て来たぞ」
カメレオンの言葉に、二人が目を細める。
「見えんが」
「あの距離じゃあな、俺様にしか見えん」
「早い者勝ちだな」
ダザムの足元から骨の拳が飛び、身体を押し上げる。
「何ッ!? レヴィオスは俺様が殺す!」
それを追い、カメレオンも炎の幕を蹴り上げる。
「利害の一致ならず…か」
飛び出したゲノムを骨が覆う。
「レヴィオス!」
その隙間に転がり込んだカメレオンの蹴りを翼で受け止める。
ラブラを包んでいる翼を広げ、ダザムの方へ投げる。
「カメレオン! お前に聞きたい事がある!」
「俺様には関係無い!」
「お前が聞かなくても言うぞ! なんで俺達を狙ったんだ!」
「理由!? そんなモノ無ェよ! 面白そうだったから! これ以上理由いるかァ!?」
「そうか… 殺す!」
四枚翼を広げ、カメレオンに叩きつける。
「ちっちぇんだよお前はァ!」
しかしそれは全て受け止められ、お返しと言わんばかりの打撃を喰らう。
「たかだか知り合いが数人死んだだけでさァ!」
そして骨の足場の外へ投げられる。
「キッショいんだよ! 俺様の楽しみを奪って! イジョスウを殺して!」
カメレオンの声に涙が混じる。
「ひでぇ… ひでぇよ… どうしてこんな事ができるんだ…」
涙を流して、ゲノムの頭を掴む。
「ふざけんなよぉぉぉぉぉぉ!!」
涙ぐみながら地面に叩きつけ、馬乗りになって顔を殴る。
「やばい… コイツ頭おかしいッスよ…!」
翼で拳を受け、腕を胸に向かって振るう。
襷状の傷から蛍光色の血が溢れ、カメレオンが仰反る。
「お前はこんな場所で自由に動き回って良い人種じゃ無い! ここで殺す!」
ゲノムが雄叫びを上げると、羽根が鮮血色に染まる。
「うわあああああああん!!」
泣き喚くカメレオンと怒るゲノムとの衝突は、巨大な肩胛骨に阻止される。
「今お前らが殺し合うのは非常に困る!」
二人を握った骨が、暗雲へ消えた。
そして降り立った焼灼に目を向ける。
「お前、カメレオンについて知ってそうだったな」
「だったら?」
「お前から聞こう」
暗雲から取り出した巨大鎌と刀を構えたダザムを、蒼炎に身を包んだ焼灼が睨む。
「ついでにお前から心臓を引き摺り出してやる」
19話です。
明日の投稿はお休みです。
申し訳ありません。