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黒翅ゲノム   作者: 鎌糸
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十四話 ドロドロ・メラメラ

炎と羽根、二つの異なる拳がすれ違い、炎の拳が羽根の拳の向こうを捉える。

羽根の拳は解かれ、その主が後方に吹っ飛ぶ。

すぐさま体制を直し、建物を脱出しようと翼を広げ飛ぶも、炎の鞭がその両足に巻きつく。

そのまま床に叩きつけられ、炎の鞭の出所である、焼灼の元へ引き摺られる。

「いっただろう、行かせない、とな」

ゲノムの足に絡ませた鞭を解き、思い切りブン回す。

すると辺りが炎陣に包まれ、二人を閉じ込める。

鮮血と炎で乾いた羽根に包まれた身体を起こそうとするも、片足の鞭が残っており、その動きが阻害される。

そうでなくとも、この場においてゲノムが焼灼に対して有利に動く事はできないだろう。

現在の焼灼は、火球の出現、先程の戦闘で消耗こそしているが、大した負傷は無かった。

一方のゲノムは、身体のベースとなるレヴィオスは右腕を無くし、力の根源であるフェーズの精神が不安定な事による弱体化。

コンディションの差異は明らかだ。

ゲノムはその真紅の瞳を絞り、未だ鮮血を垂れ流す右肩を見つめる。

「ウオオオオオオオオオオオオ!!!!」

そしてしゃがれたレヴィオスの雄叫びが陣の炎を揺らめかせた。

すると右腕の断面から無数の翼が生え、それが折り重なり、腕を形作った。

再生した右手の指一つ一つが不規則に蠢き、ゲノムの口から嗚咽が溢れる。

「オオッ…! ウウッ…!」

自身の血に濡れた右腕を蠢かせ、焼灼に飛び掛かる。

「ガアアアアッ!」

焼灼はそれを避け、肘を背中に撃ち込もうとするが、上半身を捻ったゲノムに捕まり、炎陣の端へ投げられる。

しかし焼灼は炎陣の外へ転がり込み、右腕を思い切り振り上げた。

すると炎陣が火柱を上げ、炎のドームへゲノムを閉じ込める。

「そこでじっくり考えろ、自分の本当の居場所をな」

「オイ! ふざけんな!!」

焼灼の焦げた身体から炎が噴き出、火球となり、建物の外へと火の粉を撒き散らし飛んで行った。


中央(セントラル)のゴーストタウン、その少し手前の街を、進行中のバコプロ達第三部隊は血に染めていた。

しかし、その血は殆どが第三部隊員のモノであった。

この街、レッドビーを通過中、黒い粘液を持つゲノムの不意打ちを喰らい、隊の三分の一程を持っていかれた。

直後、隊は三塊に別れ、今も建物内で様子を窺っている。

肝心のゲノムはダザムが引き受け、十三番目の死神(デス・サーティン)で交戦しつつ、第三部隊の射撃で援護を加えていた。

ゲノムは身体中からドス黒い粘液を飛ばし、時折棒のような翼に粘液を纏わせたモノを振るってくる。

粘液が付着した地面や壁はドロドロに溶け、徐々に気化しているようだ。

(…レヴィオス達の姿とは、何かが違う)

刀を構え、ゲノムへ視線を絞る。

そのドロドロの右腕が僅かに動くと、翼から粘液が発射される。

それを骨の腕で受けると、骨は溶けず、一瞬で粘液が気化した。

背後の暗雲から日本の腕を発射し、文字通りの拳骨を数十回叩き込む。

やや上方向からの攻撃の対処に気を取られたゲノムの身体に、建物の一階から無数の弾丸が撃ち込まれる。

しかしそれらは体表の粘液に沈み込み、それを纏った弾丸が逆流、団員達の脳天を貫いた。

「っチィ、あの野郎、どう言う事だ?」

二階で様子を窺っていたバコプロは舌打ちをし、窓から銃口を出した。

そして引き金に指を掛け、骨の拳を粘液のドームで受けるゲノムへ瞳を引き絞る。

拳を受ける瞬間、粘液のドームには僅かな隙間が空く、そこへ上手く撃ち込めば、ゲノムの脳天、もしくは眼に弾丸が直撃する。

骨がドームの右端に叩きつけられ、粘液が飛び散る。

(ここだッ!)

ほぼ同時に引き金を引き、魔力の爆ぜる音と共に、魔法陣と十字架の刻印された細長い銃弾が、どんな鉄道をも遥かに凌駕するスピードで、ドームの隙間へ潜り込んで行った。

遠距離射撃において、中央騎士団でバコプロに並ぶ者は存在しない。

その巧みな腕で放たれた鉛は、ゲノムの右眼を潰し頭の中へ入り込み、更に顎をも貫いて地面へ刺さった。

粘液のドームが崩れ、骨の拳がゲノムの身体を地面へ埋めた。

弾丸は十字架の刻印によって四つに割れ、二つはゲノムの頭の中、二つは地面へと突き刺さっている。

それぞれに刻印された魔法陣が赤く輝き、炎の竜巻を起こす。

「アッガアアアアッ!!??!?」

大きく避けた口と、赤黒い眼から炎が噴き出し、目の前の炎と共にドロドロの顔を焼いた。

それを見て、しばらくは攻撃が来ないと判断したバコプロが、溶け落ちた窓から顔を出す。

「オイ! ダザム! これはどういうことだ!?」

「わからん! だがコイツはレヴィオスの変身した姿とは明らかに違った! 別の黒翼展開体(ゲノム)だ!」

「いや、そいつはレヴィオスとフェーズ本人だ」

火球が半壊した街中に降り立ち、ゲノムの顔中から上がる炎を吸収した。

「なんだと!?」

焼灼が肩まで地面に埋まったゲノムへ歩み寄り、その頭を鷲掴みにすると、力一杯引き抜いた。

「コイツは、もう人間の事はどうでも良かったんだ、当たり前だよな、仲間が死んだレヴィオスにはなんの目的もない」

バコプロが照準を焼灼へ合わせ、大声で問う。

「目的ならあるだろ、レヴィオスは知り合った女子生徒を縫血とかいうツギハギ魔人に殺された、少なくとも、お前みたいな魔人とは協力しない筈だ」

焼灼は。

「ハッ!」

と呆れたように笑い、気絶したゲノムを背負った。

「俺と縫血は敵同士だ、共にヤツを討つ、と言ったら、スムーズに協力してくれたぜ」

そういうと、焼灼は再び火球となり、飛び去っていった。

「逃さねえ!」

死神の腕が伸び、その長い指で火球をがっしりと掴むが、複数の炎の渦が指の隙間からうねり、蛇のように空中をクネクネと飛んで行った。

「形変えられんのかよ!?」

遠くへ離れた数体の炎の蛇は、再び火球となり、消えていった。

「あの方角は…! やっぱり《スペクターシティ》に向かっているぞ!」

「ああ、だが消耗しすぎた、それに、ヤツらは信用に値しなくなった、追う理由は無い」

「待てよ! アレがハッタリの可能性もある!」

「確証が無さ過ぎる! 一旦本部へ戻る! それに、生き残ったのはオレとお前、そして隊員が三人だ、こんなんじゃ、あの二体とはやり合えない」

そういい、生存した隊員を連れて引き返すバコプロを、ダザムはしばらく棒立ちで見ていた。

(レヴィオス… いや、アイツは違う… だが、もう一人黒翅族がいるなら、絶対戦力に組み込みたい…)

「絶対に手に入れる…黒翅族の力を…!」


十四話です。

映画を観に行こうとしたらチケット購入の直前で満席になりました。

時勢が時勢なので罪悪感が凄い。

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