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目覚め

ついカッとなって書きました。

楽しんでいただければ幸いです。

 薄暗い地下室は、酷くおぞましい空気に包まれていた。


 石造りの空間を照らすランプの火に、怪しげな実験器具や摩訶不思議な道具たちの影が踊り、一層恐ろしげな雰囲気を引き立てる。


 中央には複雑な魔法円が描かれ、その中央に、黒髪の少女が横たえられていた。少女の身体は、大きなシーツに覆われている。その少女は、この上なく均整の取れた体つきと、美しい顔立ちをしていた。地下室の冷たい床に横たわる少女はまるで雪花石膏で出来た彫像か、あるいは、きわめて美術的な趣向に富んだ蝋人形のようであった。


 烏の羽のような紫色の艶を帯びた流れる黒髪に、絶妙な調和を示し見事な配置が為された顔の造作。しかし、その天使のような美貌は、今は死人のように青白く色褪せていた。


 静寂が支配するその場に、突如、男の声が響いた。


 魔法円の前に立つその男は、頭をすっぽりと覆うフードのついた漆黒のローブを纏い、少しでも露出を避けたがっているように両手には黒い手袋を嵌めている。それなりに整った顔立ちは青年ほどの歳に見えるが、その髪は老人のように白く染まり、瞳も悠久の時を経たかのように灰色に濁っていた。


 男の声は時に低く、唸るように、時に朗々と、時間の感覚が失われるほど長い時の中で、呪文を唱え続ける。


 その額には、玉のような汗が浮かび、次第に声がかすれ、震えだす。


 やがて、その時が来た。


 床に書かれた魔法円が淡い光を帯び、徐々にその輝きを強めていく。と同時に、黒髪の少女の身体も、光を漏らし始めた。


 その色は、少女の髪と同じ紫黒。


 少女から漏れ出した光は、男の前へと集まる。すると男は一度詠唱を止め、右手の手袋を外した。現れたのは凝固した血液のような赤黒に染まった爪を持つ真白の手。その甲には見るからに邪悪な刻印が施されていた。男はその手を集った光の中に突き入れる。


 男は魔法を行使する代償として自らを襲う激痛に歯を食いしばりながら、手の震えを抑え、指を動かし始めた。その指の後をなぞるように、空中に黒い文字が浮かび上がる。詠唱を再開すると、その文字が独りでに宙を舞い、少女の耳から、頭の中へと吸い込まれていく。


 どの位の時が経ったであろうか。


 突如男ががくっと膝をつく。途端、魔法円から光が消え、地下室の照明は弱々しいランプの火だけとなった。


 恐ろしい沈黙がその場を支配した。


 と、少女を覆うシーツがぴくりと動いた。少女の手足が震え、シーツをそっと揺さぶり、まるで息を吹き返したかのように、静かに胸が上下する。ゆっくりと目を開けた少女は、広がった黒い瞳孔で、ぼんやりとした眼差しを辺りに注いだ。


 手足の震えは、よりはっきりと、やがて自然な動きに変わる。少女が起き上がると、身体を覆っていたシーツがずれおち、その美しい肢体が一糸まとわぬ姿で男の前に晒された。少女はなおも焦点の定まらぬ瞳を彷徨わせていたが、やがて顔を上げ、自分の目の前に立つ男を見据えた。


「目が覚めたか」


 低くしゃがれた、老人のような声で男が問うと、少女はこくりと頷いた。


「そうか。肉体に違和感はあるか。どこか痛んだり、気分が悪かったりはするか」


 重ねて問う男。心配するような色は微塵もなく、ただ状態の確認を目的とした事務的な口調だった。少女は両手で自分の顔や身体をぺたぺたと触って確かめると、男に向き直り、ゆるゆると首を振った。


「そうか」


 今度は少女が尋ねた。


「あの……ここ、は」


「ここは俺の研究室だ」


「わたし、どうして……」


「ここに連れてきたのは俺だ、正確には俺の使い魔だが、まぁそれは良い。森で野垂れ死んでいたおまえを見つけて、ここに運んだ。そして、今し方生き返らせたわけだ」


「死ん、だ……?」


 状況が飲み込めていないのか、困惑したようにオロオロと首を振る少女に、男が溜息を漏らす。


「聞きたいことは多いだろうが、説明は食事をとりながらだ。服はそっちだ。ついてこい」


「はい」


 男がランプを手にし、扉を開けて外に出る。地下に伸びた廊下を通って食堂へ向かう。少女は男の後を静かについてきた。一糸まとわぬ姿のまま。


 男が止まると、少女も足を止める。


「…………」


 いつの間にか手袋をはめ直した手を額に当て、男は振り向く。


「部屋の机に服があっただろう。それを着てこい」


「はい」


 少女は肯くとぺたぺたと足音を響かせて地下室へと戻っていった。しばらく待つと、扉が開き、少女が出てくる。


「着ました」


 出て来た少女の姿に、男は目を見張った。男が用意したのは、簡素な女物の衣服だったが、本来首を通すはずの穴から左手が生え、右腕の穴から少女の黒髪だけが覗いている。


「俺は服を着ろと言ったはずだが」


「着ました」


「その状態は着ているとは言わん」


「はい」


 結局男が手伝って少女に服を着せた後、二人はようやく食堂へ向かった。




最初なのに変に短くなってしまった。


最近の吸血鬼見てるとみんな人間とは別の種族って扱いの者が多いけど、元をたどると、死体が蘇って吸血鬼になるのがほとんどみたいです。そもそもヴァンパイアって言葉自体「動く死体」の一種って扱いだったらしい……。

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