第24話 駆除・開戦
手始めに、例の果実を取り出して、『獣』に向けて投擲する。結果を見る前に、二発目を投げつける。
一発目の果実は、二度目の遭遇のときと同様、鼻から噴き出した水で果実は、『獣』に届く前に砕かれ、散らされていた。
果実を迎撃するとき以外、『獣』はこちらに近づいてきている。手を止めれば、一気に近づかれるだろう。
大して固くはないとはいえ、果実を弾き砕くだけの威力を持つ水流など、攻撃に使われたら危険極まりない。二発目の投擲も同じように水鉄砲で迎撃された。このまま、飛び道具で水を使い切らせれば御の字だ。
ちょうど三発目が打ち抜かれたところで、『獣』が立ち止まる。こちらに向けられた『獣』の鼻はまるで――
「――ッ!」
私のいた場所を飛んできた液体が通り過ぎていく。大きく避けすぎたことで、揺らいだ体勢を立て直しながら、4発目を投げつける。
直後、悪寒が私を襲った。体勢を立て直すのを取りやめ、床に転がり込む。
一瞬、頭上を液体が飛んでいくのが確認できた。『獣』は、今までのように水を吹きかけるのではなく、果実ごと私を撃ちぬこうとしてきたのだ。
「あんなのゾウにもできないだろうがっ……!」
こと闘争に関しては、『獣』の学習と適応の能力は際立って高い。これ以上果実をただ投げたとしても効果はないだろう。
柱の後ろに隠れながら、どろどろした毒にまみれた手袋を外して、予備の手袋を身に着ける。
――入り口の細工に果実を使いすぎたか。いや、アレは必要な一手だった。
手近な瓦礫をつかんで、柱の陰の外へと投げる。そのまま、反対側に飛び出した後、一瞬振り向くと、瓦礫が撃たれ、弾かれたのが確認できた。さすがに瓦礫を砕くことはできないようだ。
立ち止まらないように動き続けながら、今しがた外した手袋を『獣』の方へ投げ上げる。ちょっとした賭けだったが、討たれたのは手袋の方だった。
「頭が良すぎるのも、考え物だよなっ!」
持ってきた食糧を取り出して、手袋と同じように投げ上げる。命中。袋が弾ける。もはや、臭いのついていない囮でも、宙を舞うものは何でも迎撃しなければ気がすまなくなっているらしい。
2食目。外れる。
3食目。命中。袋は弾けない。
精度も速度と威力も落ちてきている。おそらくは、射程もだろう。
「これなら……!」
鞄の中の簪――昨日、偲に名前を教えてもらった――を『獣』の顔をめがけて連続して投げつける。これなら、一本ずつ迎撃することはできない。
簪は、水の壁に阻まれる。今までのように狙い撃つのではなく、水を噴き出し続けて、壁を作り出しているのだ。
水の壁が消えたところに、適当な瓦礫を投げつけると、『獣』が鼻を使ってそれを弾いた。ようやく弾切れらしい。
水が使えなくなったのを裏付けるように、『獣』は手近な瓦礫に鼻を伸ばす。
伸ばして、鼻を止めた。
「だよな。よく覚えた臭いだろ?」
思わず、口角が上がる。このあたりの瓦礫には、さっきまで投げつけていた果実の汁を塗ってある。おかげで、水を使い切らせるために投げつけられる果実がほとんどなくなってしまったが、最終的に果実ごと撃ちぬくようになっていたことを思えば、正しい判断だったと言えるだろう。
いずれにせよ、周囲にある瓦礫をこちらに投げつけられない以上、つぎに『獣』がとる手は限られるはずだ。
ずしん、という音を響かせ、『獣』がこちらに向かって一歩を踏み出す。
接近戦、腕の牙で串刺し、幹のような足で踏みつけ、鞭のような鼻で薙ぎ払う。あの『獣』の、おそらくは本来の戦い方だ。
『獣』は、今までと変わらず、歩いているとしか思えないのにも関わらず、迅速に距離を詰めてくる。そう、真っ直ぐ、詰めてくる。
「偲っ!」
合図を出した直後、『獣』の頭の上に鋭い鉄筋が飛び出した瓦礫が降り注いだ。




