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第23話 仕込み、弾、自己暗示

 中央区画についてすぐ、私たちは『獣』を迎え撃つ準備にかかった。入り口付近に軽く細工をした後、ロープを使って瓦礫を『獣』にぶつけるための仕掛けを仕込み始める。


「偲」

「どうぞ」


 灯りにぶつかった虫が時折バチリと音を立てるのをよそ目に、鉄筋が飛

び出ている瓦礫を集めてきてから、ロープを括り付ける作業を繰り返す。必要になるものをすぐに偲が手渡してくれるのでありがたい。


「昨日、確認してたのはこれだったんですね」

「さすがに瓦礫に殴られて鉄筋で刺されてなんて状態になれば、大抵の『獣』は倒せるわ。まあ、今回は転ばせる方が目的だから、別にこれで仕留められなくてもいいのだけれど」

「それにしたって、やりすぎじゃあないですか?」

「多い時はもっとつくるわよ?今回は急いでるから少なめだもの」


 廃材を複数ぶつける手は、建物ごと焼く手のつぎに私がよく使う手だ。弾をそこらからこれるので、穴の開いた太い釘と金槌、十分な強度のロープあたりを持ちこむだけで、現地で罠を作れる。しかも、どの道具も罠を作るとき以外にも重宝するというおまけつきだ。

 普段は罠を二段構えにするところまで細工をするのだが、さすがに今回はそんな時間はない。だから、瓦礫とは別の弾を用意しておく。即席の罠としてはこれで十分だろう。


「これをここから落とすんですか?」

「ええ」


 今私たちが陣取っているのは、三階の吹き抜けになっている場所だ。身を乗り出せば、二階にある入り口を見下ろせる。

 ロープの弾が結び付けられた側とは反対側を、床の割れ目に差し込んだ金釘を使って固定する。


「えっと、瓦礫をそこの吹き抜けからぶら下げて、下を通ったら落とすんですよね」

「そう、単純でしょ?」

「そのハーケン、ええっと、釘なんですけど抜けちゃいませんか?」

「支えられる限界は知ってるもの。そのあたりは心配しなくていいわ」


 今回使う瓦礫の重さくらいであれば、ぎりぎり支えられるはずだ。


「あとは、これくらいかしらね」

私は、階下で見つけた麻酔銃とその弾を取り出す。

「結局、麻酔は見つかりませんでしたね……」

「そう残念がる必要はないわよ、有害なら何でもいいんだから」

「――あ、毒」

「そういうこと」


 私は、さっき大量に用意した果実を握りつぶして、果汁を弾――弾と言うよりは注射器に近い。まだ私が小さかった頃、こんな針を刺された記憶がある――に詰める。

 果実はさっき大量に使ってしまったので、もうほとんど残っていない。


「他に何か準備をしますか?」


 簡易的な飛び道具をいくつか作ろうか思案したところで、時間が来たことを悟る。


「……無理ね。来ちゃった。偲、私が下で囮になるから、合図したら瓦礫を落としてちょうだい」

「分かりました。どうか、気をつけて」

「なに、いつもやってるのと同じ仕事をするだけよ。すぐに終わらせてくるわ」


 3階から2階に下りて、入り口の真正面に陣取る。できる限りの用意はした。あとは、落ち着いて、いつも通りやるだけだ。

 『獣』の気配が、次第に近づいてくる。こんな風に、自分を囮にして相手を罠にはめるやり方に、先生はよく文句をつけていたっけ。けれど、あれは先生がファンブルだから言えることだと思う。

 私は、徒手空拳で相手を吹き飛ばすことも、剣や槍を用意することも、天井を歩くことも、あらゆる知識を駆使することもできないのだ。

 だから。使えるモノをすべて使おう。

 臭いを探るためか、橋の外に現れた『獣』の影は鼻を高々と上げていた。私を見つけたのか、『獣』の気配が鋭くなる。今まで気付かなかったが、この感覚の変化は今度から使えるかもしれない。

 ――先のことを考えるのは悪いことではない。けれども今は不要だ。

 橋の方の橋灯が逆光になって、迫ってくる影は黒々としていた。起ち上げられていた鼻が降ろされたかと思うと、『獣』は半分しか残っていなかった入り口の扉を除ける。


「吹き飛ばして来たら避けるつもりだったのに。図体がでかい割に細やかだよな、お前」


 自分を切り替えるため、先生の口調を真似る。

 アラガの駆除屋は、自己暗示だなんて評していたっけ。それほど高尚なものではなく、私の精神構造が単純なだけなような気がするが、それだって、私が使えるモノには違いない。偲の前では恥ずかしくてできなかったけれど、今なら聞かれる心配もない。

「じゃ、やろうぜ。化物」

 私の声に応えるように、『獣』が咆哮した。

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