Deviance World Online ストーリー7『嵐の王』
黒狼の予備策は発動したはずだ、第一の太陽は降臨した。
だというのに、結果はドレイクが覚醒している。
状況への理解が及ぶより早く、黒狼は叫んでいた。
「逃げッ、」
られない、逃がさない。
胸へ雷撃が命中している、ドレイクの速度を捉えることなど赦されないのだ。
神の前に坐する人間風情が、神の御業を。
奇跡を認識するなど、あってはならない。
雷撃、それ自体に質量はなく物理的なダメージは少ない。
だが雷属性によるダメージ、および追加で発生するデバフを語れば話は別だ。
状態異常無効を所持しているとはいえ、物理的にエネルギー的に拘束されてしまえば話は変わる。
「筋肉の……、強制収縮かッ!!」
「喋れるなんて随分と効きが悪い、それにその一撃で死んでないのもだ。さすがは不死王、ゴキブリやネズミみたくしぶといねぇ」
「黒狼っ、ちぃ!!」
いつの間にか、この海域が嵐に包まれている。
暗雲が立ち込め雷が鳴り響き、彼女の背後で後光のように雷が発生しておりすべての環境がレイドボスに変貌したドレイクを祝福しているようで。
あるいは、黒狼の未来を暗示するように環境が押しつぶしてくる。
可能性という、未来を。
「バカ、こっちを見るんじゃ」
認識するより早く、村正が背後より刺される。
環境『雷雨』においては空気中に過剰な水分が存在しており、それはつまりドレイクの雷がいつでもどこからでも発生することを証明していた。
黒狼に向けられた一撃よりも随分弱い攻撃ではあるモノの、状態異常耐性を高レベルで所持していない村正にとっては致命的な一撃に他ならない。
嘔吐、混乱、眩暈などのデバフが発生しながら、甲板を転がり落ちる。
いつの間にか、船が傾いていた。
大嵐だ、海が時化っている。
激しく大きな揺れ、ドレイク以外はまともに立つことすらできない。
その船の上で、彼女はもう一本槍を握っていた。
「GG」
次の瞬間、黒狼が吹き飛ばされた。
雷撃が放たれ体は異質に曲がり、船から突き落とされ。
抵抗はできない、状態異常ではなく筋肉の硬直痙攣によって動きを封殺されているのだ。
僅かな身じろぎすら許さないその攻撃で、黒狼は盤面から突き落とされてしまった。
「さて、フラッグはどこにあるんだい?」
「さっき突き落とした黒狼が持ってるよ、お生憎様だ手前」
「嘘は、嫌いだ」
雷が村正を再び貫いた、今度は天から降る雷。
純粋なる雷霆、絶叫にすらならぬ叫び声で全身が焼け焦げる。
声すら上げられない地獄の中で、ドレイクは薄っすらと笑みを浮かべながら再び尋ねた。
「どこにあるんだい、フラッグは」
二度目はない、文字通り一言一句違えず次は殺す。
間近で見れば見るほど分かる、神の権能という恐ろしい代物がドレイクの力が刻一刻と上昇している事実が。
状況の全てが、最悪だ。
神は、神でしか殺せない。
神の力は、神の力でしか争えない。
雷神となったドレイクを攻略するには、最低でも神の持つ権能がなければならず。
或いは世界を書き換え上書きする心象世界が必須であり、そのどちらも村正はこの瞬間において用意できない。
つまり残される手段は僅かばかりの、些細な抵抗。
判断は早かった、手元に在る刃を即座に喉に突き刺す。
如何なる手段を用いても、言葉を話させなければ何も語れない。
どれ程神域に在る力と言えど、不可能を可能にすることこそが不可能。
神のパラドックスが成立し得る以上、神は絶対的であっても絶対ではないのだから。
「嘘、だろうが」
「答えないなんて選択、アタシは許さないよ」
されども、絶対的ではある。
次に放たれた雷で村正の体が再生された、それも強制的に。
ただの雷撃ではなかった、レイドボスの力が神の権能がその程度なわけなどなかった。
瞳と瞳が接吻を交わすほどの距離で、ドレイクの吐息が顔に掛かるほどの近さで。
彼女は、三度質問する。
「どこに、あるんだい?」
海が、再び荒れる。
全身が水浸しになり、無力感が全身へ倦怠を走らせ神の圧倒的な権能の偉大さを思い知らされ。
それでも、まだ瞳は燃えていた。
「言ったろうよ、黒狼が持ってるってな」
「そう言うわけだ、お生憎様」
式装肆式、通称『天使砲』。
ワルプルギスに設置されていた二門の砲台から極太のビームが発射され、ドレイクの船を穿つ。
海に落ちたはずの黒狼が悠々と一枚の外套を翻し、大きく笑い声をあげながら空を跳んでいた。
その姿はまさしく怪物であり、或いはそうつまり。
「同じフェーズへ行ってやるよ、ドレイク。お前も知ってるんだろ? この不文律を、神は神でしか殺せないって言うな」
神域へ、入門する。
状況は切羽詰まっている、去れども条件自体は達成していた。
あくまでドレイクの神化によって発動がキャンセルされ、神へ至るための権能がかき消されただけ。
神へ至るには神の器と肉体が必須であるのは知っての通り、神の肉体と言っても過言ではない神殺しの称号を受けた肉体こそがコレであれば不足するのは神の魂だけ。
本来ならばそれを太陽の権能を用い補足するのだが、別段ヤヤウキ・テスカトリポカに固執しないのであれば話は異なる。
そしてもう一人、黒狼は神域に在る怪物。
殺せずの英雄を知っているはずだ、半神の英傑を。
「そのマントで防いだってわけかい、アタシの雷撃を」
「大正解、そしてもう一つ。コッチの武器の正体は、分かるか? まぁ分からねぇだろうよ」
『斧剣:帝帯』、かの栄光が用いた史上最強の兵装。
未だそのすべてを引き出すことなど能わず、力の形すらも理解し得るに至らないが。
けれども数多の怪物を殺した刃には確かに宿っている、その神たる権能が。
ヘラの、栄光が。
黒狼は深淵側の神々に好かれている、或いは最初に接触したのが深淵側であったが故に深淵の力を用いやすい。
だが別段、天獄に干渉できぬ道理もないはずだ。
何せ黒狼は自らの心象を用い、自らをこう規定する存在なのだから。
名前のない誰か、と。
「ぶっちゃけ、賭けだ。成立するかもかなり怪しいラインの行動だったが、どうにも上手く行っちまったらしい。或いは真なる神がお前に天罰を与えようとしたのかもな、不倫は許さないってさ」
ヘラクレスに与えられた祝福、ソレを無理やりさかのぼり神に対して『呪楔』を発動したのがよかったらしい。
神の力によって記憶を抹消されたヘラクレスにも通用したスキルなのだから、神の力を蝕み奪う可能性があると推測をしていたが使い道が絶妙になかったのでいい機会だったと笑えば斧剣をインベントリに収納し力を刃としながら握り掴む。
ヘラの力を、つまりは。
「あれ、剣にしたはずなんだが……」
刃が付いた拳、メリケンサックだ。
一瞬だけ困惑するが、まぁそういうこともあると強引に納得し魔力で形成されたメリケンサックを装備する。
あくまで権能、力の具現化であるためにそれはアイテムでなくドレイクの雷と同様の代物だが一時的な装備は可能であり。
また装備することにより、攻撃力も防御力も大幅に上昇する。
少なくとも神に至ったドレイクに概念的にも、ステータス的にも追いついたというわけだ。
天使砲の攻撃を無傷とまではいかないまでも防いだドレイクは、体のあちこちから煙を出しつつ現れた。
さぁ、第二ラウンドの開幕と行こうか。




