第17話 結太ら、イーリスの気をそらそうと努める
「…………怪しい」
龍生と咲耶のことを訊ねたとたん、様子がおかしくなった面々に、イーリスはじとっとした視線を向ける。
結太らは、彼女と視線を合わせないようにしながら、
「あ……あー、腹減ったーーー! 早く食おーぜ。さっさと食っちまわねーと、この炎天下じゃ、腐っちまうかもしんねーし!……なっ? そーだろ、トラさんサギさんっ?」
「あ、ああ――。そっ、そーだぜ結太! 真夏の気温を甘く見ちゃいけねーんだぜっ? さっさと食っちまわねーと、食中毒になっちまうからなぁっ?」
「う、うん! 危ない! 危ないよ!……ほっ、ほらっ。結太さんの好きなツナマヨおにぎりとか、からあげとか、玉子焼きもあるよっ。ほらっ。ほらほらっ。さあ食べて! どんどん食べて!」
そう言って紙皿を手にすると、鵲は、素早く結太の好物を盛り付け、彼に渡した。
結太もためらうことなく受け取り、
「おっ。サンキューサギさん! ほんじゃ、いっただっきまーーーっす!」
大口を開けておにぎりにかぶりつき、もぐもぐゴックンしてから、『うめえうめえ』と絶賛し始めた。
桃花が彼らのスピードについて行けず、ボーっとしていると、
「伊吹様! 好きなものを言ってくだされば、取り分けますよ? ご遠慮なく、どんどん食ってくださいね!」
東雲も紙皿を手に取り、ニカッと笑う。
桃花はこくこくとうなずいて。
「あ、はいっ。……え、と、じゃあ……BLTサンドと、宝神さん特製の、パリパリサラダをお願いします」
「はいはいっ。BLTサンドとパリパリサラダですねっ。毎度ありぃーーーっ」
東雲は消毒液入りウェットティッシュで両手を拭くと、紙皿にサンドウィッチとサラダを盛り付け、桃花に渡す。
桃花は『ありがとうございます』と受け取った後、やはりウェットティッシュで両手を拭き、サンドウィッチに小さな口でかぶりついた。
イーリスは、彼らの様子を探るような目つきで眺めていたが、
「お嬢。お嬢はどちらから行っときます? まずは、フルーツ辺りからですかね? モモとかお好きでしょう? 照り焼きチキンのサンドウィッチも、確かお好きでしたよね?」
いつの間にか隣に座っていた国吉が、紙皿と箸を両手に持ち、ニッと笑って訊ねる。
彼女は納得行かないように、むうっと口をとがらせていたが、空腹の前では、意地を張り続けることは難しかったのか、
「……じゃあ、モモからいただこうかしら」
ボソッとつぶやき、ウェットティッシュに手を伸ばした。
三十分後。
結太は、降参するかのように、
「あーーーっ、食った食ったーーーっ! もう、何も入んねーーーっ。さすがに食い過ぎたーーーーっ」
大声で言い放ち、レジャーシートの上に仰向けで寝転がった。
咲耶の分を考えなくてもよかったはずが、やはり、作り過ぎたのだ。
弁当は、彼女抜きで食べ切れるほどの量ではなかった。
それでも、どうにかこうにか、全て平らげたため、結太の胃袋も、他の者達の胃袋も、同様に悲鳴を上げていた。
イーリスはお腹を押さえながら、
「でも……ねえ? 全部残さず、食べ尽くす必要あったの? クーラーボックスに入れておけば、夕食くらいまでなら、腐る心配はしなかったんじゃない……?」
げんなりした顔で、疑問を投げ掛ける。
結太はう~んと唸りながら、体を横に向け、
「そりゃ、まあ……。そーなんだけど……。何故か、『全部キレーに平らげなきゃ』って気分に……なっちまったんだよ……な……」
そう言って、ハハハと乾いた笑いを発した。
ただ一人、その流れに加われなかった桃花は、
「あの……ごめんなさい。わたしが、あんまり食べられなかったから……。皆さんに、ほとんど協力出来なくて……」
シュンとうつむき、消え入りそうな声で謝る。
結太はガバッと起き上がり、ぶるぶるぶると、お風呂上がりの犬のように首を振った。
「いやっ! 勝手に『全部食わなきゃ』って気分になってたのは、俺らだから! 全部食べなきゃいけねーって決まりなんてねーんだし、伊吹さんは気にする必要まったくねーよ!」
「……楠木くん……」
桃花にうるうるとした瞳で見つめられ、結太の心臓はドックンと跳ね上がり、たちまち全身が赤く染まった。
イーリスはからかうように、
「あーらあら。結太ったら、桃花に見つめられただけで、真っ赤っかになっちゃって。相変わらず、わかりやすいわねー」
片手でパタパタと自分を扇ぎ、フフンと笑う。
「な――っ、バ――……ッ!」
絶句する結太と、『あー、熱い熱い』などと言って、自分を扇ぎ続けるイーリスを、桃花は『え?……え?』と、不思議そうに見比べている。
結太はますます真っ赤になって、
「てっ、ててててめーっ、このっ、イーリスぅうううッ!! 勝手なこと言ってんじゃねーぞッ!?」
握り締めた拳を震わせ、ギッと睨みつけるが、彼女はぷいっと横を向いて立ち上がると、
「別荘に戻って、ちょっと休んで来るわ。――国吉。しばらくアタシ抜きで撮影してて。どーせ、午後からメインで撮るのは、結太と桃花の二人なんでしょ?」
それだけ言い置き、素早くビーチサンダルを履いて、足早に別荘方向へと歩いて行った。




