第11話 結太、従者三名を呼びに行く
イーリスに、『トラさん達に頼んで、連れてってやる』と約束してしまった結太は、まずはダイニングを覗きに行き、そこにいないとわかると、隣にあるキッチンを覗いた。
そこには鵲と国吉がいて、野菜を切ったり、ボウルで何かを泡立てたりと、既に、昼食の準備に取り掛かっているようだった。
結太は、早速国吉に、イーリスに頼まれたことを告げると、彼は苦笑して頭を掻き、
「ああ……〝ポーズ集のモデル〟ですか。確かに、ここに来る前におっしゃってましたね。……でも……うぅ~ん……。そりゃあ、ちょっと……。ん~~~、難しい……かも、しれないですねぇ……」
困っているような、心配しているような、微妙な顔つきで考え込む。
結太はきょとんとして、『何が難しーんだ?』と思いつつ首をかしげたが、それに気付くと、国吉は再び苦笑して、
「いや、まあ……何と申しますか。こればっかりは、訊いてみないとわかりませんしねぇ」
などと言い、握っていた包丁を、コトンとまな板の上に置いた。
何か含むものを感じ、詳しく教えてもらおうと、結太が口を開いた瞬間。
不安げに顔を曇らせた鵲が、
「モデル……って、顔も写らなきゃダメなんでしょうか?」
妙に沈んだ声で訊ねる。
国吉は目を瞬き、
「え?……さあ? それは……撮るポーズにも、よるんじゃないですかね?」
「……そう、ですか……」
ただでさえ低い鵲の声が、ますます低くなっている。
どうやら、顔を撮られることを気にしているらしいが、その気持ちは、結太にも理解出来た。
鵲は、とても優しい心の持ち主だ。
やや気の弱いところもあるが、仕事は丁寧だし、人当たりも良い。
しかし、強面で体格も良く、身長も高い彼は、初見で『怖い』『ごつい』と思われてしまうことが多かった。
それがコンプレックスになっているので、写真を撮られることに、あまり積極的になれないのだろう。
結太も、生まれつきの仏頂面のせいで、写真を撮られることが、あまり好きではない。
同じようなコンプレックスを抱えた二人は、わかり合える関係だった。
「ダイジョーブだって、サギさん! ポーズってことは、体の方が重要なんだろーし。顔まで撮るってことは、きっとねーって」
気が重いのか、体を丸めてしまった鵲を励ますため、わざと明るめの声で言ってみる。
鵲は微かに笑い、『そうだね』と覇気のない声でつぶやいた。
「時間が掛かりそうですから、弁当を作って持って行きますよ。そうすりゃ、わざわざ昼飯食いに、こっちに戻って来る必要もないでしょう? 出来るまで少々お時間いただきますが、出来たらすぐ行きますからって、お嬢にお伝えしておいてくださいますか?」
国吉に頼まれた結太は、一人でキッチンを後にした。
そこからまっすぐ、部屋で休息を取っているという東雲を誘うため、彼の泊まっている部屋を目指す。
東雲と鵲が利用している部屋は、龍生の部屋のすぐ横にある、少し大きめの部屋だ。
ちなみに、国吉は二階の一室を使用している。
いくら広めとは言え、大人の男(しかも揃って大男だ)三人で一部屋に泊まるというのは、むさいし、暑苦しいという話になったのだそうだ。
(トラさん、眠ってんのかな? ヘリの操縦って、かなり神経使うって話だし……眠っててもおかしくねーっつーか、無理ねーよなぁ。……う~ん……。眠ってたら悪ぃーけど、トラさんだけ連れてけないってなったら、またイーリスがギャーギャー言いそーだし……)
部屋の前まで来ると、結太はそんなことを考えつつ、しばし、ノックするのをためらっていた。
すると、いきなりドアが開き、
「おっ? 結太じゃねーか。どーしたんだ、こんなとこで?」
眠そうな顔で、頭をガシガシ掻きながら、東雲が廊下に出て来た。
結太は『ナイスタイミング!』と心で手を叩くと、彼の左腕を両手で素早くつかむ。
「ちょーどよかった、トラさん! 疲れてっとこ悪ぃーけど、オレと一緒に海に来てくれ!」
「へっ?……一緒に? 海に?……ってまさか、また何かあったのか!? 今度は誰が落ちたってーんだ!?」
たちまち顔色を変えた東雲は、結太の肩に両手を置いて、前後に大きく揺さぶった。
「ち――っ、違っ、違ーん、だっ、よっ、とっ、トラ、さんっ! こ、今度はっ、そーゆー、ことっ、じゃっ、なくっ、てっ」
結太はぶんぶん揺さぶられながら、何とか声を絞り出す。
その言葉にハッとなった東雲は、ようやく揺するのをやめた。
「え、違う?……また誰かが海に落ちたとか、溺れたってことじゃねーんだな?」
「違ぇーよ! イーリスにモデルを頼まれたんだよ! 知り合いが、漫画描くのに必要だってんで、ポーズ集だか何だかが欲しいって話でさ。それ撮るの、協力してほしいって言ってんだ。イーリスと伊吹さんは、先に海行って待ってる。サギさんと国吉さんは、弁当作って、後から来るってさ」
東雲は胸元を押さえ、大きなため息をついた。
また何事か起こったら、すぐさま、龍生に知らせに行かなければいけない。そうではないことがわかって、ホッとしたのだろう。
「……けど、何なんだよその、ポーズ集?――ってのは? 漫画家が……えーっと……何だって?」
イマイチ、状況が把握出来ていないようで、東雲は怪しむように眉をひそめる。
結太は再び彼の腕をつかむと、
「とにかく、一緒に来てくれよ! 行けば、イーリスが説明してくれっから!」
急くように告げた後、強引に腕を引っ張り、エントランスへ向かった。




