第14話 面片会メンバー、ダイニングでまったりする
昼食を終えると、東雲達は素早くテーブルの上を片付け、三段ワゴンを押して、ダイニングから出て行った。
ドアが閉まったとたん、
「はぁあ~~~、食った食った~~~。さすがの私も、これ以上は無理だぁ~~~。もう、何も入らん~~~」
咲耶は苦しげな声を上げ、両手を投げ出すようにして、テーブルへと突っ伏した。
「まあ、あれだけ食べれば無理もない。――確か、お好み焼きは七~八枚、たこ焼きは数十個は食べていたよな?」
龍生はクスリと微笑んで、正面の席でダウンしている咲耶を、愛おしそうに見つめる。
その言葉にピクリと反応した咲耶は、両手をついて勢いよく半身を起こすと、
「いや! お好み焼きは十枚だ! キリの良いところでやめておいたんだからな。たこ焼きだって、五十個は食べたはずだぞ!?……うん! 絶対、五十は超えてた!」
まるで、『実際食べた量より少なめに言われることは、我慢ならない』とでも主張するかのように、数を訂正して申告した。
龍生はすぐさま、『そうだったか? それはすまなかった』と謝り、愉快そうにクスクス笑っている。
(えぇ~~~? 普通だったら、彼氏の前では、もっと〝可愛らしい自分〟を演出してみせるものじゃないの? 実際食べた量より、少なめに申告するのが、乙女心ってもんよね? なのに、咲耶はまるっきり逆だわ。……ハァ。これでも、恋する乙女なのかしら? 呆れて物も言えない)
ゲンナリした表情で咲耶を見つめ、イーリスは深々とため息をつく。
次に龍生に目を移すと、
(咲耶も咲耶だけど、秋月くんも秋月くんよ。大食い自慢する彼女に呆れるどころか、楽しげに――……ううん。ただデレ~っと、見つめてるだけだなんて。普通だったら、お好み焼き十枚、たこ焼き五十個食べる彼女なんて、ドン引きするわよね?……この二人、揃いも揃って大物……ってことなのかしら? それとも、実はただの大バカ……?)
しげしげと物珍しそうに眺めては、首をかしげたり、横に振ったりしている。
その様子に気付いた結太は、
(あー……。イーリスのヤツ、二人見て呆れてるっぽいな。オレと伊吹さんは、この二人の〝バカップル〟っぷりには、すっかり慣れっこになってっけど……。イーリスはまだ、そこまでの境地には達してねーんだろーな)
小さく何度もうなずいてから、フッと笑みをこぼす。
(……ま、無理もねーか。学校じゃ、この二人ってやっぱ、〝憧れられる存在〟なんだろーし。他のヤツらの前だと、キリッとしてるっつーか、優等生然としてるっつーか……。とにかく、隙がねーもんな。なのに……二人の世界に入っちまうと、とたんに龍生はヘラっとしちまうし、保科さんは保科さんで、普段のクールっぷりからは信じらんねーほど、可愛くなっちまうんだよなぁ……。顔真っ赤にしたり、照れて龍生をポカポカ叩いたり、涙目で睨みつけたり……。一瞬にして、〝恋する女の子〟に変貌しちまうっつーか……。あんな保科さん、龍生と一緒にいる時しか見らんねーよ。だから、貴重っちゃあ貴重なんだけど……)
結太は両手で頬杖をつき、しみじみと咲耶を見つめた。
咲耶は眩し過ぎるほどの笑みを浮かべ、龍生と話し込んでいる。
内容に耳を澄ませてみると、咲耶は龍生に向かい、鵲の担当したお好み焼きと、東雲の担当したたこ焼きが、どれだけ美味しかったかを説いていた。
龍生は微笑みを湛えたまま、恋人の話に、黙って相槌を打っている。
咲耶は、昼食がいかにおいしかったかの説明を終えると、
「――でな? あまりにも美味かったから、鵲さんに、お好み焼きのレシピと、ふっくら焼くためのコツを訊いたんだ。すっかり脳にインプットしたから、これでもういつでも、弟達に作ってやれる。……倭も建も、大喜びするだろうな」
年の離れた双子の弟達の顔でも思い浮かべているのか、フッと口元をほころばせた。
優しい眼差しで恋人を見つめていた龍生は、
「相変わらず、咲耶は弟さん達に甘いな。彼らも、お姉さんのことが大好きみたいだし――」
そこで一拍の間を置くと、結太と同じように頬杖をつき、思わせぶりに、恋人の顔を覗き込んだ。
「少し――……いや、かなり妬けるな。側にいない時でも、そこまで気に掛けてもらえるなんて。俺も、咲耶のようなお姉さんが欲しかった」
咲耶は『な――っ!』と言葉を詰まらせると、たちまち真っ赤になり、
「まっ、……また、おまえは……そーやって、バカなことを……。だっ、第一、私が……おまえの、姉さんだったら……私達は……その……ええと……けっ、……けっ……こん、出来なくなってしまう……が、おまえは……そ、それでいー……のか?」
視線をあちこちさまよわせ、しどろもどろになりながらも、しおらしいことを口にする。
龍生は幸せそうにふわりと微笑むと、
「ああ、そうか。それは困るな。咲耶と結婚出来なくなるのなら、やはり俺は、弟にはなりたくない」
などと言い、咲耶をまっすぐに見据えた。
咲耶はチラリと龍生を窺い、視線が重なった瞬間、再び目をそらし、『そっ……そー……だろ?』と、消え入りそうな声でつぶやく。
ここまでの様子を、黙って眺めていた結太とイーリスは、
(……う、へぇ~~~~~……)
心でゲンナリした声を上げ、同時に大きなため息をついた。




