第10話 面片会メンバー、部屋割りを開始する
別荘に着くと、まず、それぞれが泊まる部屋を決めようという話になった。
別荘は二階建てで、ゲストルームは一階に二部屋、二階に六部屋あり、どこでも好きな部屋を使っていいということだった。
結太は、二階の東の角部屋を選び、女性陣は、中央の、向かい合わせの二部屋を選んだ。
一人ずつ使用しても、何の問題もない部屋数だったが、どの部屋にも、ベッドは二台ずつ用意されている。『桃花と私は、前来た時も二人一部屋だったし、今回もそれで構わん』と、咲耶が主張したのだ。
イーリスはクスリと笑い、『あら。アタシはてっきり、咲耶は、秋月くんと一緒の部屋に泊まるのかと思ってたわ』などと言って、咲耶をからかった。
咲耶はたちまち真っ赤になり、『ふざけるなッ!!』『そこに直れッ、成敗してくれるッ!!』などと喚き立て、危うく、取っ組み合いのケンカになるところだったのだが……。
「ダメだよ、咲耶。藤島さんは、これから一週間、共に暮らす仲間なんだから。その初日に、気まずくなるようなことをしてはいけない。良い子だから、落ち着いて」
龍生に後ろから抱き止められ、やんわりとなだめられているうちに、冷静さを取り戻したようだった。
イーリスはイーリスで、ボディガードの国吉に、
「何やってんですか、お嬢。これからお世話になるって人達に、ケンカ売るような真似してどうするんです?」
片手で頭をグシャグシャっとされながら、お説教されていた。
イーリスは、ムッとしたように口をへの字にすると、
「ちょっと、気安く頭に触らないで! 髪が乱れるじゃない!」
国吉の手をピシャリと払い、顔を赤らめながら文句を言う。
国吉は、払われた手をさすりさすりしながら、『へいへい』と軽く返事をし、苦笑いしていた。
その様子を、結太は少し離れた場所で、呆れて眺めていたのだが、
(着いた早々こんな感じで、これからの一週間、ホントにダイジョーブなのか?……どーやら、保科さんとイーリスは、相性悪そーだしな。平和に過ごせる気なんざ、全然して来ねーんだけど……)
一抹(?)の不安を覚え、深々とため息をつく。
そしてふと、誰かからの視線を感じ、何気なくそちらへ目をやると、思いきり桃花と目が合った。
桃花は一瞬、大きく目を見開いた。
――が、すぐに困り顔になり、その顔のまま、微かに笑った。
まるで、『なんだか、前途多難だね』とでも、言っているようだった。
同意するつもりで、すぐさま苦笑してうなずくと、桃花は嬉しそうに微笑んだ。
「おっ? なんだなんだ結太? 伊吹様と、アイコンタクトで意思疎通ってかぁ?……ヘヘッ。ずいぶん親しげじゃねーか。見せつけてくれんなー、このこのぉっ」
二人の様子に目ざとく気付き、東雲が、からかい口調で結太の頭を小突く。
彼のことを、幼い頃から知っている東雲は、改まった場以外では、くだけた口調でやり取りすることが多いのだ。
結太は、東雲に小突かれた部分を片手で押さえ、真っ赤になりながら、『べっ、べつにっ! そんなんじゃねーって!』と慌てて言い返す。
桃花もたちまち真っ赤になり、うつむいてしまった。
その時。
龍生が、〝パン!〟と両手を打ち鳴らし、皆の気を自分に集めてから、
「そろそろ昼食の時間だ。皆、荷物を部屋に運んだら、ダイニングに集合してくれ。鵲達が、昼食を作っておいてくれたんだ。すぐに食事にしよう」
一同をぐるりと見回し、一時解散の号令を発した。
部屋に入り、荷物をドサッと床に置くと、
「あ~~~、疲れたぁ……」
結太はぐったりして、ベッドにうつぶせに倒れ込んだ。
イーリスのバッグには、いったい、何が入っていたのか。
肩が外れるのではないかと、心配になって来てしまうくらいに重かった。
……まったく。持たされる方の身にもなってみろ、という感じだ。
おまけに、別荘に着いたとたん、女二人の小競り合いときている。見ているだけで、ゲンナリしてしまった。
(イーリスも保科さんも、気が強ぇーもんなー。ちょっとしたことで、争い事に発展しそーで、ヒヤヒヤしちまうぜ。一週間、無事に過ごせりゃいーけど。……ハァ。まったく。これから、どーなっちまうんだろーな……)
本当に、どうしてこんなことになってしまったのだろう?
最初から予定通り行っていれば、龍生は咲耶と、自分は桃花と、一週間、夢のバカンスを過ごせるはずだったのに。
(イーリスを邪魔者扱いするつもりはねーけど……。ねーけどっ……やっぱ、何をするにも、いろいろメンドーにはなったよなぁ……)
龍生とは、〝結太は桃花と、龍生は咲耶と、二人きりになれる機会を作れるよう、協力し合う〟という協定を、事前に結んであった。
それなのに、急にイーリス(と国吉)が加わって来たものだから、彼らの計画を実行に移すのは、かなり難しくなってしまった。
イーリスのことだ。
恋人同士の龍生と咲耶の邪魔などは、さすがにしないだろうが……結太と桃花の邪魔ならば、面白がって、して来そうではある。
この一週間の内に、今度こそ桃花に告白するのだと、結太は心に決めている。
その邪魔をされるのだけは、絶対に御免だった。
(くっそ~っ。イーリスさえ大人しくしててくれりゃー、告白だけなら、うまく行きそうなんだけどなー。……まあ、いー返事もらえるかまでは、わかんねーけど……。でも、嫌われてはいねーと思うんだよ! さっきも、トラさんが余計なこと言って来るまでは、いー感じだったし。……うん。嫌われてはいねー。ぜってー、それは間違いねー!……と、思う……)
心配せずとも、とっくに両想いなのだが。
鈍い二人は、未だに、お互い〝両想い〟であることに、全く気付いていない。
龍生と咲耶も、二人の気持ちには、かなり前から気付いていて、協力する気も満々だ。
しかし、『告白は、絶対本人の口から聞きたいはずだ』と咲耶が言い張るので、龍生もその意を汲み、自分達から伝えるのはよそうと、今は見守っている状態だった。
(とにかく、イーリスに勘付かれる前に、二人きりになっちまえばいーんだよな! それさえ可能なら、あとは告白あるのみ!……よーっし! 気合入れて行くぜーーーッ!!)
結太はベッドから起き上がると、胸の前で両拳を握り締めた。
心の内では、『二人きりになりさえすれば、あとは告白あるのみ』などと、簡単そうに言っているが。
桃花の前では、自分がいかに〝ヘタレ〟と化してしまうかを、一切考慮していない。
そのせいで、今までにも幾度かあったチャンスを、かなり無駄にして来ているのだが……どうやらそのことにまでは、気が回っていないようだ。
「――っと。いっけね。荷物置いたら、ダイニングに集合すんだっけ。そー言や、昼過ぎてんだもんな。そりゃー腹も減るワケだ」
部屋の時計を見ると、十二時半に近い時刻だった。
部屋に入った時には確認しなかったので、どれだけ時が過ぎてしまったのか定かではないが、急がなければ、またイーリス辺りが、ブツブツ文句を言って来そうだ。
(けど龍生、『鵲達が昼食を作っておいてくれた』……とかって言ってたよな?……ん~……、サギさんの作った昼食かぁ。トラさんなら、『妹のために、毎日朝食と弁当作ってやってた』とかって、言ってたことあっから、まだわかんだけど……。サギさん、飯なんか作れんだっけか? 料理するなんて話、一度も聞ーたことねーけど。……ダイジョーブかな?)
鵲の料理の腕前については、少々不安もあったが、龍生は『鵲達』と言っていた。
龍生が料理するなどとは、まず考えられないが、国吉なら、毎日イーリスの食事を作っているのだ。まあ、問題はあるまい。
結太は納得してうなずくと、部屋を出、小走りでダイニングへと向かった。




