第9話 面片会メンバー、ヘリから降りて別荘に向かう
結太達が島に着いたのは、あと少しで、太陽が真上に来る時刻だった。
ヘリから降りたとたん、強い日射しが全身を照り付ける。
今までアイマスクをしていたので、余計に眩しく感じられたのだろう。皆は思わず目を細めた。
白い砂浜からの反射光も強烈で、じわじわと汗が滲む。
イーリスは、『ヤダっ、日射し強過ぎ! 日焼け止めは念入りに塗って来たけど、早く塗り直さなきゃ、あっという間に焼けちゃうわ!』と、一人で大騒ぎし始めた。
寝起きだったため、結太は特に考えもせず、
「しょーがねーだろ、夏なんだから。日射しが強ぇーのは当たりめーだ。ちっとばかし焼けたところで、どーってことねーだろ? いちいち騒ぎ立てんなよ」
などと口にしてしまい、ハッと我に返る。
焦ってイーリスに視線を移すと、案の定、思いきり不満そうな顔で、結太を睨みつけていた。
「何よ、その言い方!? 結太は、アタシの真っ白でスベスベな肌が、日焼けでボロボロになってもいいってゆーワケ!?……あったま来た!! そーゆー無神経なことゆー人には――っ」
イーリスは大きなバッグを結太の胸元に押し付け、
「罰として、アタシ達の荷物を半分運んでもらうわ!!――ほらっ、桃花も咲耶も早くっ! この失礼な男に、重い方の荷物を渡しなさいっ!!」
何故か、桃花と咲耶にまで、命令口調で告げる。
自分の荷物だけならまだわかるが、桃花と咲耶の分まで結太に持たせようとするイーリスに、桃花はギョッとし、咲耶は、
「必要ない。私の荷物は、このバッグだけだからな。これくらい一人で持てる」
即座にキッパリと断った。
イーリスはつまらなそうに顔をしかめたが、すぐに気を取り直し、今度は桃花だけに向かい、
「じゃあ、桃花は? 両手に提げてるバッグ、すごく重そうじゃない。片方、結太に持ってもらいなさいよ」
などと訊いて来て、桃花は慌てて首を振った。
「う――っ、ううんっ、ダイジョーブ! これ、見た目ほど重くないし。わたしも、自分で持てるからっ」
二人続けて断られ、バツが悪くなったイーリスは、『あっ、そう』と言い放つと、再び結太をギロリと睨む。
それから、肩に掛けていた大きなバッグを下ろし、素早く彼の首に掛けると、
「みんな自分で持つそうだから、アタシの荷物を全部預けてあげるわ!! 光栄に思いなさい!!」
高飛車に言い捨て、呆然とする結太を残し、別荘のある方へと、さっさと一人で歩き出した。
数分後。
ヘリから残りの荷物を下ろし、駆けつけて来た東雲と共に、結太達が別荘に向かって歩いていると、
「あら。秋月くん」
前を歩いていたイーリスが、急に立ち止まった。
イーリスと自分の荷物を抱え、ヨロヨロした足取りで、うつむきがちに歩いていた結太は、おもむろに顔を上げる。
すると、確かに龍生が、反対側から歩いて来るのが目に入った。
彼の後ろには、もう一人の専属ボディガードである鵲と、イーリスのボディガードである国吉までもが控えている。
龍生は彼らと目が合うと、片手を挙げて合図した。
「ようこそ、秋月家の別荘へ。今日は天気も良くて、風も穏やかだったから、快適なフライトだったろう?」
龍生がニコリと笑って訊ねると、咲耶はむうっと口をとがらせ、
「そーだな。アイマスクなんてものを付けなくて済んでいたなら、快適だったかもしれないな。アイマスクさえ付けていなかったら、なっ!」
ふいっと顔を背け、内心では不愉快だったことを、態度で示してみせる。
龍生はフッと微笑み、咲耶の頭に手をやると、数回優しく撫でてから、
「そんなに怒らないでくれ。家訓のことや、アイマスクのことを言い忘れていたことは、悪かったと思っている。謝るから……ほら、機嫌直して」
最後の台詞は、耳元に口を寄せ、咲耶だけに聞こえるようにささやいた。
彼女はたちまち真っ赤になって、龍生の手を素早く払いのけると、
「こっ、このバカッ!! おまえはまた、人前でこーゆーことを――っ。人のいるところではするなって、何度言ったらわかるんだおまえはっ!?」
胸の前で両拳を握り締め、照れ隠しで叱り付ける。
それでも龍生は、余裕の笑みを浮かべたまま、
「はいはい。わかったわかった。以後、人前では慎むことにするよ。こういうことは、二人きりの時にたっぷりと……ね。それならいいんだろう?」
からかうように、顔を覗き込みながら訊ねた。
咲耶は更に真っ赤になって、『ば…っ、バカバカバカバカッ!! そーゆーことも人前で言うなぁああああッ!!』と喚きつつ、龍生の体をポカポカと叩く。
(……ああ……。またこいつらは、しょーこりもなく……)
島に着いて早々、恋人同士の〝イチャイチャ〟を見せつけられ、結太やその他の者達は、ガックリと肩を落とした。
この二人の甘々ぶりを見せつけられるのは、慣れて来てはいるのだが、独り身には、やはり辛い。
「おいっ! いつまでもイチャついてねーで、早く別荘に連れてけよ!――暑いんだよ!! 焼けるとうるせーヤツもいんだから、そいつが騒ぎ出さねーうちに、とっとと案内しろって!!」
一同を代表し、結太は〝バカップル〟に向かって声を上げた。
『誰がイチャついてるって!?』と反論しようとする咲耶をなだめ、
「ああ、すまない。見せつけるつもりはなかったんだが……。二日振りに咲耶の顔を見たら、愛しいという想いが溢れて来てしまってね。一瞬、周りが目に入らなくなってしまった。本当に申し訳ない」
龍生は相変わらず、さらりと恥ずかしいことを言ってのける。
それに対し、『だからもうっ! そーゆーこと言うなってっ! 言うなって言ってるのにぃいいっ!!』と、再び咲耶がポカポカやり出すと、龍生がハハハと笑いながら、彼女の頭を撫で……。
そこはもう、エンドレス〝イチャイチャ劇場〟と化すのだった。
(だから……もーいーって……。おまえらが幸せだってーのは、ジューブンわかったから……。頼むから、もー……やめてくれ……)
そんな結太の願いも空しく、このバカップルは、数分ほどイチャイチャし続けた。
その傍らでは、二人の隙を窺うようにして、恋人同士の仲睦まじい(?)姿を、スマホカメラで撮り続ける、鵲と東雲の姿があり……。
(よしっ! 坊のお幸せそうなお顔、無事GETしたぞ! 今度こそバレないように、お二人のラブラブ写真を、龍之助様にお送りしないと――!)
(龍之助様だけじゃねえ! 龍臣様と京花様にも、赤城さん介して『写真送れ』って命じられてんだ! ぜってー失敗出来ねーぞ!)
従者二人は、大胆且つ用心深く、完全に〝二人の世界〟に没入している龍生と咲耶の様子を、確実に写真に収めて行った。
実はこの二人、かなり前から、二人のラブラブ写真を撮るべく、機会が訪れるたびに、盗撮を試みていたのだ。
しかし、残念ながら、毎回龍生に発見され、その場で即、写真を消去させられていた。
それでも彼らは、決して挫けない。
彼らは龍之助からだけでなく、赤城からも、『龍臣様と京花様も、お二人のお写真をご所望です』と、再三にわたって催促されていた。そう簡単に、諦めるわけには行かないのだ。
ここで一応説明しておくと、龍臣は龍生の父親で、京花は母親だ。
二人共に、今は海外に住んでおり、息子に会える機会は、年に数回あるかないかだった。
だからこそ、だろう。毎日家で会える龍之助以上に、写真を望む気持ちが強い。
赤城も、事あるごとに〝写真入手〟をしつこく命じられ、ウンザリしている様子だった。
(そう! これはあくまで、なかなか愛息子にお会い出来ない、龍臣様と京花様の御為!)
(決して、俺らの〝坊ちゃんのレア顔コレクション〟のためじゃねーんだ!)
鵲も東雲も、そう己に言い聞かせ、主とその恋人に気付かれぬよう、こっそりスマホを向け続けた。




