第3話 面片会美少女トリオによる水着売り場攻防戦・2
自分の選んだ水着を〝恥知らず〟などと決めつけられ、イーリスも頭に来たようだ。咲耶と同じく顔を赤くしながら、早口でまくし立てる。
「はああっ!? 何言ってるのよこんなの普通でしょ!?――こっちの水着は〝三角ビキニ〟。〝トライアングル・ビキニ〟とも呼ばれてるわ。〝ビキニ〟って言ったら、このタイプを思い浮かべる人が、一番多いんじゃないかしら? こっちの水着は――っ、……まあ、確かに、三角ビキニより布地の面積が少ない、〝マイクロ・ビキニ〟と呼ばれるものに近いかもしれないけど。だから、そこら辺のプールや海に、これを着て行けって言われたら、恥ずかしがる気持ちもわからなくはないわ。でも、アタシ達が行くのは、秋月家所有の無人島なんでしょ? 水着姿を見せるのは、恋人である秋月くんだけ――っと、違うか。結太と、数人のお付きの人もいるんだったわね。でも、そのたった数人でしょ? 数人程度の視線なんて、無視すればいいのよ! せっかく、彼氏と海で遊ぶんだもの。これくらい大胆な水着を選んであげなきゃ! 秋月くんだって、咲耶がどんな水着を選ぶのか、楽しみにしてるに違いないんだから! いつもより、ちょっぴりセクシーなものを選んであげるのが、思いやりってものよ! 彼女としての務めよ! 彼氏に対するサービスよ、サービス!」
「……お……思いやり?……務め?……サー……ビス……?」
イーリスの、やたら長くて熱のこもった主張に、咲耶は一瞬鼻白んだ。
しかし、ハッとした後、長い髪が大きく跳ね上がるくらい、思いきり頭を振ると、
「なっ、何が『サービス』だッ!! 秋月は、そんなもの求めたりしないッ!! 私が露出の少ない水着で現れたとしたって、絶対に文句なんか言わないッ!! 言うわけないッ!! あいつは、そんな軽薄な男じゃないんだッ!! ここまで際どく肌の露出をしなきゃ満足しないような、そこら辺にいる男どもと一緒にするなぁああッ!!」
店中に響き渡るほどの大声で、咲耶はイーリスに言い返す。
初めのうちは、ポカンとしていたイーリスだったが、ふいに、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、
「ふぅ~~~ん。……あっ、そう。そこまで言うんだったら、いーわよ? アタシの言ってることが正しいのか、咲耶の言ってることが正しいのか、勝負しましょう?」
また何を思ったか、唐突に提案して来た。
「え――っ?……『勝負』?」
不思議そうに目を瞬かせる咲耶に、イーリスはこっくりとうなずいてみせる。
「そう、勝負よ!――別荘には、咲耶が好きだって言ってた、学校指定の水着を持って行けばいいわ。それを着た咲耶を見て、秋月くんが、少しもガッカリした表情を見せなかったら、咲耶の勝ち。見るからにガッカリした表情をしてみせたら、アタシの勝ち。……どう? この勝負、受けて立つ気はある?」
不敵に笑うイーリスに、咲耶の目は微かに揺らいだが、それも一瞬のことだった。
咲耶は、挑むようにイーリスを見つめて言い切った。
「当たり前だ!! 受けて立ってやろうじゃないかッ!!」
「フフッ。それじゃあ――島での勝負、楽しみにしてるわ」
イーリスは満足げにうなずくと、もう用はないと言うように咲耶に背を向け、今度は桃花に向き直った。
「――ってことで、咲耶の水着を選ぶ必要はなくなったから、次は、桃花の水着を選んであげるわね。桃花は、どんな水着が好き?」
小首をかしげながら訊ねるイーリスに、桃花は驚いたように『えっ?』と声を上げ、目を見張った。
それから、慌てて周囲をキョロキョロと見回すと、ある方向で目を留め、トテトテと近付いて行く。
「え……っと……。あっ、これ! こんな感じのが好きです」
ハンガーラックから一着の水着を抜き出し、イーリスの方へかざしてみせる。
彼女は素早く寄って来て、桃花から水着を受け取ると、納得したようにうなずいた。
「なるほどね。可愛らしい、ワンピースタイプの水着。桃花のイメージにピッタリね。でも……これじゃ、ちょっと幼過ぎるんじゃないかしら? ただでさえ、桃花は若く見られがちなんだから、もう少し頑張って、ウエストくらいは、肌見せした方がいいんじゃない?」
「ええっ?……は、肌見せって……。ウエストってことは、つまり……ビキニ、ってことですか?」
たちまち顔を赤らめて、桃花は眉を八の字にし、うつむいてしまう。
すかさず咲耶が寄って来て、桃花を背に庇うようにして立ち塞がると、
「やめろイーリスッ!! 私だけならまだともかく、桃花にまで、破廉恥な水着を着せようとしてるんじゃないだろうな!? だとしたら絶対に許さんぞッ!?」
敵意丸出しで噛み付くが、イーリスは呆れたように目を細める。
「違うわよ。桃花に似合うタイプのビキニは、咲耶のために選んだビキニとは、全く違ったタイプ。――ほら。ここにある〝フレア・ビキニ〟とか、こっちの〝フリンジ・ビキニ〟とかよ。特にフレア・ビキニは、胸元やボトムに、ボリュームのあるフリルが付いていることで、細身寸胴タイプの人でも、ウエストがくびれているように錯覚させることが出来るの。ツルペタ幼児体型の桃花には、持って来いのデザインでしょう?」
「……『細身寸胴』……。『ツルペタ』……『幼児体型』……」
躊躇なく発せられた、イーリスの容赦ない言葉にショックを受けつつも、桃花は消え入りそうな声で繰り返す。
その後、魂が抜けてしまったかのように、真っ白な顔で固まってしまった桃花に、咲耶は焦り、イーリスを思いきり睨みつけた。
「貴…っ様ぁああッ!! よくも、桃花が普段から気にしていることを――っ!!」
「――え?……あら、ごめんなさい。桃花の体型をカバーして、美しく見せる水着を……って思ったら、つい――」
「何が『つい』だッ!! 確かに桃花は、小柄で華奢で、たまに小学生に間違えられたりすることもなくはないが、胸は〝ツルペタ〟じゃない!! これでもカップは、ややB寄りのAだッ!! 〝ツルペタ〟でも〝まな板〟でもないッ!! 寄せて寄せて上げれば、谷間だって出来るんだぞッ!? 決して、決して――っ、小学校低学年並みの幼児体型ではないんだッ!!――わかったか!? わかったなら、訂正して謝罪しろぉおおおッ!!」
店中に、桃花をフォローしているつもりで、かえって追い打ちをかけてしまっている、咲耶の怒りの声が響き渡る。
桃花は無性に泣きたくなったが、咲耶の気持ちは、一応理解しているつもりなので、何も言うことは出来なかった。
ただ、あちこちから聞こえて来る、クスクスと笑う声や、何を言っているかまではわからない、ヒソヒソ声に傷付き、視線を避けるかのように、両腕でそっと胸元を覆った。




