ずっと一緒に
「それで退学してきたんだ?」
「卒業ですよ!白の塔に戻りなさいっていうから」
「勝手に卒業させられたんだ!同じだけど俺は一日じゃなかったからナディーヤよりマシだったんだなあ」
ケント師匠の方がマシなのがちょっと悔しい。
「ですから研修ではなくて、仕事です、ケント師匠が上司なんですよ」
「そうかあ、よかった」
わたしもこれでよかったかも。
この仕事はとても大切だから。
魔術の勉強よりずっとすごい、遠くの誰かのために光を送ろう。
「白の塔の中では要らない仕事のように思われているけど、カーク先生がナディーヤにこの仕事を選んでくれたおかげで、すごいことなんだと勘違いしてもらえる」
本当にすごいでしょう?
その日の夜にはシャラナが来てくれて、卒業のお祝いをしてくれた。
「ナディーヤ、おめでとう、わたしから遠くがよくみえる目をあげる」
「ありがとう」
「集中して遠くをよくみてごらん」
「ああ、そういうことなの?」
「ふふふ、役に立つだろう」
わたしが夢でみていた時は、シャラナが手伝ってくれていたんだって。
研修ではなくて、仕事になったから贈ってくれた。
「重なった異世界が見える、ありがとう、とても助かる」
「わたしも役に立ててよかったよ」
シャラナは優しい友達だ。
重なった世界の一番端にある、歪んだ速い回転をしている世界に光を送っている、別の世界の人たちがみえる。
一つだけ転がり落ちないように、助けている。
「わたしたちも送らなきゃ」
よくみると、その歪んだ速い回転の世界の中からも光が発生している。
「ああ、気が付いた人たちがいるんだ、よかった」
その星の外側の、弱まって滞った光の流れが修復されていく。外側から盾のように守っていたものが少し回復する。
もっと光を送ろう、災いを弾き飛ばすように、盾を強くするために。
「ほら、みてごらん、ナディーヤたちにはない力が届いている」
その世界が汚染されているとしても、人の心は前を向いて明るい力を受け止めている。
「すごい、送っているのは誰?」
「異世界のケントのような者が、水のような人の心に光を送っているんだな」
「わたしたちとは違う担当なのね」
「そのようだ、人の心を担当する者は、力が強い」
誰だかわからない、異世界の強い魔術師に会ってみたくなったけど、それは叶わないんだな。
「ほら、みてごらん」
(ケント師匠!)
重なって回転している星たちが、手を伸ばしてつながろうとしている。
まだ弱い光だけれど、助け合うように光を伸ばして。
「手がつながるようだな、ナディーヤ、もっと光を送らないと」
「シャラナ!わたしたちが送った光がこうなったのね、ケント師匠にも教えてあげなきゃ」
「そうだな、これで一つだけ転がり落ちることがなくなった、みんな一緒に回転する」
「うん」
重なった世界は、光に包まれていた。
(ナディーヤか、どうした?)
(異世界が全部光っています!)
(知ってる、俺たちがそうしているんだろう)
これで、終わりです。読んでいただいて、ありがとうございました。




