演奏会
控え室で食事をしながら、もっと派手にしていこう、と話し合っているとユーリさんが帰ってきた。
「王宮での話はうまくいったよ、あとは歌うだけだね」
と大人の余裕で笑っている。ほんと、いつもこの人の態度には尊敬しかない。有能を絵に描くとこうなるという姿だ。
三時前には楽団の皆さんにあいさつをして、とりあえず三人で歌ってみると、すぐに即興でアレンジして演奏してくれた。それに合わせて歌っているとまたさらに変化していって、ぐるぐると同じフレーズを歌っているのにどんどん楽しくなっていった。
わたしの力だけではなく、曲の力、音楽の力なのか、一曲終わると皆で拍手して喜び合った。今夜は成功すると思わせてくれた。
夜になり昨日と同じ明るくにぎやかなクラブで、わたしたちが紹介されて曲が始まった。
静かに歌いはじめ、どんどん曲が変化して、ヨーカ様が楽しそうに鈴を振って、人々が呆然としたまま一日目が終わった。
「とてもよかったよ、成功したようだ」
とユーリさんが言ってくれた。あまり実感がないけれど。
三日目くらいにまず、ブルー様が笑っていることに気づいた。
無機物の精霊だと思っていたからびっくりした。失礼だが性別も感情もないものだとばかり思っていたのだ。
そして呆然としていたお客さんが、テーブルをたたいていたり歌ったりしてくれた。
最終日には合唱して終わった。
これを成功と思わないわけはない。猫バンドの皆さんヨーカ様ブルー様と抱き合って喜んだ。
夢のような日が終わった。
猫の国ともブルー様とも別れてN国に戻って来る途中、もういいだろうとユーリさんが教えてくれた。初日、わたしとヨーカ様がブルー様に抱きついて交互に頬ずりしまくっていたことを。
なんという……。ブルー様は最初全く無反応だったけど、だんだん柔らかい表情をするようになっていったそうだ。
「あれはあれで良かったんだよ、かなり失礼ではあったけれど。絶対アレクに言っちゃだめだよ」
言えるわけがない。たしかにブルー様は口ぐせのように、「こんなことは初めてだ」と言っていた。
そうだろうとも、わたしだってこんなことは初めてだ、一般庶民でもね。
「ヨーカもミサトもお酒は飲みすぎない方がいい」
とユーリさんが笑っている。止めてよー。
夜遅く家に帰ったら誰もいなかった。あれ?楽しかったのに急に一人ぼっちになってしまった。島の家にも転移してみたけど真っ暗で誰もいない。アレクはどこへ行ったのだろう?
翌日、少し遅めの出勤で白の塔に着くとユーリさんが
「ごめんね、アレクはイーリの部屋に寝泊まりしていたんだ」
とこっそり教えてくれた。アレクとイーリ?
アレクはまた宰相室で仕事中だ。




