猫の国の仕事
翌朝二日酔い気味だったけど、わたしとヨーカ様は、まだ寝ているというユーリさんとブルー様が起きる前に支度を整えて、宿の朝食での待ち合わせの時間前には席について待っていた。
しばらくしてからユーリさんとブルー様がほぼ同時に席につくと、今日の打ち合わせが始まった。
「ミサトに今日歌をうたってもらうんだけど、何か歌えるかな?」
「なんでもいいなら歌えますよ、でもなんでわたしが?」
「ミサトは異世界人だろう、異世界人にはこの世界にはないような特別なおまけのような能力があって、ミサトの能力がなんだかやっとわかったんだ、自分でわかっているかな」
「なんでしょうか?」
「神殿のボランティアに参加したときに歌ったでしょう、子供たちが喜んでいた」
「そうですか?子供たちは呆けていたり泣いたりして、楽しそうではなかったはずです」
「楽しいというのではないかな、ミサトの歌は大勢の人の心の傷を癒したり、光で浄化したりするみたいだよ。その世界の人の心にある不安や不信のようなものを、歌で浄化してしまうすごい魔法なんだ」
「私が王から遣わされたのも、その力をみるためだ」
ブルー様までそんなことをいう。
「魔王様は獣人の国で不安が広がっているのを心配しているんだ。魔王様の結婚で大国②が魔の国と通じて攻めてくる、と不安に思っているようだから」
「いろんなうわさがあるよ、大国は猫の国の存在すら知らないのに大国②との戦を想定している」
だからミサトに歌ってほしい、とブルー様が澄んだ瞳でお願いしてきた、わかりました。
「わたしにできることなら、喜んで」
宿から移動して昨日のクラブのホールに入ると、楽団員の猫さんたちがそろって待っていた。
「ミサトちゃんよろしく、合わせるからちょっと歌ってみて」
昨日と違って普段着の猫のお兄さんが簡単にいうから、小学校で習ったかわいい歌を歌った。
「わかった、伴奏するからそのまま合わせて歌って」
弦楽器の音とわたしの歌がきれいに合ってきて、楽しくなって前をみると、七色に光った曲の上から金銀の不思議なかけらが舞い落ちているようにみえる、すごい。
おお!と誰かが声を上げて、打楽器のポコポコした音がいくつも重なると、弦楽器が増えていって、最後に澄んだ鐘の音が響いた、鐘を打ったのはブルー様だ。
わあー!と歓声が上がって、みんなでうまくいったね、と拍手した。
「これならうまくいくよ、ミサト、がんばろう」
猫のお兄さんにほめられて気分よく宿に戻った。
「衣装はこのままでいいかしら、私、いろいろ持ってきたのよ」
といってヨーカ様が出したのは、ミニスカートの色っぽいドレスだった。わたしにこれを着ろと?
「大丈夫よ、毛皮の上に着ると思えば、ね」
「わたし、こんなの着たことないですけど」
「だって歌手でしょう、仕事なんだから目立ったほうがいいのよ」
なんだかんだいって、着替えさせられた、ヨーカ様もおそろいのミニスカート、セクシーすぎませんかね。
「いいわよー、ユーリがついてるから大丈夫、絶対に客がからんでこないから」
そこ?恥ずかしいってことなんですけど。そしてユーリさんが戻ってきた。
「わっ、ヨーカ、アレクに怒られるからね?」
「大丈夫よー、言わなきゃわかんないでしょう、あの男はまじめだからのぞいてみたりしないわよ、貴族様だし」
いやもう平民ですって。
「じゃあ行くよ、こっちに来て」
その場からユーリさんにくっついたまま転移した先は、最初に転移してきた公園だった。
「いよいよミサトの歌をこの町に響かせることになるよ、五日間、五回もすれば、霧のような心の闇もはれるはずだけど、やってみないことにはわからないね、私はそれを増幅させて光魔法を国中に届けるから」
「そうだ、ヨーカ様とブルー様も、せっかくだから一緒に楽しみましょうよ、一緒に演奏しませんか」
「そうねえ、鈴くらい持てるかも」
「私にこのような経験はありませんが、使命とあればやりましょう。効果をみるにはステージの上のほうがわかりやすい」
少しずつブルー様がうちとけてきている、昨日何かしちゃったのかな?覚えていないけど。
ユーリさんはこれから、執事猫さんの迎えが来たら王宮へ説明に行くと言っていた。ブルー様もその説明に行くはずだったけど。
「私一人で問題ない、魔の国とは友好関係があるんだ、表向きではないけれど」
とユーリさんが言うから、わたしたちと一緒にいることになった。
ブルー様は元々おかたい役職で、王宮の外へほとんど出たことがない秘蔵のかたのようだ。
ブルーの薄絹の流れるような美しい衣装には、異国風のきらびやかな飾りがついてるから、髪を編んだり飾りをつけたりしてみた。うーん、美人、飾れば飾るほど光輝いていく。
「こんな仕事は初めてだ」
白猫と黒猫にいいようにされているけど、びっくりしながら受け入れてくれている。性別不明なブルー様の美しさに大満足したあとで、自分たちも着替えて三人で軽く歌ってみた。
「どう?」
あまりうまくないけど、歌い終わると二人は別世界に行っていたような呆けた顔をしていた。
「これがミサトの力なのだな、心の中が明るくなった気がする、こんなことも初めてだ、私にも心があるらしい」
ブルー様はまじめな顔でおかしなことを言っている。
その後、ヨーカ様は鈴、ブルー様は最後に鐘を鳴らす係と決めて練習した。学芸会みたいで、何度かやっているうちに楽しくなっていった。




