猫の国
「姿だけ一時的に猫系の獣人になれればいいのよ、ちょっとやってみるわよ、変化をよくみていてね」
ヨーカ様は白猫の色っぽいお姉さん獣人になった、ユーリさんも茶色いりりしい猫になっている。
「外見だけ魔力でかえるの、光魔法の光を使って外見をつくっちゃうのよ」
「……」
「そうねえ、あなた猫の人形を持ってたでしょう、あの女の子を自分の外側に作ってみて」
ああ、あれね、形はわかった、あとは魔法。猫耳、肉球、猫のひげ、猫目、にせものを自分の顔に貼りつけるイメージで。
「そうよ、うまいわ」
黒猫の女の子になれたみたい、すごい。
「でも今、ユーリがちょっと手伝ったわね」
「私はずっとミサトと一緒にいるんだ、問題ない、じきに慣れるさ」
そうか、ケントくんの補助のようなことをユーリさんがしてくれたんだ、さすが親子、同じことができるんだね。
そしてユーリさんが猫の国に話を通してくれていて、直接猫の国に転移できるらしい。
「ねえ、私も猫の国に行きたいんだけど、だめかしら?」
色っぽい白猫がウインクした。
「仕方ないな、今回だけだよ」
いいんだ?実は今回は魔王様からの依頼で特別に猫の国に入れるけど、いつも白の塔の魔術師が行ける所ではない。
ヨーカ様は元々その血筋の人で秘密を守れるから仕事に加わっているだけで、人が行っていい場所ではないから、基本的に白の塔にも秘密にしなければならない。
もちろん白の塔が全く把握してないわけではないけど、くわしいことはわかっていないから見聞きしたことすべてを口外しない、と約束している。
「私、この機会をずっと待っていたのよ、あの雑貨屋の猫人形が猫系獣人の国からの輸入品だって知ってたから」
「あ、そうなんですか、だからリアルでかわいい猫人形なんですね」
「ミサトちゃんは見る目があるわよ、あんな特殊な人形の作家はN国にはいないものね」
「じゃ、二人とも、猫の国のためにしっかり働いてもらうよ」
ヨーカ様は旅支度を用意してあった、最初からついて来るつもりだったんだ。
ユーリさんは指定の場所と時間があるらしくて、しばらく休憩、と言って会議室から出て行ったから、ヨーカ様と二人で、白猫と黒猫のままお互いをさわったりして愛でていた。
いいわ、これ、ヨーカ様の色っぽい白猫。
「ミサトちゃんかわいいー、家に持って帰りたいー」
わたしもですよ、なんてことを言い合っていた。
「時間だ、行こうか」
しばらくして、ユーリさんが戻って来るとすぐにその場から転移した。
転移した先は山城がある田舎の城下町で、夜の広い中央公園の中だった、街灯がついているけど薄暗い。
公園の外に出ると繁華街で、通りの向こうから猫の形の人が近づいて来た。
「ようこそ、猫の国へ、ユーリさん、お待ちしておりました」
これは!猫人形の中にいたキリリとした執事猫さんだ、そしてもう一人、みたこともないほど美しい中性的な人が輝いている。
「初めましてユーリさん、王の使いで案内役を務めさせていただきます、ブルーとおよびください」
(ミサト、精霊王の使者殿だよ、高位の方だ)
ユーリさんの声がした。しかしここにはまったく動じないし、話のわかっていない人がいる。
「まあ、なんてすてきな方なの、ブルー様、私、ヨーカと申します、よろしくお願いしますね」
このセクシーな姉さんが、抱きつかんばかりにブルー様に迫ってしまっていた。あ、使者殿も動揺している。ブルー様は、困り果てた顔をこちらに向けてきた。いいのか?
この奇妙な一行は、そのまま中央公園近くの高級な感じのクラブへ入って行った。
広いにぎやかなホールは客であふれていて、中央の奥には立派なステージがあり、猫の楽団が演奏中だった。蝶ネクタイと黒いスーツがこの楽団の制服みたいだ、なんてかわいい。
感動して見つめていると、三毛猫ととら猫さんが黒猫のわたしを見つめていた、いやあ、かわいい、もふもふだあ。
支配人とユーリさんが打ち合わせをしている。王宮から来た執事猫さんは猫の国の偉い方らしくて、支配人がへりくだっている。
「それではミサトさん、明日の九時から最後に一曲歌ってもらいますから、準備をしておいてください。今日は様子をみながら楽しんでいってくださいね」
でっぷりした支配人猫さんが合図すると、ウエイトレス猫さんが席に案内してくれた。料理は執事猫さんのおごりで出てくるらしい。
陽気な曲が演奏されている、乾杯の声がして楽しそう、仕事を忘れてお酒が入り、楽しく飲んだり食べたりした。雰囲気に流されて、ヨーカ様と二人でブルー様をからかっていた気がする、よく覚えていないけど。
だってあんまりきれいだったから。




