N国の生活
N国の城内には、王城勤務の役付以上の人用の居住区があった。ホテルのスイートルームみたい、近代的で、ケントくんの家に初めて来たときはここだったな、と思い出した。二人で住むには広い。
洗濯、掃除にメイドさんが入ってくれて、食事も頼めば出してくれるしキッチンもある。備品も食器までなんでもそろっている。すごい、寮に行きたくなった、これはN国の貴族の生活みたい。
「わたし用の寮ってまだあるのかな」
「ここが気に入らないの?なんでミサトを寮に入れなきゃいけないの?ここで一緒に住んでよ、嫌なら家を城下で探すよ、女子寮になんか行かせない」
当然だという態度。この国では自立するつもりだったのに、アレクに保護されたままなのか。アレクもすべてを失ったはずなのに同じじゃない。
「N国では保護されなくても、自立してアレクと対等にやっていきたいと思っていたのに、わたしの力ってなにもないのかな」
「全部ミサトの力だよ、しがらみのあるアレクシスはもういないんだ。ミサトのためにアレクがいるんだよ、俺はミサトのものなんだよ」
「そ、そお?」
本人はそのつもりなのか、口で言うのは簡単だな。その情熱的な想いは、この世界の人ならでは、なのかな。
個人用の部屋に届いた洋服とバスケットを片付けて、明日の準備をしよう。魔法の訓練だけど、ほうきや杖はいらないようだ、何をするんだろう?ちょっとわくわくする。
翌朝歩いて王立学院の魔術科に来ると、ケントくんとカーク先生か待っていた。
「ミサトさん、今日からよろしく」
カーク先生から説明をきいたあとで、すぐに水の玉を出す練習になった。
「魔法陣なしで、手から水が出ると思って念じてみて」
「はい」
そんなことができるんだろうか?と思っているうちに、ケントくんがすばやく手を重ねて、ふわっと空中に水の玉を浮かび上がらせた。
何するの!と思って振り返ると、ケントくんがにっこり笑ってもう一つ作れとうながした。
カーク先生がそれをみて、ケント!と叫んだときには、わたしがつくった虹色の水の玉が空中にあらわれていた。
「ミサト、その色はなに?」
わかりませーん。
なんだかわからないまま、次に火の玉を空中に出した。
問題なく、ふわりと火の玉が空中に浮かび上がるけど。
「なんだこれ、ミサトの魔力に混ざっている変なものがみえる」
カーク先生とケントくんがひそひそと相談し始めた。
「うまくできているから、ちょっと一人で練習していてね」
「はい」
カーク先生とケントくんが教室から出て行った後は、虹色の水の玉と変な色の火の玉を部屋中にどんどんつくって浮かせた。
たくさんあるからわかるけど、水の玉の虹色と火の玉の変な色は柔らかい色にみえる。
しばらくすると、かわいいパステル色の触れると危ない玉に取り囲まれて、身動きできなくなってきた、これってどうしたらいいの?
「た、たすけて、だれか」
変な声で助けを求めると、突然教室の扉が開いて、カーク先生の驚いた顔とその隣でケントくんがぷっ、と吹き出したのがみえた。
早いけど、今日はそれで帰宅した。
「ただいま」
なぜか部屋の扉に鍵が掛かっていなかったから、声をかけたけど返事がない。
そっと歩いて、自分の部屋の扉を開けてみると、そこには片付けたはずのバスケットが開いたまま落ちていて、人の形のかわいい猫人形があちこちに散らかっていて、その間にハンカチやメモ帳や手鏡があって、真ん中にへたっと座り込んだアレクがいた。
どうしたらこうなるの?




