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【コミカライズ企画進行中】婚約破棄された悪役令嬢は聖女となって竜族と趣味を満喫する  作者:


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16/23

無事、ではない状況になりました

 最近の私はガラスアクセサリー作りが忙しくなっていた。麓の町の雑貨屋で売っていたガラスアクセサリーが好評で、遠くから買いに来る人までいるそうで。


 相変わらずニアのガラス作品のような夜明け色は作れないけど、充実した毎日を送っていた。



 ――――――――あの日までは。



 今日は山の麓の雑貨屋へガラスアクセサリーを卸す日。

 ニアとともに雑貨屋へ行くと、女店主が笑顔で迎えてくれた。


「いらっしゃい。調子はどうだい?」

「いいですよ。アクセサリーはどうですか?」

「売り切れてるよ。次はいつ入荷するのかって聞かれるほどさ」


 私はこっ恥ずかしくなって照れ笑いしか出来なかった。


「なんかさ、あんたが作ったガラスアクセサリーを持ってると、運が良くなったとか、病気やケガが早く治ったとか、言われてるらしいよ」

「普通のガラスアクセサリーなのに、お守りみたいになってますね」

「まあ、それで売り上げが伸びてるんだから良いだろ。おや、色男。なんか顔色が悪くないかい?」

「……いつもと同じだ」


 ニアが無愛想に答える。顔色が悪いというより、なんか困ったような、気まずいような顔?


 首をかしげて見上げる私からニアが顔をそらす。


「オレはいいから、アクセサリーを売ってこい」

「そうでした」


 私は女店主とガラスアクセサリーの値段交渉を始めた。材料費や人件費、相場などをニアから教えてもらって以降は、こうして自分で価格決めて売っている。

 代金をもらったところで、女店主が思い出したように一冊の本を出した。


「あんた、本は読むかい?」

「読みますけど」

「これ、都会で人気の本なんだって。いるかい?」


 私は渡された本を見て、思わず顔が引きつった。本のタイトルは『聖女と悪女』で、内容は聖女を語る女が王子に近づき、国を乗っ取ろうとする。しかし、それを見破った本物の聖女が王子とともに国を守る、というもの。


 そう。あのバカ王子が婚約発表のパーティーで私に婚約破棄をすると言った時の言葉。それが、この話に出てくるセリフそのままだった。


 私は困ったような笑顔を貼り付けて本を女店主に返した。


「ちょっと、こういう本は読まないので」

「おや、残念だね。じゃあ、売り物として店に並べとくよ」

「わざわざ取っておいてくれたのに、すみません」

「いや、いいんだよ。あ、あと、コレ。あんた宛てに手紙だよ。配達人が工房の場所が分からないっていうから、預かっといたんだ」

「ありがとうございます」


 シンプルな白い封筒。差出人は頼れる有能な侍女マリナ。有能なだけに、この手紙は嫌な予感しかしない。


「では、失礼します」


 私はニアを引っ張るように急いで工房へ帰った。



 ガラス工房に戻った私は、リビングに入るやいなや急いで手紙を開けた。


「あー」


 手紙を読みながら思わず声を漏らしてしまう。ある意味、想定内ではあるけど、まさか本当に動くとは。


「どうした?」


 私の声を聞きつけたニアがキッチンから顔をだす。

 なんか、最近は私に関しての反応が早い気が。私、そんなに頼りないかしら。お皿も割らなくなってきたのに。


 近づいてきたニアに私は手紙を見せながら説明した。


「公爵家の使用人からの手紙なのですが、元婚約者である第二王子が私を探しているそうです。婚約発表パーティーで、発表する前に私との婚約を破棄して、別の女性との婚約を発表したのに」

「前にも聞いたが、改めて聞いてもバカの愚行だな」


 紫の瞳が鋭くなる。なんか、かすかに窓も振動したような? え? 地震?

 キョロキョロと周囲を確認していると、ニアが訊ねてきた。


「で、なんでおまえを探しているんだ?」

「あー。バカ王子が選んだ相手が王家の礼儀作法も、勉強もまともにできなくて、周囲が頭を抱えているそうです。当然といえば、当然ですけど。私が十数年かけて学んで身につけたことを、こんな短時間で覚えるなんて、天才以外には無理です」

「それで、なんでおまえを探すことになるんだ?」


 私は肩をすくめた。


「私の父が、バカ王子の相手の無能さに『こんな女より自分の娘が劣っていたというのか! 公爵家の顔に泥を塗るのか!』と、激怒したそうで」

「……面子(めんつ)の問題なのか?」

「まあ、そういう父なので。で、周囲もその意見に賛同しまして。私を探し出して、連れ戻そう。となったそうです」

「自分勝手もいいとこだな」


 私は大いに頷いた。


「その通りです。ただ、バカ王子にしたら自分で婚約破棄しといて連れ戻しにいく、というのがバツが悪いらしく。そこで、私はここに誘拐されたため、バカ王子が兵を連れて救出する、という表向きの理由を作ったそうです」


 私は話を締めくくって、手紙を封筒に戻す。そこに、ニアが信じられない、というように額を押さえて、もう一度確認してきた。


「…………待て。誰が誰を誘拐しているって?」


 私はニアと自分を交互に指さす。


「ニアが、私を、誘拐している」


 私の回答にニアは盛大にため息を吐いた。


「どういう頭をしているんだ」

「バカ王子は自分が婚約破棄したことを、棚よりも遥か高みの山頂に置いて記憶喪失になったようですね。私がいなくなったのは誘拐されたからで、婚約破棄もしていないそうです」

「…………」


 さすがに何も言えなくなったのかニアが黙る。こんな言い訳をするバカ王子も問題だけど、それを通す王も大問題。

 バカにかける言葉はない、とはこのことだ。


 私は軽くため息を吐きながらニアに言った。


「安心してください。こうなることは想定内なので、手は打っています。隣国になりますが、従姉妹が国境沿いの伯爵家に嫁いでいまして。なにかあった時は、そこを頼れるように根回ししておきました。ほとぼりが冷めるまで、そこに引っ越しましょう」

「最初、親に勘当されて行く宛がないって言ってなかったか?」

「そうでしたっけ?」


 私は満面の笑みで、すっとぼけた。そんな私にニアが苦笑いをする。


「おまえ、ガラス職人より策略家のほうが向いてないか?」

「私はニアの作品のような色のガラスアクセサリーを作りたいんです。工房を離れるのは残念ですが、逃げ切れれば、また作るチャンスもできます」


 私はそこで言葉を切ると、自分の部屋へ足を向けた。


「いつバカ王子が動くか分かりません。とにかく今は、早く荷物をまとめて……」


 歩きだそうとしたところで肩を(つか)まれた。振り返ると、ニアがまっすぐ私を見つめている。


「どうしました?」


 いつものニアとなにかが違う。

 ガラス作りをしている時の真剣な眼差し。掴まれた肩が熱くなり、心臓がドキドキと激しく波打つ。


 え!? な、なんで、こんなにドキドキするの!?


 心臓の音がニアにまで届きそうで、私は思わず胸を押さえた。

 そこに、ふわりと優しい風が舞う。ニアの長い黒髪が揺れ、朝焼けのような紫の瞳が私を射抜いた。


「オレに任せとけ」


 ニアが口角をあげ、ニヤリと笑う。男前の笑みに思わず見惚れかけ、私は我に返った。


「いや! それはさすがに無理です! 相手は小隊を組んだ兵士たち。一人でなんとかできる相手では……」


 武骨なニアの手が私の頭に触れる。そのまま、わしゃわしゃと撫でられた。


「え!? え!?」


 意味が分からない私はパニックになる。どうすればいいか分からず、手をさまよわせていると、ニアがポツリと呟いた。


「…………好いた相手ぐらい守れないとな」


 声が小さすぎて聞こえない。


「あの、よく聞こえなかったのですが……」


 首をかしげる私にニアが微笑む。


「これが終わったら、また言う」


 その声が、その目が、ひどく優しく、ひどく儚くて。私は頷くことしかできなかった。


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