無事、ガラスアクセサリーは売れましたが、モヤモヤします
しばらく経ち、私は自作したガラスアクセサリーを持って、麓の町の雑貨屋へ来ていた。もちろんニアも一緒に。
「あの……どうでしょうか?」
ネックレスやイヤリングなど十点ほど作ったアクセサリーを女店主の前に並べる。
女店主が一つ一つのアクセサリーを丁寧に手にとり品定めをしていく。その間の私は緊張しまくっていた。
水分は取ってきたのに、なぜか喉が乾き、心臓が耳についたかのように音が響く。緊張で手が震えるなんて、初めてかも。
そんな私の前で、すべての商品をチェックした女店主が、ふぅとため息を吐く。
その重さに潰され、私はうつむいた。
「やっぱり、売り物になんてならな……」
「いいよ、コレ。透明なガラスの中に川が流れているみたいじゃないか。あと、コレ。紺色にうっすらと赤が混じってキレイだね。この色合いなら銀の金具で留めるところを金にしてるから、落ち着いた色でも華やかさがある」
「え?」
私が顔をあげると、女店主は私の後ろにいるニアに視線を向けた。
「とても、あんたの弟子とは思えないよ。というか、あんたが、この子の弟子になりな」
「オレはアクセサリーに興味ない」
「アクセサリーじゃなくてもさ。あんたが作るのは、あの同じ色ばっかりだろ。他の色も入れてさ。いや、その前に使えるものを作りな」
二人のやりとりに私は慌てる。
「わ、私はニアが作る作品の色を出したいんです。いつか、あんなキレイな色をした作品を作りたくて」
「健気ないい子だねぇ。でも、ここからは商売だ。話はシビアにいくよ」
「は、はい」
女店主の雰囲気がガラリと変わる。私は息をのんでかまえた……が、そこにニアが入った。
「おまえ、材料の相場とか人件費とか知らないだろ」
「あ……」
その手の勉強はしたことがない。
「オレが交渉するから、今日は見学してろ」
「……はい」
私は大人しく下がった。あとで材料費とか人件費について教えてもらおう。
そこに女店主の声が。
「いや、それあんた安すぎるよ」
「それなら、もう一割増やしてもいい。ただ、最初は安めにして客を呼び込みたい。買った客がつけて歩くだけで宣伝にもなるし、早めに売りさばきたいのもある」
「で、次からは値をあげるって? なかなか商売上手だね」
「作れば作るほど腕は上達する。出来が良い物の値が上がるのは当然だ」
女店主が頷く。
「なら、それでいこう。ただし、今回は一割のせるよ。あと、値をあげるかは次の出来次第だからね」
「わかった」
「じゃあ、代金だ」
ジャラリと私の手の中で音がする。次に感じたのは重み。
「ふぁぁあぁ……」
自分で作った物がお金になった。一生懸命作ったお気に入りの作品が手元を離れるのは寂しいけど。こうして私が作った物が私の知らない誰かのところへ。そして、私が見たこともない景色を見ていく。
そう考えると、不思議な感覚になった。まるで、我が子が旅立つみたい。
私はガラスアクセサリーたちに声をかけた。
「いい人に買われてね」
「大丈夫だよ。こんなにキレイなんだ。大事にされるさ」
女店主の言葉に思わず目が潤む。なんか最近、涙腺が弱くなっている気がする。
「ありがとうございます」
私は余韻に浸ったまま雑貨屋をでた。今までに経験したことがない達成感と、ほんの少しの寂しさ。
「昼飯、食っていくか?」
ニアの提案に私は手をあげた。
「今日は私がおごります!」
「いや、ここはオレがおごるところだろ」
「それだと、いつもと変わらないじゃないですか。ここは、いつもお世話になっている師匠に弟子が恩返しするところだと思うのです」
私が力をこめて言うと、ニアが複雑そうな顔になった。
「弟子……か。まあ、いい。入るぞ」
ニアがドアを開けて店に入る。いつもの若いウエイトレスが笑顔で迎えた。
「いらっしゃいませ」
ニアと私が向かい合うように席に座る。すると、ウエイトレスがメニュー表を持ってきた。
「どうぞ」
メニュー表を渡されて、目を通す。いつもと同じメニュー。私はニアに相談しようと顔をあげて固まった。
ニアとウエイトレスの距離が近い。
ウエイトレスがニアの椅子に寄りかかるように立っている。そして、メニューを読むニアの隣から本日のオススメを説明した。
あれ? いつも、こんな感じだったかな。
思い返せば、毎回こんな感じだった。でも、今までは気にならなかったのに。それなのに、今日はどうして……
「……する? おい、どうする?」
「あっ、す、すみません。どうしました?」
私は意識を戻してニアを見る。ニアがウエイトレスを離すように片手をあげて言った。
「注文が決まったら呼ぶ」
「はぁい」
ウエイトレスの甘ったるい声。そして、立ち去る直前に、にらまれた……気がする。
沈む私をニアが覗きこむ。
「どうした?」
「あの、私……なにか、しましたでしょうか?」
「なにかって、なんだ?」
「……よく分からないのですが、ウエイトレスの方に……その、にらまれたような……」
「あぁ。やっと、気づいたか」
ニアの言葉に私は驚いた。
「やっと、って……私、なにをしました!?」
「いや、おまえが悪いんじゃない」
「え?」
ニアが苦笑いをする。
「あのウエイトレスは、おまえが初めてこの店に来てから、ずっとあんな態度だった。でも、おまえは鈍いのか、全然気づいていなかったから、なにも言わなかったけどな」
「そうなんですか?」
「あぁ。だが、気になるなら店を変えるぞ。といっても、他に店はないから、飯は露店とかになるが」
「いえ。このままで大丈夫です」
そっかぁ。私、ずっとにらまれていたのに気づいていなかったのね……あれ?
「あの、なんで私はにらまれているのですか?」
ニアが目を丸くする。そして、困ったように頭をかいた。
「そういうところからか」
「どういうところですか?」
「あー、いや。まあ、そのうち分かる……かもな」
「ですが、私が悪いのであれば直さないと」
「いや。おまえは、そのままでいい」
そのままでいい、という言葉に急に恥ずかしくなる。このままで、いいのかな。このまま、ニアのそばにいても……
「で、なにを食うんだ? オススメは鶏の塩コショウ焼きだそうだ」
「では、それで」
「わかった」
ニアがウエイトレスを呼んで注文する。やっぱり距離が近い。なんか胸がもやもやする。
二人の様子が見られなくなった私は窓の外を見た。ポタポタと水滴が窓につく。そのまま水滴は雨となり、すぐに大雨となった。
※
お腹いっぱい食べた帰り道。いつものように山道を登る。
「通り雨で良かったな」
「そ、そうですね」
バケツをひっくり返したように降った雨は、食事が終わる頃には止んでいた。それは助かったのだけど、問題は足元で。
「キャッ」
「大丈夫か?」
道がぬかるんで滑る。何度、足をとられて転けかけたか。そのたびに後ろを歩くニアに支えられ……
「すみません」
「気にするな」
このやり取りも何度目か。私は慎重に歩くけど、なぜか滑る。でも、ゆっくり歩きすぎると、今度は日が暮れる。
とにかく、気をつけながら早く歩かないと。
決意を新たにした瞬間。
「ヒャッ!」
葉から落ちてきた雫が私の首筋を流れる。突然のことに私は体が跳ねた。そして、見事に足を滑らせ。
「危ない!」
倒れかけた私をニアが支えていた。
「ありがとうございます」
「あ、あぁ」
ニアがかすかに顔を歪める。それから、さり気なく左手を右腕にそえた。ほんのわずかな違和感。
私はニアの右腕を掴んだ。
「いてっ」
ニアから声が漏れる。私が掴んだ腕の先はパックリと皮膚が割れ、赤い血がにじみでていた。
「いつケガを!?」
私は急いでハンカチを取り出し、血が出ないように押さえる。ニアはバツが悪そうに答えた。
「いま、おまえの体を支えようとした時に、そこの木で切ったらしい」
言われたところを見ると、トゲのように尖った枝。
「危ねえから折っとくか」
ニアが左手で枝を掴み、そのまま折った。
「そんなことしている場合ではないです。ケガの程度によっては町に戻って…………あれ?」
傷の深さを見ようとハンカチをとると、そこには浅黒い肌があるのみ。傷があった名残りもない。
「え? え?」
ハンカチを見ると血はついている。つまり傷はあった。なのに、あの一瞬で消えた?
私は訳が分からず首を傾げる。そんな私をニアは神妙な顔で見ていた。




