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9 林檎はさておき映画へ その1

 土曜日の駅前は人がわんさかと集まっている。

 それはここらで有名な集合スポットが駅前にあるからだ。



 名駅にある金の時計ならぬ、白の時計。

 事実を言ってしまえばただの時計なのだがーー

 そこを誰がどんなつもりで、集合スポットとして広めたのか疑問だ。



 そこに一人ぽつんとーー待つ俺。

 寂しい……てか場違い感が酷い。



 周りには、俺以外にここを集合スポットとしている男女が多く、そのうち半分はメールをしている。

 たぶん友達と待ち合わせをしている。



 そして残る半分はもじもじとしている。

 初デートなのか、気合を入れたお洒落なのか、あれは恋人になんと言ってもらえるか、もしくは会うことへの緊張。



 そんな中、周りから俺は認識できていないとしても、ジーパン、ロングTシャツ、パーカーと、何とも言えない冴えない格好で申し訳ありませんーー場の空気に溶け込みながらも壊している。



 さて、それを前置きに集合時間より十分も早く来てしまった訳だがーー

 立って待つにしろ、ヤンキー座りで待つにしろ、足が痺れそうだ。

 日頃の運動不足ーー武道に一度は身を置きそして離れた男の末と月曜日から少なからず運動することを決意する。



 と、集合時間より五分程早いが駅構内から走ってくる未央ちゃんがキャミソール姿で手を振ってくる。

 映画へ行くだけにキャミソールーー抜かりないな思ってしまう。



 しっかりと、初期設定を裏切らない。



「ま、待ちましたか?」

「いや、全然」

「ほ、本当ですか?」

「うん。むしろ心の準備を終えたところだよ」



 そうーー俺は心の準備を終えていた。



 未央ちゃんと二人それ即ち、一番まともな子と二人でゆっくりできる時間。

 その時間をぶち壊さんとばかりに、すぐ近くのベンチにはクレープを食べながらサングラスで変装しているつもりなのだろう馬鹿三人が仲良く尾行してくれている。



 俺の自由時間を今日こそ手に入れるーーそんな心の準備。



「そう、そうですか! お兄さん……い、行きましょう?」

「そうだねーー危ねっ」



 未央ちゃんに促され、歩き出すとすぐに人とぶつかりそうになった。

 俺がではなくーー未央ちゃんが。



 手首を捕まえて引っ張ったつもりが、まさかの手を握ってしまい恋人繋ぎになってしまう。

 ほら、馬鹿三人が立ち上がったーーある意味で、危ない。



「こ、これは?」

「……危ないから手、繋いでいくかなって」



 ーー馬鹿三人からいつでも逃げられるように。



「い、良いんですか?」



 未央ちゃんは頬をほんのり赤くすると、どぎまぎと瞳を揺らしながら見上げてくる。



 流石は初期設定からヒロインーー



 林檎や如月と違い、大人しく良い子だ。

 俺が頷くと、ぎゅと手に力を入れて未央ちゃんは歩き出す。

 気づけば、俺がまるで女子のように引っ張られていた。



 ♡



 映画館が入っている、町唯一の大きなショッピんモールへ来た俺と未央ちゃんは、映画まで一時間以上あるので暇を潰すことになった。



 何処へ行こうか、何をしようかーー



 お昼を食べるには早い上に、俺は朝を食べたのは一時間前と満腹状態。

 この状況下で、一般的な男はどうやって女子を満足させながら時間を潰すのだろろか。



 恋愛経験愚か、妹である林檎と以外女子と二人で休日に外出したことのない俺には分からない。



「お兄さん……どうしますか?」

「うーん……遊ぶしかねーよな」

「わ、私行ったことないでゲームセンター行きたいです」

「……ほう」



 俺の魂に、火が灯る。

 ゲームセンターとなれば、話は早い。

 レーシングゲーム、リズムゲーム、パチンコスロットにメダルゲーム、クレンゲームーーと、俺の得意分野は幅広い。



 女子との時間潰しにゲームセンターは如何なものかと思ったが、本人が行きたいのならやめる理由はない。



 俺は未央ちゃんと再度手を強く握り合い、ゲームセンターへ向かう。

 映画の時間までギリギリ遊ぼう。いや、遊ばせてあげよう。



 チケットは既に購入済みである。

 俺は最強のゲームセンター巡り術で、未央ちゃんを楽しませてあげよう。



 未央ちゃんと二人で三階へ上がり、ゲームセンターへ入る。

 ゲームセンターは最初、酷く五月蝿いので立ち寄り難いと言う人も多い。



 だが、未央ちゃんは入ってすぐのクレーンゲームに、クマのぬいぐるみがありそれを見つけると飛びついた。



「可愛い……」

「取ってやるよ」



 欲しそうな口ぶりだから、俺は財布を取り出して中から百円玉を一枚ーーゲーム機へ投入する。



「と、取れるんですか?」



 未央ちゃんは、自信満々にお金を入れた俺に驚きながらもクレーンの動きを目で追う。



 そりゃもちろん、確率機だから取れる。

 大体二千円も使えば確率が来てアームパワーは最強だ。

 だがーー俺はそんなの待たない。



「ーーまずは、この頭を飛び出させているディスプレイ(補充景品)を狙ってアームを動かして、頭の先に付いているタグあるだろ? あれにアームの爪を落とすして引っ掛けるとーーほら! ぬいぐるみが引っ張られてくる」

「す、凄い!! と、取れたんですか!?」

「途中で落ちることもあるけどーーああほら、しっかりと爪に引っ掛かってる」



 タグに爪が引っ掛かり、ぬいぐるみは穴に落ちた。

 それにしてもかなり大きいーー抱き枕くらいはある。



 取り出し口からぬいぐるみを抜き取り、未央ちゃんにプレゼントしてあげると抱きしめて幸せそうな笑顔を浮かべる。



 自然と俺も笑みが溢れる。

 だが、背後からは邪念とも取れる嫌な視線とから恐ろしい黒いオーラが襲ってくる。



 何でエレベーターと同じくらいの速さでエスカレーターで上がってきてんだこいつら……。



 多分ーーいや! 絶対に、馬鹿三人は子供のようにエスカレーターをダッシュで上がってきたはずだ。

 何とかして撒きたい。

 ゲームセンターだから撒こうと思えば撒けるのだが……。



 そこに、丁度良いゲーム機を見つけた。

 少しばかり、女子には可哀想なゲームとなるかもしれないが一時的な避難をするには丁度良いだろう。



「未央ちゃん、次はあれしない?」

「ぞ、ゾンビですか?」

「うん、撃つやつだよ。3Dメガネかけて、椅子が振動したり、上から空気が襲ってくるやつ」

「や、やってみます。こ、怖くなったら声上げるかもですけど……良いですか?」



 むしろ許容範囲、幾らでも声を出してくれるだ。

 林檎なんて、それで発狂してカードスキャン端末を素手で壊しているのだから。

 あの時は高かったなあ……母さんが頭下げてたし。



 笑みを浮かべて頷いてあげると、未央ちゃんはちょっと不安そうな顔をしながら「頑張ってみます!」と気合を入れた。



 早速ゲーム機に入る。

 すると、馬鹿三人はそそくさと移動してきたが長くなりそうだと感じたのか何処かへ来ていく。



 林檎も如月も生粋のゲーマーだ。

 多分、リズムゲームでもして時間を潰すつもりだろう。

 さて、俺は早めに死んでおくか。



「ーーよし! 行くぞ未央ちゃん!」

「は、はい」

「……ほら出てきた! 撃って撃って!」

「きゃああ!! こ、これ怖いですお兄さん!!」



 ですよねーーだってバイ○ハザードゲーム版のゾンビデザイン担当○○さん監修だし。



 早くも序盤で涙目になりながら、椅子の振動や空気が出る度に声を上げる未央ちゃんに癒やされながら、着々と進んでいく。



 これはこれで、長く持ちそうだ。

 思った以上に未央ちゃんが上手いのだ。



「ーーそこ右!」

「きゃああ!」

「そんなに怖い?」

「こ、怖いというか……ただたんに絶望的ですよ!」

「……だよな」



 そもそもゾンビ系は全て絶望的なストーリー構成だし。

 がっ○う○らし! くらいだろう、萌えたゾンビ系漫画は。



「あ、大群出てきた」

「も、もう無理ですよおお! お兄さんっ!!」



 ステージの奥から大量のゾンビが出てきて、未央ちゃんは俺に抱きついてきた。

 右腕がコントローラーから外れ、支えるものがなくなった俺は押し倒される。



 互いに3Dメガネが外れる。

 何だこのラブコメ的展開ーーアニメにしたらこのシーンだけエロティックに描かれるレベルだ。



「ご、ごめん……そんなに怖いとは」

「こ、怖いですよお……うう。私、怪談話聞くだけで泣いてしまうほど嫌いなんです」

「先に言ってよそれ……いや、でも本当にごめんね?」

「わ、私こそ…………お、お兄さん。もう少し、このままで良いですか?」



 ーー良くない良くない!



 馬鹿三人が戻ってきてるから。

 奴らの存在感がタイ○ント並に強大なせいか、近付いてきているの分かるから。



 だが、俺はこの時奇跡は本当に起きると、ラ○ュタは本当にあったんだ! と、言ってしまいそうなそんな出来事に驚くこととなった。



「あれ? 居ないのか?」

「もう終わったんでしょ? デモが見えてるから」

「探すかいねえ」



 三人が外で会話をして、消えていったのだ。

 かゲームオーバーになってなりの時間が経っていたらしくデモが流れ、外から見ることのできる覗き窓に俺達は運良く映っておらず馬鹿三人は移動したと勘違いしたのだ。



 まさかのまさかで、まさかの事態だった。



「……お兄さん……」

「わ、分かったけど……一分だけで。人来たらやばい」



 俺は未央ちゃんにとても甘いらしい。

 今この時ーー初めて妹以外の女子の背中に手を回した。



 ♡



 落ち着いた未央ちゃんは、すっかり立ち直って次はプリクラを撮りたいと言う。

 プリクラーーって、これもまた林檎以外と撮ったことない。



 俺、モブの前にただのぼっちじゃね? と、今更になって気づく。



「えーと……四百円出すよ。ここに入れて……」

「設定? これを可愛いのにしたら……と、撮れますよ?」

「もうかよっ!」



 四百円を入れてすぐに撮れるとは、髪型大丈夫か心配になって前髪を少し横に流す。

 だが、天然の最強ストレートである俺の髪は流したところで真っ直ぐ戻る。



 いつも通り、右目に髪が掛かり鬼太郎状態へ戻る。



『まずはくっついて、互いにピース!』



「ーーこう、か?」

「ピース!」

「……まぶっ!」



 思った以上にフラッシュが激しかった。



 撮れた一枚目は何となく、仲良し男女である。



『次はーー抱き合って、互いに頬を引っ張ってみよう』



「ーー鬼かっ!?」

「ええ!?」



 ほぼ初めて同士でプリクラを撮ると、初々しさ丸出しの反応が起こるようだ。



 俺はとりあえず、ぎこちなく後ろから未央ちゃんを抱き寄せてみる。

 抱き合うとは違うが、これも一つのポーズと信じて。



「……こ、これやばいな」

「破壊……力」

「物攻撃??? で通常攻撃が一撃必殺レベルに……破壊力凄いな。プリクラってもしかして、俺を殺しに来てるのか?」



 まあ、分かっているそんなことはない。

 これがお決まりなのだと分かっている。



 そこからは、機械音声に従ってぎこちない動きのまま頑張って三枚目、四枚目、と撮った。

 そして最後の五枚目となる。



『ーーこれが最後の撮影だよ! カップル撮影を設定した二人の記念に、キスしてみよう!』



「……」

「……」



 無茶振りにも程がある。

 俺と未央ちゃんは見つめ合ってしまう。



 だがどうしてだろうかーー未央ちゃんが、俺にキスを求めてきているような気がする。



 ファーストキスなんて、とっくの昔に『お兄ちゃんと結婚しゅるのお!』なんて言っていた可愛い頃の林檎と済ませている。



 兄妹で年が近ければ、そりゃ昔にみんなしていることだろう。



 だがーー高校生になって、中学生の妹の親友とキス?



 無理に決まっている。

 もし、それこそ俺が未央ちゃんとキスしたら、既成事実にもなってしまう。

 既成事実は、まあ、置いておくとしてーー無理だ。

 ーー俺にはできない。



「お兄さん……」

「……!」

「ーーんっ! ……え」

「これで我慢してくれ」



 頑張った俺は、額に手を挟んでが限界だった。

 てか、普通はするものじゃないしなーー軽々と。



 嬉しそうな表情を浮かべながらも、何処か不満も見せる未央ちゃんと撮影を終え、落書きはシンプルに済ませプリントされた写真を取る。



 すると、次に正真正銘のカップルが入っていった。

 どんな要求をプリクラにされるものかと思い耳を澄ませているーー



『まずはにっこり笑って、見つめ合おう!』



「「ーーおいっ!!」」



 多分、初々しさが機械にも伝わったのかーー俺達はからかわれたようだ。

 二人仲良く、突っ込んでしまった。

ヒロイン! ヒロイン! ……誰がメインヒロインか書いていて分からなくなってきました(笑)


一番好きなヒロインは!? よかったら感想などで教えて下さい!


気に入っていただけましたら、評価、感想いただけますと嬉しいです。

是非、よろしくお願い致します!

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