占い師と龍
寝ボケながら布団から起き上がった俺は、大きな欠伸をしながら台所へと向かった。
テーブルの上には朝食が置いてあり、「仕事に行ってくる」との、レンからの書き置きが残されていた。
俺が寝た後にレンは家に帰ってきていたのか……まったく気付かなかった。
手早く朝食を済ませた俺は、外出するために身支度を始めた。
桜花組から外出用の和服と足袋が用意されていたが……和服の派手なデザインに、いささか驚いた。
上下とも黒が基調の和服だが、背中には「桜の木と花びらが舞っている」模様が金色の糸で刺繍されていた。
この世界の和服は派手なのが一般的なのだろうか……?
とりあえず和服を着た俺は、さっそく城下町に繰り出した。
時計が無いので正確な時刻は分からないが、日差しの明るさを見るに、正午過ぎといったところか……。
道行く人達が屋台や飲食店などに入ってゆく姿が見える。
俺は観光客のようにブラブラと町を探索していた。
「もし……そこの御方。少しばかり、よろしいですか?」
声をかけてきたのは年端もいかぬ少女……まるで魔法使いのようなローブを身に付けて、片手には水晶を持っていた。
……占い師を絵にかいたような出で立ちだ。
「すまないが……俺を占わせてくれ、と言うのはお断りだ。俺は占いは信用しないタチでな」
「そういわずに……異世界から参られた木嶋 龍さん。貴方に会って頂きたい方がいますの」
こいつ……なぜ、俺が日本から来た事を知っているんだ?
森で出会った「ロス爺」以外は、俺が日本出身だと言う事は知らないはず……あとは、初代の事を知っている七代目が何となく分かっていそうだが、他言などするハズがない。
「お前は……何者だ。何故、そんな事を知っている?俺に会わせたい奴とは誰だ?」
「フフフ……ついてくれば分かりますわ。貴方の知りたい事もね」
少女は不敵な笑みを見せると、俺に背を向けて歩き出した。
少女の正体と会わせたい人物とやらに興味が湧いた俺は、黙ってついて行く事にした。
……城下町の裏路地を幾つも抜けると、小さな空き地に出た。
空き地の中央には怪しげな小屋が建っている。
少女は小屋の入口を開けると、「中へどうぞ」と手招きをした。
薄暗い小屋の中へ入って行くと、部屋の中央に1人の男が背を向けて立っていた。
……そう、俺にとって忘れる事が出来ない男が。
「ケケ……久しぶりだなぁ~~兄弟♪元気にしてたかぁ~?」
真紅の特攻服の背中に金文字で書かれた十拳の文字……そして、人を小馬鹿にしたような口調と特徴的なリーゼント。
……間違いない。神田 仁だ。
「神田……まさか、テメェも「この世界」に来ていたとはな。丁度いい……あの埠頭での借りを返させてもらうっ!」
いきり立って神田に飛びかかろうとした俺の身体が、まるで金縛りにあったように突然動かなくなった。
「だぁ~めだぜェ~木嶋ぁ~♪今は姉さんの許可がねぇ~とよぉ~。俺たちゃ喧嘩できねぇんだぜェ~?フヒヒっ!」
「なに……姉さんだと!?どこにいるんだ?」
神田は小屋に案内した少女を指さした。
「ふむ……冷静沈着だと神田から聞いていたが……意外に激しい一面も持っておるようだな、木嶋 龍」
なんだ……?先ほどと口調が違う……いや、それだけじゃない。
何かは分からないが、とてつもない威圧感を感じる……
「長々と話したくはない……端的に言おう。私は、お前達の住む世界で神と呼ばれる存在に近い者だ。仕事は惑星管理者と言えばよいか……訳あって、私がお前達を「この世界」に転移させたのだ」
……俺と神田を転移させた張本人だと。
「薄々気付いているとは思うが、お前達の中には強大な力が秘められている。この世界に転移させた訳は「その力」を限界まで開放させる事だ。それは、お前達が住んでいた世界では出来ない……魔が干渉する「この世界」でしか出来ないからな」
……ちょっとまて、俺には大蛇と呼ばれる力があるのは、これまでの経過で理解できたが、神田にも俺と同じ「秘められた力」があるというのか?
「神田の力だと……それは一体なんだ?」
「フ……それは自分自身で感じてみてはどうだ?」
自分を神と呼ぶ少女は、指をパチリと鳴らした。
俺達の周りの空間が歪み、景色が変わっていく……
次の瞬間、俺達は荒れ果てた荒野にいた。
「ここなら思う存分暴れても構わん。……木嶋よ、神田と闘って「その力」を感じてみるがいい」
「イーヒヒっ!そぅ~こなくちゃなぁ~姉さん♪やっとテメェの遊べるぜェ~木嶋よぉ~♪」
神の立合いのもと、俺と神田の死闘が始まった……




