依頼
俺を桜花組の八代目に就任させようとする七代目の気持ちは分からなくもない。
初代が残した遺言は、いずれ「ヴァルス王国」に自分と同じ大蛇の力を宿した日本人が現れる、と予見したものだ。
桜花組にとって俺は組を継ぐ「正統継承者」なのだろう。
だが……
「初代と同じ力を持った自分に桜花組を継いでもらいたい、そうした七代目の御気持ちは分かります……ですが、自分には……」
「継ぐ気はないと?……まぁ、すぐに答を出す必要もねぇ。暫くは客分として組に出入りしたらいい。詳しく内情を知れば気が変わるかもしれんからな」
七代目には悪いが、俺は「この世界」に永住する気は毛頭無い。
ゆえに、桜花組の八代目になる気も無い。
桜花組に来たのも、以前「ヴァルス王国」いた日本人である「桜花 宗次郎」を深く知る事と、この世界に俺が来た理由を知るためだ。
欲をいえば「元の世界」に戻る方法も知りたかったが……
「木嶋……今後の宿は、どうするつもりだ?盃を受けなかった以上、ウチの組に寝泊まりする事は出来ねぇ。下のモンに示しがつかないからな」
「……はい。宿については、これから探してみます」
宿か……そういえば考えていなかったな。
文無しで泊めてくれる宿などないだろうしな……これは弱ったな。
「どうだ?一つ頼みを引き受けてくれるなら、多少の路銀と住む家を提供してやってもいい。悪くない話しだとは思うが?」
……家と交換条件の頼み事? 随分と魅力的な話しではあるが。
「その頼みとは?」
「なに……大したことじゃねぇ。通称クロと言う闇医者から薬を貰って来るだけだ……どうだ、簡単だろ?」
薬を貰うだけだと……?
そんな下っ端でも出来そうな事を俺に頼むと言う事は……そのクロとかいう医者に何か問題でもあるのか?
だが、住む家を提供してもらえるのなら、多少の問題があろうと依頼を引き受けざるを得ない。
これから何をするにしても活動拠点は欲しいからな。
「……分かりました。引き受けましょう」
「よし!決まりだな……医者の場所はウチの組のモンに案内させる。オイッ! 誰かいねぇかッ!!!」
七代目が声を張ると、レンが部屋へと入ってきた。
「親父、お呼びでしょうか」
「レンか……木嶋は今からウチの客分扱いだ。クロの元に案内してやってくれ。薬の調達を引き受けて貰ったからな」
レンは驚いた顔をして七代目に問い返した。
「お……親父ッ!?本当にいいんですか?ウチのモンがクロと会う事は禁じられているはずじゃ……もしも木嶋が桜花組の関係者と分かれば、タダで済むはずが……」
クロという医者は桜花組と対立でもしているのか?
この依頼、それなりに危険がともなうようだな。
「いいからオメェは木嶋をクロの店に案内しろッ!」
七代目はそれ以上何も言わなかった。
俺はレンに連れられて桜花組からクロの店へと向かった。
道中、レンはクロと言う医者と桜花組の関係について話してくれた。
元々、七代目とクロは親しい友人だった。
だが、クロの一人息子が桜花組に入り、他の組との抗争の最中に死んでしまってから関係が崩れたらしい。
クロは桜花組と絶縁し、貧民街で闇医者として生きているそうだ。
「ついたぞ……ここがクロの店だ。表向きは呉服屋……だが、裏の顔は国に無許可で治療行為をする闇病院ってやつだ」
……たしかに一見すると何の変哲もない呉服屋だ。
店の看板は無いが、店先には和服やら洋服が並んで売っている。
「アタシはクロの店には入れない。顔が売れちまってるからね……ここからはアンタ一人だ」
レンは貰ってくる薬の種類が書かれたメモを俺に渡してきた。
「木嶋……アンタはこの国に来たばっかりだ。桜花組の関係者と知る者は少ない。せいぜい、クロにバレないようにするんだね」
「フッ……以外と優しいんだな」
俺の言葉を聞いたレンは、頬を赤らめながらソッポを向いた。
「なッ!?バ……バカな事を言うな!アタシはアンタとの決着に納得いってないだけだ。も……もしも、クロなんかに殺られたら……アタシの立場が……」
「そういう事にしとくよ」
俺はレンの肩を軽く叩き、クロの店へと入った。




