「輪廻転生」
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「――おい」
目覚めると僕は、見たことのない真っ白な空間にいた。
はじめこそとても驚いてひどく混乱したけれど、すぐに落ち着くことができた。ここがどこであろうと僕は僕。僕がやることはなにも変わらない。僕にできることだってなにも変わらない。
僕は目の前にある画面をぼんやりと眺めながら、望む結果が得られるまでただひたすら繰り返すだけだ。
「――おいコラ、アタシを無視すんなっ」
そしてさっきからうるさいのが【輪廻転生の女神】を名乗るこの女性だ。
混乱していた僕の目の前に突然現れて、懇切丁寧に状況を説明してくれたことは感謝している。ありがとう。でももう少し声のボリュームを落としてもらいたい。気が散るから。
彼女の言葉を信じると、僕は今【転生】をする前段階にあるという。その時、女神さまは微笑みながらこう言ったのだ。
『貴方は選ばれたのです。貴方のその才能でぜひ、我が世界を救ってください』
えっ? 女神さまのキャラが違うって? 彼女だって初対面の時はやさしかったのだ。
女神さまは輝かんばかりの神々しい容姿でド派手に登場し、艶やかでしっとりとした美声をもってあっという間に僕との【魂の契約】を成立させてしまった。
ノルマを達成したからか、今ではすっかり猫を被るのをやめている。彼女の本性や言動は粗暴なギャルっぽい感じだ。外見こそ僕好みの清楚系のままなだけに地味にショックが大きかった。
「おいっ!」
「……なんでしょうか、女神さま?」
「ナンデショウカ? じゃねーよ。さっさと転生して新世界に行きなさいよっ! いつまでアタシんトコいるんだよっ!?」
「もらえるスキルやボーナスを決定するまで……それと僕の初期能力値の厳選するまで、この真っ白空間にいてもオッケーって言ったじゃないですか」
「いくらなんでも時間かかりすぎなんだよっ!! アンタ、バッッッカじゃないの!?」
「そんなこと言われても……」
「男らしくとっとと決定して、さっさと転生しろよっ。ったく、アンタのせいでほかの仕事がぜんっぜん片付かないのよっ!」
イライラしている女神さまに罵倒されながらも、僕は手を休めず作業を続けていた。
僕の眼前には【メニュー】が展開している。まだやさしかった時の女神さまが「わかりやすい方がいいでしょう?」と世界システムに手を加えてくれたものだ。ゲーム好きな僕にとってはわかりやすいだけでなく、とても使いやすくて重宝している。
【メニュー】には今、様々な項目が並んでいる。『ステータス』や『所持品』など基本的なものから『功績』や『ログ』といったものまである。
「……あれ? 女神さま、この『経過時間』っていつ追加したんですか?」
「あ~それ~? アンタがポチポチし始めてちょっとしてからよ」
「そうなんですか。ふむ、なーんだ。まだ10時間くらいか」
「くっ、プレッシャーをかけたつもりなのにちっとも動じてないじゃないっ!」
そんな会話をしながらも、僕は平然とポチポチを続けている。
僕が延々とやっている作業は、いわゆる『キャラメイク』というやつだ。大まかな部分はとっくの昔に終了しているのだが、初期能力値の厳選作業は絶賛継続中だ。
実は転生時にもらえる特殊スキルや転生ボーナスはあっさりと決定している。あと残るは『初期の基礎能力値』を決定するだけなのだが、これがまたなかなか決まらない。
【メニュー】に書かれている能力値はけっこう細分化されていて、『生命力』『持久力』『筋力』『技量』『魔力』『精神力』『抵抗力』『幸運』……など多くの項目がある。
僕はどうしても、このランダムで付与される初期数値が気になって仕方なかった。
「アンタさ~、けっきょく転生ボーナスで各能力値に1000Pプラスされるんだから、ちょっとくらい数値が低くてもイイと思わない? たったの1Pのためにどんだけ粘るってーのよっ」
「――なにを言っているんですかッッ!?
この初期能力値はわかっているだけでも最低値が95P、最大値が105Pです。その差は実に10Pもあるんですよ!?
せめて各能力値を100P以上で出したいところなのに、初期能力値の決定方法に『ダイスロール』なんてレトロなものを採用しているから…………ほら、筋力と魔力は最大の105Pなのに、生命力が最低の95P、抵抗力も96Pしかない。
――はっ、こんなの論外ですね。そもそもこれの期待値は」
「あー、もういいわ。そういうの聞いてないから」
僕の力説は女神さまにあっさりスルーされてしまった。
とにかく妥協したくない僕はなるべく理想に近い数値を求めてポチポチを続けている。なんにも始まってないキャラメイクの段階なので、まったく気兼ねなくダイスロールを繰り返してやり直せるというわけだ。
その代償が『まだなにも始まらない10時間』なのだが……。
しかしながら、ここまでやって理想の数値が出ないというのは僕のリアルラックが相当低いからなのだろうか。「もっといい数値」を追い求めて、「ある程度いい数値」を何度か無視してしまった結果もあるのだろう。
僕はひたすらその理想値が選択されるまで、とにかくずっっっっっっと粘り続けている。
そういう性格なのだから、もうこれは自分でもどうしようもない。妥協できるような性格ならもうとっくに転生して、今ごろ異世界の冒険を満喫しているだろう。
だがしかし、ある意味当然というか、女神さまのほうが限界を迎えた。
「あーもうイヤっ!! もう早く出てってよ!! 出てけっ!!」
「いや、ちょ、待って――」
「うっさいわ!! でーてーけ、でーてーけっ!! かーえーれ、かーえーれっ!!」
「帰れってのは、ちょっと違うんじゃ――」
こうして僕は強制退去――もとい異世界に転生した。
………………
…………
……
転生したばかりだというのに、僕はまったく動けずにいた。
この異世界に赤ん坊として転生したわけじゃない。驚いたことになんと謎の結晶の中に封印されていて、そもそも物理的に動けないのだ。
まあたしかに、能力値や所持スキル的には明らかに赤ん坊のそれじゃないので、人生の途中から異世界ライフが始まるのも納得はいく。
【封印されし者】
……うん、なんか響きがカッコいいし、特別な能力持ってても不思議じゃないし、これはこれで全然ありだ。
ちなみに今は動くことができないだけで、意識はハッキリとしていた。【メニュー】もなんとか開ける。前世のクセでゲーム機のコントローラをいじろうとしてしまうが、それこそ意識するだけで自由に開いたり閉じたりできるようだ。
さっそく初期能力値を確認すると、どうやらすべて100~102P程度の数値が選択されたようだ。ベストとは言えないが、まあまあ許容範囲内だ。そもそも転生ボーナスや特殊スキルがあるので文句なんてないんだが。
そういえば、女神さまにもらった特殊スキルってなんだっけ?
通常スキルどころか上位スキルよりもはるかに格上の特別なスキルで、たしか『神々の加護』とか『天武の才』とか『天恵』とか『ギフテッド』とか呼ばれていた特殊スキルで、まさしく【輪廻転生】を司る女神さまが授ける反則級の性能を誇っているという最強スキル――――
【リセット】
そう、その特殊スキルの名は【リセット】だ。時間を巻き戻すどころか、世界全体や運命そのものにさえ干渉してしまうほどの凄まじいチカラだ。
それではさっそく【リセット】を使ってみようと思う。このスキルがどれほどすごい性能なのかわからないし、とりあえず一度は使ってみないとね! 結晶に封印されたままなので発動できるかわからないが、僕はとりあえず念じてみた。
「【リセット】」
………………
…………
……
目覚めると僕は、見たことのある真っ白な空間にいた。
目の前には見覚えのある神々しい容姿の美女がいて、その艶やかでしっとりとした美声で僕に語りかけてきた。
「貴方は選ばれたのです。貴方のその才能でぜひ、我が世界を救ってください」
――――って、ここまで戻るのかよっ!?