Scene Echo-1【Splendours Season1】
静かな空間にドアの開く音が鳴り響いた。だが部屋の主は黙々とペンを動かし、侵入者などいないようだ。
「殿下、日を跨ぎました」
蝋燭一本。薄暗い灯りに頼り薬草を吟味している。
「殿下——」
「邪魔」
近くの本が一人でに浮かび上がり、ドアの方向へ飛んでいった。だが侵入者は避けることなく、それを体に受けた。
「——っと面倒だな、このクソガキ」
めんどくさそうに軽くため息を吐きながら、ブレイクが睨む机の上に小さな箱を置いた。今度は手を止め、やっとフィルマンの方へ向き直った。
「陛下からの伝言だ。オーウェン殿下に渡して欲しいとな」
箱の中には一枚の葉が入っていた。
「——フィルノア、ねぇ。どうやら最後の砦にもヒビが入っているみたいようだ」
「ブレイク、気休めだが効果がないわけじゃ」
「気休めじゃ意味ねぇんだよ!!!」
ブレイクが机を叩いた跡は黒く焼け焦げていた。
「いいか、今のあいつを未来永劫必ず守ってやれるのは俺だけなんだ。お前やマルクも、陛下も、いつか裏切るかもしれない。生き物ってのはなぁ、そんなもんなんだよ所詮は。わかるだろ?」
雲が晴れ、一気に光が差し込んできた。
「だから俺が城になってあいつを囲んで、内からも外からも守ってやるんだ! それにもう、堀に水が流れ込んでいる」
そっとブレイクが立ち上がりカーテンを閉めた。だがいつの間にか蝋燭の光は消えていて、青とピンクの光だけが取り残された。
「いいかフィルマン。俺は気休めに頼るぐらいならこの手で命を刈り取る」
フィルマンの胸には先程の箱が押しつけられていた。
「……陛下にもそうお伝えしておきます」
「好きにしろ」
再び蝋燭に火が灯り、ブレイクは机に向き直った。
——つくづく歳を忘れさせる兄弟だ。
フィルマンは身震いしながら部屋を出た。
「——やはり面白いですね、子供の考えることは」
廊下ではパトリックが待ち構えていた。
「すまないねフィルマン。昔から君はこの手の分野が苦手だっただろうに」
フィルマンが持っていた箱を取り上げ、入れ替わるようにドアノブに手をかけた。
「お力になれず、申し訳ございませんでした」
「……誤解しないでほしい。君のことは十分評価しているつもりだ」
パトリックはドアを開け、中へ消えていった。




