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エクストリアン  作者: バドライ
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初クエスト・終

避けて、避けて、ひたすら避ける。俺たちの体力は徐々に減り、巨大スライムは疲れた素振りすらみせない。このままでは一方的に不利だ。


「なぁ翔!逃げたほうがいいんじゃないか!?」

「バカ言え!逃げたら俺たちの評判下がるだろ!本当に勝てない時だけ逃げ――」


その言葉を遮ったのは、またもや巨大スライムの攻撃。

ギリギリ避けたが、このままでは逃げることに――いや、最悪『死』の可能性もある。


「友樹!挟み撃ちにしよう!核じゃなくてもダメージは入る!」

「わかった!俺は正面でいい!」


そういいつつ巨大スライムに剣を振り下ろす。

外殻の如く前進を覆っている薄い膜を切り裂き、ドロッとした液体が流れ出る。

その気持ち悪い感覚に思わず顔をしかめたが、決して手を止めることなく傷を負わせた。

いつの間にか翔は背後に回り、手元に残った一本のナイフを振り下ろしていた。


「よし、この調子で」

「友樹!横に跳べッ!!」

「え――」


直後。魂が抜けるかと思うほどの強い衝撃が腹を貫いた。

大きく後方に吹き飛ばされ、いくつかの茂みにぶつかり止まった。


「痛ッ…動け…ない…」


たった一撃だった。

霞む視界の中に、触手を伸ばす巨大スライムの姿が見えた。


「友樹ッ!!」

「いい…いいから逃げろ…」


翔が駆け寄ることを知っていたかのように、巨大スライムは触手を伸ばし翔の背中を俺と同じように突いた。


「あっ…」


情けなく漏れ出た翔の声は、転がりながらぶつかる茂みの音でかき消された。

巨大スライムがゆっくりと、しかし着実に距離を詰める。

瀕死の俺たちにとどめを刺すつもりだろう。

あの時、このクエストを受けることを拒否すればこんなことにならなかったのに。

だが、そんな後悔も今ではもう遅い。


友は意識を失い、自分は一歩も動けない。

こんな状況じゃ、逃げることもできない。


いつの間にか目の前まで近づいてきた巨大スライムは触手を振り上げ、

殺意に溢れる一撃を繰り出そうとしている。


その時だった。


「我が相手だ、クソデカスライム。」


スライムの向こう側から聞こえるその声は、どこかで聞いたことのある声だった。

…そこで俺の意識は深い闇の底に沈んでいった。






「あなたは子供のことを考えていないの!?」


…誰の声だ?


「違う!あいつらや国民を守るためにこの仕事をするんだ!」


男が怒り声が聞こえる。


「子供と仕事、どっちが大切なの!!」

「そんなの…決められるわけないじゃないか!」


なんだ…?聞き覚えがあるようでない、不思議な感覚だ。

この声の主は一体…





コン、といい音を響かせて俺の額に何かが衝突した。


「うわっ!」


驚いて跳ね起きた俺は、衝撃の原因をすぐに突き止めた。

母のデコピンだった。


「知ってる天井だ…」

「へ?」


そうだ、俺は確か巨大スライムの前で気絶してたはず…なぜここに?


「母さん、俺、傷だらけの状態じゃなかったっけ…」

「何言ってるの?傷一つないじゃない。」


身体を見たが、どこにも傷なんてない。

夢…だったのか?


「あ…」


俺がいるソファーの近くに立て掛けてある剣には、確かにスライムの液体が付着している。


「何寝ぼけてるのか知らないけど、そろそろ仕事行ってくるね。」

「あ…行ってらっしゃい。」


母さんが家を出て、しばらく放心していた。

なぜ重傷を負ったはずの俺の身体には傷一つついていないのか。

なぜ家のソファーで寝ていたのか。

そんなことを考えていると、ふと翔は無事なのか?という疑問が浮かんだ。

スマホを手に取り、翔に電話を掛ける。


一コール、二コール。

すぐには出ないとわかっていても不安は大きくなる。

三コール、四コール。

どんどん不安が大きくなる。

しかし、ついに翔が出ることはなかった。


「翔ッ…」


思わず涙が出たその時、一本の電話が掛かってきた。


「翔!?」


驚きつつ応答のボタンをタップする。


「おー、すまんすまん、スマホなくしてたけどお前のお陰で見つかったわ。」

「お、おう…」

「って、んなことはどーでもいいんだった。友樹、お前もしかして身体の傷なくなってる?」

「お前もか!!」


友の生存確認ができ、思わず安堵のため息をこぼした。


「そうなんだよ…しかも、気づいたら布団で寝てんの!」

「俺もソファーで寝てた。」

「マジか!?」

「マジマジ。」

「でさ、俺思ったん―――」


突然、電話が切れた。

不気味ではあるがこんなこともたまにはあるだろうと思い、掛けなおそうとしたその時。

インターホンが鳴った。


母さん、また宅配便頼んだの言い忘れてるな…

そう思いながらはーい、と言いながら玄関の扉を開けた。


「え…誰…?」


俺の前には、見覚えのない少年が一人、ポツンと立っていた。

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