表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

ある病室にて

「久しぶり」

僕は見舞いに行った彼のベッドの隣で微笑んだ。

彼は、少しはにかんだ様子で僕を見た。


僕はいつものように彼と手を繋ぎながら、彼の手と腕に何度もキスをした。

僕にとっての、至福の時間。

会えなかった時間の分だけ、彼の感触をギュッと確かめた。


「ねえ」

『うん?』

彼と目が合った僕は、一拍置いてから話を続けた。

「結婚しよう」

緊張していた僕だったが、彼の表情の変化は僕にもわかった。

『な、いきなり何を言い出すんですかぁ~!』

彼は両手を僕に向かってブンブンと振り回した。

その手を、僕はガシッと掴んだ。


「あなたは、彼を愛しますか? はい、愛します」

彼の恥じらいにも構わず、僕は自分で外国人風の神父を演じ、一人二役を始めた。

「あなたは、彼を愛しますか?」

次に、僕は彼に向って言葉を投げた。

『何言ってるんですか~。僕が愛するのは……、このスマホですよ』

「あなたは、彼を愛しますか?」

僕は少し顔を近づけて、ふざけるようにして繰り返した。

『だから、こんな病人のどこがいいんですか~?』

彼の丸い頬は、とても愛らしかった。

『……だから、愛してますって…………。……このスマホをね』

おどけながらも、観念したように、彼は誓った。


「では、二人、誓いのキスを……」

僕は、もうだいぶ近づいていた自分の顔を、彼に重ねようとした。

すると、彼の両手は渾身の力で僕の顔を挟み、遠ざけた。

『ここはダメですってばぁ』

必死に堪えながら恥ずかしそうに彼が言った後、

こぼれそうになったよだれを、彼は吸いこんだ。


「じゃあ、ほっぺにさせて」

僕の懇願に、彼はタオルで唇をガードした。

それは、オッケーというサインだった。

僕は彼の頬にキスをして、いつものように彼の髪を梳いた。

今日もゆっくりとした時間が過ぎてゆく。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ