初詣
同性の僕と彼の話です。うぶでピュアな二人が送る日々を、ほのぼのと描けたらいいなと思います。
よろしくお願いします。
「雪もだいぶ溶けたね。」
『うん。』
日も射し、一月としてはやや暖かかったが、頬にあたる風は冷たかった。
ふうっと吐いた白い息は光の中へと消えていった。
雪解けも進み、レンガ造りの歩道には所々に水たまりができていた。
僕は嬉しくて、歩道の脇にまだ残っている溶けかかった雪を見つけては飛び跳ねて靴で踏み、その感触を楽しんでいた。彼はそれを見ながら、微笑んでいた。
「ねえねえ。」
僕が彼に歩み寄った。
『ん?』
僕に促されて彼は、はあっと息を吐いた。それに合わせて、僕もはあっと息を吐いた。
二人の白い息は、ぶつかりながら、混ざり合いながら、広がり溶けていく。
「ふふふ。」
僕は笑いが込み上げてきた。
街には、車の音も正月休みなのか滅多に聞こえてはこなかった。
静かで穏やかな街並みに、僕と彼の足音が響いていた。
初詣。
三が日も過ぎ、お寺に来てる人もまばらだった。
カランカラン
お賽銭を入れ、二人並んで、ぱちっぱちっと手を合わせた。
「彼に出会わせてくれてありがとうございます。」
僕は、心の中でお礼だけを伝えた。
「何お願いしたの?」
僕が聞くと、
『秘密。』
彼が答えた。
「仕事のこと?」
『違うよ。』
「お金のこと?」
『ん~ん。』
「僕たちのこと?」
『言ったら願いが叶わなくなるっていうじゃ~ん。』
「そうなの?ごめん。」
二人は笑った。今年初めて見る彼も、僕には眩しく見えた。彼が着た大きなコートの中は、とても温かそうだった。
『おみくじしますか?』
彼が振り返って僕に言った。
「ん~。僕はいいよ。」
おみくじで占わなくても、今が十分幸せだから。こんなにすぐ近くに、僕の大好きな人がいる。彼の丸い顔、優しくて温かい笑顔。
そんな彼が、おみくじを引いて、こっちを向いて嬉しそうに何か言ってる。
僕は彼の大きな手をとって、彼の上着のポケットに一緒に入り込んだ。ポケットの中で絡み合う手と手。
見つめ合った僕ら。まだ冷たい二つの手は、しだいに暖かくなっていった。
「お雑煮食べた?」
『はい。』
「お餅何個食べた?」
『…個かな。』
「このあと、一緒に…」
体を寄せ合いながら歩いていく二人の声は、しだいに遠くに消えていった。