表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/9

喪って、繋がって

 「待て待て〜!」

 「ぼくが鬼だぞー!」


 夏も本格化し、日照りが山々を照りつける。子供はそれでも元気で、笑顔のまま走り抜ける様を見るだけで、イツキは少し嬉しくなった。


 「おや、休憩ですかな、イツキ殿。」

 「あぁいえ、少し、ぼうっとしていました。」

 「なはは、休んでも構いませんとも。あなたに報いたいのは、ワシも同じなのでな。」


 声をかけてきたのは、白髭の老人、村長だ。中々に頑固だった彼も、あの謝罪以降、息子としっかり向き合い、こうして軽口を言えるほどになった。


 『息子に引っ叩かれましてな。生まれて初めて、あの子はワシを殴ったのですよ。』


 本気でぶつからないと、言葉にしないと、伝わらないこともある。それを知ったヘリムスは、次期村長として名を馳せるほどの猛活躍だそうだ。


 …龍が来てから、実に二ヶ月が経った。

 魔獣を狩り、畑を直し、家を作る。やることは山積みで、人の命が懸かっていた。


 「もう大方の家屋の修復は終わり、畑も野菜や芋はもう大丈夫。…本当に、感謝しますぞ。」

 「良いんです。僕が、したいことなので。」

 「それでも、ありがとう。」


 …随分と、この人も変わったものだ。

 ふっと笑みをこぼして、立ち上がる。稲穂はまだ以前のようにはいかないし、破壊の跡は残っている。


 しかし、もう大丈夫だろう。

 そろそろ、離れても問題はない。


 「…いってきた方が、良いですぞ。」


 村長が身体を向けたのは、山上。もう二ヶ月は帰っていない、八年を過ごした大切な家。


 「…そう、ですね。」


 イツキは歩き出す。

 お墓くらいは、僕が作ってあげたいんだ。



 

     ◯




 「ッハハ、相変わらず、小さな家だなぁ。」


 山頂に構えられているのは、木造の小さな家、今見ても、二人で住んでいたとは思えないサイズ。しかし、小綺麗に整えられた家だ。


 扉を開け、リビングとキッチンが見える。

 エプロン姿のスノウが、指を斬りながら野菜を切っていたのを思い出す。イツキがやると言っても、自分でやりたがっていた。


 ソファーの埃を払う。

 羽毛の敷き詰められたコレに座り、寄り添うにして眠った夜を、今でも覚えている。


 イツキの誕生日には、いつも手作りのハンカチやナップザックをくれた。手を針で何回も貫いて、不器用なのにがんばってくれた。


 「楽しかったなぁ…」


 心の底から、そう思う。

 彼女と過ごした時間は、この家で暮らした記憶は、これからも自分を支えてくれる。そう、確信できる。


 家裏の扉に手をかける。そこを出ると庭に出て、いつも訓練をしていた広場だ。


 だが、いつもと違うモノが、一つだけ。


 「剣…?」


 ただ一振りの剣が、庭の中央に突き立っていた。

 くすんだ鉛色で、どう見ても安物。斬れ味に心配が残るほど、薄汚い。


 だが、その一振りから、目を離せなかった。

 吸い込まれるように、その剣に陽光が差し込む。


 

 「っ…!?」



 反射的に、剣を抜いていた。

 腰から抜き放った刃と、先程まで突き立っていたはずの鉄剣が衝突する。


 ギャリギャリと音を立て、まるで強力な剣士のように押し込んでくる。


 (剣が自分で動いてるんだが…!?)


 誰にも握られず、振るわれず、なのに自分と打ち合ってくる。さすがに困惑を隠せない。


 「ッチぃ…!!」


 手首から力を抜き、受け流す。ステップで距離を取り、間合いをけん制。斬りかかってくるたびに後傾し、間合いをキープしつつ捌く。


 速い。鋭い。見た目から想像もできないほど、すさまじい剣戟の数々。まるで、スノウのような…


 「なっ…!?」


 余計なことを考えたせいで、剣が大きく飛び上がり間合いを壊してくる。忍び込まれた瞬間、首を狙う容赦のない斬り上げ。


 飛び退くが、肩を浅く切り裂かれる。

 剣は止まらない。捌くたびに速くなり、イツキを試すように強くなる。


 (不快だ…!!)


 師匠の剣に似ている。運び方、剣筋、速度。しかし、やはり及ばない。何より、そんなもので自分を試すことが、許せない。


 今までで、最速の一撃が振り下ろされる。


 …視えている。


 「何が起きてるかは、知らないが…」


 皮一枚。半身を引いて回避し、さらに前へ。

 踏み込んだと同時に、数億と繰り返した単純な振り下ろし。


 「スノウの半端な真似事は、僕が許さない。」 


 ダンッ!!


 自動で動く剣の柄に、振り下ろしが叩き込まれ、地へと叩きつけられる。通常なら、確実にへし折れる一撃だ。


 ボロボロの剣は折れていない。

 しかし、もう動くことはなく、代わりに…


 大量の魔力が収束する。視界を埋め尽くすほどの発光と共に、イツキの手に勝手に収まる。


 「これは、まさか…!!」


 光が収まる。"塗装"が剥がれる。

 そして現れた剣は、スノウの愛剣である純白の刀身を持つ剣だった。


 前までは、ここまで汚くなかった。それに、リーチも少し変わっている。気づけないのも無理はない。


 だが、自動で動くなど知らない。

 困惑するイツキの頭に、一つの思念だけが、強く送られてきた。



 『英雄の剣、デュランダル。』



 己の名だけを、言葉ですらない思念で送ってきた。それは、この剣に意思があることを証明していた。


 (師匠…こんなの、隠してたんですね。)


 そして、ようやく理解した。

 彼女が言っていた"餞別"とは、コレのことだったのだ。騎士の魂、剣を託してくれた。それがどれだけ、重い決断だったのか計り知れない。


 柄をしかと、強く握る。まるで、最初から自分のものだったかのようにフィットした。


 「僕だけじゃ、越えられない壁もある。遠慮なく使わせてもらうよ、師匠。」

 

 今は亡きスノウに、精一杯の感謝を告げ、鞘へとデュランダルを収める。


 空を見上げ、周りを見渡す。スノウの影はどこにもないし、死者が見守ってくれるなんて妄言は信じていない。


 しかし、いつか、また会えた時に伝えたい。

 あなたの弟子は、最高の騎士になりました、と。それを伝えられるような男に、成りたい。


 「往こうか。」


 それまで、決して止まらないことを、この家に誓おう。



 …………(及第点だ、バカ弟子め。)

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ