領主と補佐官と冒険者ギルドマスター
「イーちゃんにお客さんだよ~」
「大地の大精霊様っす」
「君がここの領主かな?」
笑美とココアに大地の大精霊が執務室に現れ、口を開いて固まるエルムレスとアプリコットと冒険者ギルドマスター。
「はい……すぅ~はぁ~、私が領主のイレーネイル・レミ・レガンスです。まだ若輩者ですが宜しくお願い致します」
深く深呼吸して自己紹介をしたイレーネイルに、キューブ状の土の塊でできた表情を緩める大地の大精霊。
「ははは、宜しくね。本来なら表だった行動はしないつもりだったけど、土筆には恩があるから、ひと言だけ助言をしにきたよ。ん? そこの森人族はどうしたのかな?」
ソファーからゆっくり下りて土下座の姿勢を取るアプリコットの姿に違和感を覚えた大地の大精霊が指摘すると、顔を上げたアプリコットは大地の大精霊を見つめ言葉を紡ぐ。
「アプリコット・スウォークと申します。大地の大精霊様のお陰でこの地は緑豊かな生活ができ――――」
土下座しながら自己紹介と大地の大精霊への感謝を伝え出したアプリコットに、驚きの表情をしていたエルムレスと冒険者ギルドマスターも冷静になり、大地の大精霊を視界に入れながらキューブ状の顔で苦笑いを浮かべている事に気が付きアプリコットへ待ったを掛け、メイド長にお茶の指示を出す。
「アプリコットは、そこまでだ。メイド長はお茶の準備を、ギルドマスターは……大丈夫だな……」
「すぐにご用意致します」
「えっ、いや、私は大地の大精霊さまにまだ挨拶が……」
「ソファーに座って落ち着いてくれ。大地の大精霊さまもこちらのソファーへお掛け下さい」
立ち上がったエルムレスはソファーへ座るよう誘導して場を整える。
「お茶菓子は私が出すねぇ~ポテチとお饅頭でいいかなぁ~」
指輪の保存機能からトクベリカから送られてきたお菓子を出してテーブルに並べ出す笑美に、驚きの表情を浮かべる狐耳のギルドマスター。イレーネイルとエルムレスは眉間にしわを寄せているが、ここで止めるとギルドマスターから疑いが掛かると思いエルムレスは話を進める。
「大地の大精霊様はどのようなご用件で、こちらへいらしたのでしょうか?」
「土筆殿への恩とぉ、言っておられましたねぇ」
「そうだったね。目の前の珍しい物に目を奪われていたよ」
ポテチを広げた笑美が「どうぞ~」とご機嫌にお菓子を進め、メイド長から温かい緑茶が配られる。
「これはパリパリとして美味しいね」
興味がポテチに移ってしまった大地の大精霊は一枚口に含み味を褒めると、笑美はニッコリとした表情をまだ口にしていないイレーネイルとエルムレスにギルドマスターへと向ける。
こういう所は土筆に似ていると思いながらエルムレスはポテチを一枚口にし、その味に目を見開く。
シンプルな塩味がジャガイモのパリパリとした食感と甘みを引きたてるポテチに思わず「美味い」と言葉を漏らすエルムレス。
「本当に美味しいです。これはお酒にも絶対に合うはずです!」
ギルドマスターも口にして感想を話すが、イレーネイルの咳払いで姿勢を正す。
「私はテントを建てた報告に来たんだけど、大地の大精霊さんがチョコの木の前にいて、ここの一番偉い人に合わせてほしいって言うから連れてきたんだ~」
「笑美のいう通りっす。チョコの木を見上げてたっす」
「ははは、大きく育っていたからね。僕の要件はこの近くにダンジョンが発生したから一応教えておこうかなって、土筆がここで生活しているのは知っていたからね。まだ誕生したてで……どうかしたのかい?」
今度は笑美以外の者が驚きの表情で固まり、頭を傾ける大地の大精霊。
「ダンジョンが誕生したのか~これは大冒険の予感がするぜ!」
「大冒険は無理かな。まだ誕生したてで二階層あるかどうかだしね。探検ぐらいじゃないかな?」
「なら、探検隊を組んで出発だぜ!」
「ははは、笑美は面白いな。ダンジョンは危険がいっぱい……まだ、そうでもないかな」
「そ、そうです! 危険です! スリープキノコの件もありますから笑美さまはお留守番ですよ」
「ええ~」
逸早く復帰したメイド長の言葉に軽く駄々を捏ねる笑美。
「ダダダダダ、ダンジョンですかっ!?」
「これは帝都に知らせを出さないと!」
「冒険者ギルドとしてもダンジョンの発見は歓迎する所なのですが、誕生したんですか!? これは今までの通説が……」
驚きのあまりフリーズしていたイレーネイルにエルムレスと冒険者ギルドマスターは口々に今後の対応を話し出す。
「ダンジョンは怖い所っす! 笑美が入ったらすぐに死んじゃうっす! 絶対に行かせないっす!」
笑美を後ろから抱き締めるココアに、抱き締められている笑美はココアの行動に、もう親友だなと思いながら、うにうにと表情を崩す。
「ココアッチョの気持ちはわかったよ~何だか嬉しくなっちゃうよ~」
「嬉しくてもダンジョンには行かせないっす!」
「ははは、そろそろ話をしていいかな。ダンジョンの誕生に伴い魔素が少しだけど溢れて、近くのキノコがスリープキノコへと変化したので注意が必要だよ。精霊たちも魔素の管理に頑張っているけど、誕生してしまったものはどうしようもないから攻略するなり、管理するなりしてね。何度もいうけど本来はこんな報告する事はないからね。土筆への恩返しだと思ってほしいかな」
「ご報告、ありがとうございますぅ。土筆殿へは私から伝えさせて頂きますぅ」
イレーネイルがお礼を言うと「頑張ってね」と、ひと言残して部屋を出て行く大地の大精霊。
それを見送りながら冒険者ギルドマスターは土筆という存在の事を思案する。
大地の際精霊に恩があり、それを返しに態々現れダンジョンの誕生を知らせに来たのか……土筆殿とは一体何者なのだ……そもそも笑美と呼ばれる女はどう見ても人族……もしかしたら湯たんぽや塩ダレ事業と関係があるのか?
「あの、土筆殿という方はいったい?」
冒険者ギルドマスターの質問にエルムレスが眉間を押さえながら口を開く。
「土筆殿は大地の大精霊さまと知り合い食事を提供した者だ。アステリアスさまに婿入りする可能性がある者だとしか答えられん」
「そうですねぇ~この事は他言無用でお願いしますぅ」
「うふふ、もしかしたら私も娶って下さるかもしれません」
最後に便乗してくるメイド長の話は聞きながしながらも、冒険者ギルドマスターは土筆という男は要注意人物である事は理解ができた。
大精霊に食事を振る舞う仲を持ち、アステリアス皇女殿下の夫になる可能性がある男……料理を振る舞ったですか……これは塩ダレの販売にも掛かっていそうですわね……
「変な詮索はしない所は褒められますぅ。が、本当に竜の尾を踏む阿呆にはならないで下さいねぇ」
「兄ちゃんに尻尾なんてないし、竜はキャロ姐さんだよ~」
領主という立場から格好付けて諺を用いて脅したのだが、笑美のひと言によって台無しとなり、呆れた表情へと変わるイレーネイル。
「領主らしくするのも大変ですぅ」
「私もギルドマスターとして振る舞うのは疲れるわ」
互いに領主と地方冒険者ギルドマスターとして管理職をする者同士で共感できる事があるのだろう。
「それでは第二第四中隊をアステリアスさまの元へ走らせぇ、ダンジョンの確認をさせて下さい。中へ入る事は専門家に任せますぅ。スリープキノコの根絶を優先させなさい」
「こちらもダンジョンに潜った事のある中堅とベテランを用意するわ。スリープキノコに関しても注意を促すとしますわ」
互いに意見と今後の方針を固め動き出すのだった。
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