ダンジョンの発見
一方、アステリアスとレナは魔化した状態で地図を頼りに辺りを探索していた。
「キャルロッテさまも羽根だけ魔化する事ができるようになったのですね」
先を行くキャルロッテは竜人族であり、魔化すればバスサイズのドラゴンへとその姿を変える事ができるが、今は人型に赤い翼を広げて空を飛んでいる。人型に対してやや大きな比率の羽ではあるが、安定した飛行を行って空を駆けている。
「うむ、器用なのじゃ。普段から小さな翼が付いておったがあのままでは飛べんらしいのじゃ。部分的に魔化させ魔力の流れをコントロールしておるのじゃな。我も部分的な魔化はできるが翼だけ魔化し飛び続けるのは中々にしんどいのじゃ」
二人は森の中を走り抜けながら話し索敵を続けるレナも、常人には難しい器用さを発揮していた。
管理され日の光が入るとはいえ、足元は草が茂り等間隔に管理された木々の間を走り抜けながら索敵魔法を使っているのだ。視界に入る情報から足場を選び木々をすり抜けながらも意識は索敵魔法に使い走り抜ける。それは百十メートルハードルをしながらスマホを使う様なものだろう。
その後ろで四人ひと組になり探索をする第三近衛中隊は得意の臭覚を使い探索に出たのだが、昨晩差し入れられたカレーの香りが服に沁み込み、思っていた様な成果が上げられずにいる。
「それにしても魔物の数が少ないですね。グリーンフォースは森よりも草原を好むのですが、それを狩るブラックウルフや虫系の魔物がいても……アステリアスさま!?」
「うむ、魔素が濃くなったのじゃ……」
レナが異変に気が付き先を行くアステリアスへと声を掛け足を止めると、昨日は見つけられなかった異変に気が付く。木の根元にぽっかりと口を開けた洞窟があり、明らかに人の手が入った様な石造りの入り口が視界に入ったのだ。
入口のサイズは三人も横に並んだほどであり、あまり大きいとはいえないが、これらの入り口には共通して記載されている古代語がある。
『ダンジョン』
二人の声が重なりアステリアスは連絡用にしている落雷を空へと飛ばし轟音が森に響き渡り、ほどなくしてキャルロッテが空から現れ二人を空から視認すると大地へと足を付ける。
「ダンジョンだし……昨日はなかったし……ああ、それで濃い魔素の影響で近くのキノコが魔化したし……」
アステリアスやレナが説明する前にダンジョンに気が付いたキャルロッテは自身の考えを述べると二人は静かに頷き、遠くから聞こえる第三近衛中隊の足音が近づいて来る事を察する。
「キャルロッテさまはレガンス領に戻り、イレーネイルさまにご報告して頂いても宜しいでしょうか?」
「任せろし! ついでにピピラに知らせてから向かうし」
翼を魔化させ飛び上がったキャルロッテは来た森を戻り、集団で森を進む第三近衛中隊へと舞降り事情を説明し、レガンス領へと翼を羽ばたかせる。
「ダンジョンとは……これも土筆さまの影響なのだろうか……」
飛び去ったキャルロッテの後ろ姿を見つめながら呟くピピラは、レガンス領北部からレトリバー領へと続くといわれている竜脈が頭にチラつき、何かしらの関係があるのかと思いながらも足を進めるのだった。
「プニプニ……気持ちい……」
「手に吸いついて来るようです」
「何だか楽しいです」
ペティートと聖女にレレは離れの屋敷でピザ生地を捏ねていた。
強力粉に塩と水にオリーブオイルを入れ軽く混ぜ、イーストの実を細かく切った物を混ぜ捏ねて行く。
「粉っぽさが無くなったら発酵させます。くっ付かない様に少し離して置き、濡れ布巾をかけて温かい場所に置きます」
土筆の説明に仲良く返事をする乙女たち。
「手触り……癖になりそう……」
呆けた顔で生地を捏ねながら手触りが気に入ったペティートは、次々に生地を捏ねて行く。
「癖になるのも解ります。これはとても柔らかくいつまでも捏ねていたいです」
聖女も昨日の遠征訓練で筋肉痛になった足腰に気持ちが沈んでいたが、ピザ生地の心地の良い弾力に癒されていた。
「いつまでも触っていたい弾力ですが纏まりました。次を捏ねましょう!」
気合を入れてピザ生地を捏ねるレレは南の鬼人族特有の握力を使い生地を捏ねて行き、他の二人よりもスピードを上げ次々に生地を丸め上げる。
「レレさんはもっとリラックスして下さい。握力ではなく優しく混ぜながら纏める感じです」
「はい! 優しく……優しく……優しく……」
優しくといいながら生地を丸めるレレ。
「エムエムがお肉にお野菜のカットを終えたのですよ~」
「それじゃあ受け取るから、こっちに出してくれるか」
「はいなのです!」
元気に飛んできたエルエルがトマトソースを煮込む土筆の頭の上に着地し、テーブルにカットされたパプリカにトマトといった野菜を出現させる。丁寧にカットされた野菜たちは綺麗に並べられエムエムのきっちりとした性格を露わしている。
「だだいま~帰ったよ~」
「ただいまっす!」
そこへ笑美たちも合流し、お帰りの声が重なった。
「イレーネイルさんは何か言ってたか?」
「それどこじゃなかったよ~途中で大地の大精霊さんがいてさ、近くにダンジョンができたってさ」
「ダンジョンですか!?」
「それは……大変……」
「スリープキノコもダンジョンが原因らしいっす」
「ダンジョンは資源としては優秀ですが、危険が伴うことも多いです。ダンジョン産の武具やアクセサリーなども魅力的ですが、お肉やお野菜に果実なども収穫されれば……どうしましたか?」
レレが語り出すと周りの乙女たちの声が止み、それに気が付いたレレも皆と同じ方向へ視線を向けると、窓からこちらを覗いている女性に気が付く。
「あれはナターシャさまですね。エトルリデさまの専属メイドですが、何か用があるのでしょうか?」
「覗きは……死刑……」
「死刑はいいすぎですが、犯罪です!」
「自分が聞いてくるっす!」
ココアが玄関へ向かい、その後ろを笑美が追いかける。
用心深く玄関のドアを開けたココアは忍び足でゆっくりと屋敷を回り、その後ろを笑美も同じ様に忍び足で進む。
「何か用っすか?」
ビックと肩を動かしたナターシャはギギギと首を動かし振り返り、ココアの姿を確認すると頭を下げる。
「申し訳ありません。何やら第二と第四中隊が騒がしく出動したので何かあったのではないかと思い、こちらに来たのですが……」
「こっちに来たっすか? それは変っすよ。状況を知りたいなら執務室に行くはずっす」
ココアの指摘はもっともであり、中隊が二部隊も出動する事態となれば、それなりに説明も行き届いているはずである。情報の確認がしたいとしても執務室に向かうか、近くのメイドに聞けば情報が得られるはずである。
「いえ、そうなのですが……」
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……
お腹が悲鳴を上げ、両手でお腹を押さえるナターシャに、ココアと笑美は表情を崩す。
「この匂いに釣られたっすね」
「今はピザを作ってるんだ~良かったら一緒に作って食べようぜ!」
屋敷の外に漂うピザソースの香りに気が付いたココアと、特に何も考えていない笑美はナターシャを屋敷へと招き入れる。
笑美が警戒もなく誘ったっすけど、良かったっすかね?
ココアも多少疑問を持ちながら屋敷へと招き入れると、靴を脱ぐ事を強要され驚くが、屋敷内専用に用意したイボイボのあるスリッパを履くと心地良い刺激に表情を崩す。
「ふわぁぁぁぁぁ、靴を脱ぐ事に驚きましたが、この刺激のある履物は素晴らしいですね! 足の疲れが消え去る様な気がします! それにこの食欲のそそる香りがまた……素晴らしいです!」
多少警戒していた土筆と乙女たちは、だらしない顔で足つぼを刺激されたナターシャの顔と態度に警戒感は薄くなり、その代わり残念女子なのでは、という疑いが掛かるのであった。
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