お風呂はマナーを守って入りましょう
夕食も終わり完全に日も落ちたテント前では火を囲み第三近衛中隊の近衛たちがミーティングを行い、本日の反省と夜の見張りの行い方の確認を行っていた。
「それでは新人五名でこれから夜番をしてもらう。二時間後に交代するが、時計の見方は解っているな」
「近衛に入った際に教官から教えて貰いました」
「中隊ごとに二つの懐中時計が配られているが、どれも我々の年俸よりも遥かに高価な品だ。絶対に紛失するなよ。それと虫除けの香は絶やさぬようにすること。」
「はっ!」
新人たちの声が重なり五名は緊張した面持ちで隊長であるピピラを見つめる。
「一応マルティンが付き添うが基本的には口を出さない。お前たち新人だけで夜番を務めるようにな」
「はっ!」
「では、二時間後まで宜しく頼む。マルティンも頼むぞ」
ピピラの命令にマルティンと新人たちの返事が重なり、遠征訓練夜の部が開始された。
「アッちゃんアッちゃん、キャロ姐さんの胸が湯船に浮いてますぜ」
「う、うむ、母さま並みにでかいのじゃ……」
白い小さなテント内の屋敷に設置されたお風呂では、アステリアスたちが風呂に入り汗を流していた。
本来なら桶に湯を入れ体を拭く程度の水浴びの予定であったが、エムエムからお風呂を使って欲しいと要望があったのだ。初めて使われる大浴場は広くテニスコート一面分ほどの大きさの岩をくり抜き白濁した湯が入れられおり、温泉特有の硫黄の香りが立ち込めている。
「この様に贅沢なお風呂もあるのですね」
「泳げそう……」
「ダメですよ。我らが女神さまが創造したお風呂でマナー違反など、私が許しません!」
プカリと浮きながらペティートに警告する聖女に対し、背泳ぎはいいのかと思うレレ。
「何だか肌がスベスベになっている気がしますね」
「レナさんの肌は白くて雪みたいっす」
温泉の効能なのか腕を仕切りに触り、肌触りの変化を感じたレナ。他の者たちも腕や脚を触り温泉の効能を体感する。
「うむ、スベスベなのじゃ! これは良いのじゃ!」
「あーしの尻尾も、いつもより輝いて見えるし!」
「キャロ姐さんの赤い尻尾は綺麗だよね~前に兄ちゃんも言ってたよ~」
「なっ、本当かよ!? ててて、照れるし……」
笑美の言葉にブクブクと泡を出しながら沈むキャルロッテ。
「わ、我について何かいっておらんかったかのう?」
「アッちゃんについて? う~ん、あっ! 言ってたよ! 好き嫌いが多いとか、カルシウムをもっと摂取させた方がいいとか、フルーツサンド食べたい!」
「………………」
アステリアスも違った意味で温泉へとゆっくり沈む。
「カルシウムとは何ですか?」
「えぇっとね、骨を作る元かな? いっぱい食べれば背がニョキニョキ伸びるぜ!」
「それで……笑美が……ニョキニョキ……」
「うん! 牛乳をいっぱい飲んでニョキニョキだぜ~」
「身長だけは大きいのにゃ~」
「身長だけって酷いよ! キャロ姐さんやレーちゃんみたいに胸も大きくなるよ!」
立ち上がり拳を固め宣言する笑美に視線が集まりペッタンコを指差すペルーシャとペティートと、話題に上がりたわわな胸を隠すレレ。
「一部小さい……」
「ペーちゃんそれは違うぜ~私の心は誰よりも大きいぜ~」
立ったまま両手を広げポーズを決める笑美。
「心が広いのは本当っす。いつもニコニコする笑美は心が広いっす!」
「うむ、それは我も理解しておるのじゃが……その、あれじゃ、土筆は我の事が好きなのかの? それとも誰か……ブクブクブクブク」
再度浮上してきたアステリアスは土筆からの好意があるか気になるのか、笑美に言葉を向けるが、途中から恥ずかしさが勝り頬を染めながら沈み言葉を濁す。
「あーしも土筆が誰のこと好きか気になるし!」
「それは気になります! 私も聞いてみたいです!」
「自分も少しだけ……聞きたいっす」
キャルロッテと聖女にココアが笑美に詰め寄り、それを見たレナは小さく笑いを漏らす。
「これだけ土筆さまに行為を寄せている女性がいるのに、本人は気が付いているのでしょうか?」
「私も……好き……特に……カレー」
「魚の料理は絶品にゃのにゃ~」
「料理の教え方も丁寧で教わる身としてはありがたいですし、頼もしいです」
ペティートにペルーシャやレレも話に加わり、笑美は囲まれた。
「みんな兄ちゃんが好きなの!? 薄々感じてたけど、みんな私のお姉ちゃんになってもいいぜ~ハーレムだぜ~」
けらけらと笑いながら話す笑美に頬を染める乙女たち。
「わ、我が第一夫人なのじゃ!」
「それは仕方ないとして、第二夫人を誰にするかです!」
「身分的には王女か聖女でしょうか?」
「あーしはこれでも竜人族のお姫様だし」
「はいはい、私は聖女です!」
キャルロッテは大きな胸を張り、聖女は手を上げ宣言する。
「次に爵位が高いのはレレさんの実家が伯爵で、ココアさんが子爵で、ペティートさんが男爵家ですね。ペルーシャは爵位がないですが裏事専門のトップの家系……これは順位付けが難しいですね……」
顎に手を当て考え込むレナに、ペティートが湯に浮くものを指差し言葉を発する。
「胸の順なら……レレが二番……」
「ペティ! 胸の事はいわないで……」
恥ずかしいのか顔を半分湯船に沈めて胸を押さえるレレ。
「あーしが、一番だし!」
「ぐぬぬぬ、胸など飾りなのじゃ!」
「私は誰が一番とかよりも、みんなで仲良く兄ちゃんのお嫁さんになってくれた方が嬉しいよ~」
そういいながらアステリアスに抱きつく笑美に、乙女たちは確かにと思いをひとつにする。
「そ、そうじゃな……笑美の言う通りなのじゃ。が、その、あれじゃ。胸を揉むでないのじゃ! くすぐったいのじゃ! じゃ! じゃー!!!」
「小さくても柔らかいアッちゃんのお胸がガガガガガガガガガガガガ」
「ちょっ!? こっちまで痺れれれれれれれれれ」
「アフロは嫌っす! アアアアアアアアアアア」
「……………………電気風呂……………………」
「ちょ、調子に乗るからこうなるのじゃ! 笑美よ、聞いておるのかっ!」
アステリアスの放電が伝わり温泉にプカリと浮いた乙女たち。
ある意味勝者となったアステリアスだったが、湯船に浮かぶ乙女たちを視界に入れると顔色を青く変え、助けを求めるべくエルエルとエムエムを呼びに走るのだった。
アステリアスから叫ぶように発せられた救助要請の声に、食後のお茶を楽しんでいたエルエルとエムエムは慌てて大浴場へと向かう。
土筆もすぐに立ち上がるが、場所が場所だけに立ち上がったが向かう事が躊躇われ、誰かのぼせたのか? そう結論づけ冷たい飲み物を用意した方が役に立てるだろうと思いキッチンへと足を進める。
「よし! 冷たい飲み物の方がいいよな」
「わふっ!」
ひとりごとに足元でへっへするふぇるりんが答え、優しい笑みを浮かべる土筆は指輪の保存機能から色々と取り出し調理を開始する。
「トクサンから届いたイチゴジャムと牛乳に砂糖を少し入れて、ダイフクはこの桶に氷を入れてくれ」
「フォー」
ダイフク現れ土筆の頭の上に着地し、数度羽ばたくと氷が出現し桶に溜まるクラッシュアイス。
「ありがとな」
「フォー」
頭の上にお礼を言うとダイフクは嬉しそうにひと鳴きし、大きな瞳をパチパチと瞬きする。
「後はかき混ぜてカップに氷を入れてイチゴ牛乳の完成。みんなが来たら注ぎ入れればいいとして、寝ないで夜の見張りをする人にも差し入れを作った方がいいかな?」
「わふん!」
「フォー」
細かな氷を木製のカップに入れ、残りは桶に残したままイチゴ牛乳を作った鍋ごと桶につけ入れ冷やす。
「差し入れは何が良いかな。片手で素早く食べられた方がいいだろうし、夜は冷えるだろうから温かいものかな……う~ん……スープにするか、少し辛いものにするか」
差し入れを考えているとダイニングには湯気を上げるアステリアスが現れ、その後ろからぞろぞろと湯上り乙女たちの姿が見て取れた。
「あれは笑美が悪いし」
「笑美さまは……アホ……」
「ごめんごめ~ん。アッちゃん怒ってる?」
「怒ってはおらんのじゃが……すまなかったのじゃ……」
素直に謝るアステリアスに数名は驚いた表情を浮かべるが、笑美だけは申し訳なさそうな表情を浮かべ頭を上げる。
「アッちゃんは悪くないよ! 悪いのは私だし、アッちゃんの胸を揉みしだいた私が悪いんだし! ごめんなさい!」
大きく叫び謝る笑美の言葉に、土筆の手元が狂ったのは仕方のない事だろう。
テーブルの上にイチゴ牛乳が零れ、それを器用に舐めるダイフクとカプサンの姿があり、床でくぅ~んと甘えた声を上げるふぇるりん。
「ふぇるりんにはこっちの皿に出すからな。カプサンとダイフクにも用意するからテーブルに零れたのを飲まなくても……まぁ、いいか……」
クラッシュアイスを入れた木製のカップにはイチゴ牛乳が注がれ、トレーに乗せてホカホカ乙女たちの寛ぐリビングへと向かうと、アステリアスに抱きつく笑美の姿があり先ほどの言葉が頭にチラつくがそれを振り払い、「冷たい飲み物をどうぞ」と言葉を添えテーブルにトレーごとイチゴ牛乳を置くと、そそくさとキッチンへと戻る土筆。
「おお、イチゴ牛乳だ! これでアッちゃんの胸と身長が育つはず!」
「………………」
アステリアスが硬直するなかイチゴ牛乳へと手を伸ばすお風呂上りの乙女たち。
この日、アステリアスは少しだけ涙を流して眠りにつくのだった。
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