人魚とゼリー
「我は土筆とお弁当を食べたかったのじゃ!」
「あーしも一緒に食べたかったし!」
「そうです、そうです! 急にいなくなられては困ります!」
アステリアスとキャルロッテに聖女から責められ苦笑いをする土筆は、森と平行に歩きながら川へと繋がる草原を歩き、人魚族たちと待ち合わせた場所を目指していた。
「皆さま土筆さまと一緒にお昼を過ごしたかったそうですよ」
悪戯っぽい笑みを浮かべるレナは口に手を当て土筆に話しかけ、その後ろを笑美やココアが続く。
「にゃ~見えてきたのにゃ~」
先頭を行くペルーシャとふぇるりんに第三近衛中隊隊長のピピラの目には、街道と並行して走る整備された運河が目に入る。この運河は海洋都市マーメイドとレガンスの街を繋ぐ交易の為に整備され、その管理を人魚族が担っている。川幅自体はそれほど広くはないが船で荷を運び先導を人魚族がする事で通貨を得ている。
「おお、川に人魚さんがいるよ~」
「ちょっ! 笑美は急に走っちゃダメっす! 待つっす!」
「あーしも追いかけるし」
笑美が走り出しココアが後を追い、その後ろをキャルロッテが続く。
「笑美には大冒険……」
「そうですね。いつも楽しそうな笑美さまですが、本日はずっと嬉しそうにしておられますね」
「中々外で遊べないのですからこういう機会は貴重です。羽目を外し過ぎない程度に楽しんで頂ければ」
「うむ、街中よりもある意味安全じゃしの、それよりも土筆はエムエムと一緒にお弁当を食べておるとは……」
アステリアスが話を戻し、また苦笑いを浮かべる土筆の頭の上からエルエルがアステリアスへと視線を向ける。
「エムエムと大地の大精霊にもお弁当を作ったのです! 一緒に食べたのですよ」
「そちらで一緒に食事をしておったのじゃな。エムエムは喜んでおったか?」
「すごく喜んだのです! はじめてのお弁当だったのですよ! 玉子焼きも一緒に食べて美味しいと言ったのです!」
テンションを上げ飛び上がったエルエルはアステリアスの頭に着地し、エムエムがはじめた食べたお弁当の中身やその表情を詳しく話す。
「それは良かったのじゃ」
「長い間一人でテントを守り続け寂しかったのです! でもでも、土筆が優しくしてくれたのです! 少し泣いちゃったけど最後は笑顔になったのです!」
何があったかある程度察したアステリアスは、長い間一人で異世界人がテントを使うのを待っていたエムエムという天使に多少の同情をしながらも、土筆をめぐる争いに新たに参入しないか危惧するが、土筆という男は誰のアプローチも受けない事を知ってか、頭の上のエルエルの喜びに頬を崩す。
新たな天使が現れ何やらあったらしいが……ん? 川が見えてきたのじゃ! 多くの人魚族が集まっておるのう……ちょっとした挨拶の心算が大事になっておるのじゃが……
レナへと視線を送ると頭を傾げ私は知りませんという姿勢であり、ピピラに視線を向けると同じ様に頭を傾げる。
「人魚の皆さんこんにちは~」
大声で挨拶しながら走ってくる笑美に、数十名の集まった人魚は川から上半身を出し同じ様に声を揃え挨拶を返す。
「こんにちわ~」
その大合唱に気をよくした笑美は川に近づき、ふぇるりんを抱き上げる。
「ふぇるりんです」
「わふん」
小さく吠えるふぇるりんに集まった人魚たちからは「可愛い」やら「小さい」やらの声が飛び交う。
「まったく笑美は何をしておるのじゃ」
「笑美さまらしいですね」
「今度はココア殿を抱き上げていますよ」
レレが指摘する様に、遠目に見える笑美はココアを抱きしめ人魚族たちに紹介し、声を合わせて「ココアッチョ」の声が飛び交う。
「な、なんだか恥ずかしいっす!」
「ええ~みんなに紹介したいよ~」
「あーしは紹介するなよ。土筆たちが来てからでいいし」
「そんな! ズルイっす! キャルロッテも名前を連呼されて欲しいっす!」
そんなわちゃわちゃとしたやり取りに人魚たちからは笑いが漏れ、笑美的には手応えのある掴みができ、これから登場する土筆へと場を温めたという実感に浸っていた。
「これはアステリアス殿下に土筆さま、我々の招きに応じて頂きありがとうございます。我らに陸を進む事ができれば挨拶にも行けますが――――」
アステリアスたちが到着すると一斉に頭を下げ、人魚族の中でも一番年老いた者が挨拶に相当する感謝を述べる話が始まった。
内容的には足があれば挨拶に行けるが人魚族は下半身が魚なので挨拶に行けず呼び付ける事となり申し訳ないという話から始まり、春の間に何通か文を送り土筆に挨拶がしたかったという話から、この時期に取れる美味しい魚や貝の話に、手土産に生きた魚を網に入れこちらまで運んでいるという話を三十分にわたり話し始めたのだ。
「長老よ、長い挨拶は嫌われるのじゃ。気持ちはよく理解したし、挨拶はここまでにするのじゃ」
立ち話という事もあり途中で腰を折るのは無礼だと知っても、ココアに支えられ寝はじめた笑美を気にしてアステリアス待ったの声を掛ける。
「ま、まだ半分も感謝を伝えられておらず……」
狼狽する長老に周りからも話が長いという言葉が飛び交い顔を顰める。その後ろで土筆はエルエルとレレとペティートと聖女にお願いし、指輪の機能を使い何やら動き出す。
神器をテーブルへと変化させ人魚たちから歓声が上がり、指輪の収納機能を使い現れる大鍋がふたつに中鍋がひとつ。すると甘い香りが辺りに立ち込めざわざわと声が漏れる。
「これは花の香り?」
「解らんが果物ではないか?」
「甘い香りね~」
そんな声が飛び交う中、エルエルは魔術を発動させる。
「小さな結界魔法を使うのです!」
光が満ち結界魔法の応用でガラスコップの半分ほどの高さの半透明の容器が現れ、そこへレレが半透明なクラッシュゼリーを注ぎ入れ、次にペティートが青いゼリーを入れ、最後に聖女が角切りのフルーツを煮たジャム的なものを入れ完成させる。
「あれは?」
「海だ!」
「小さな海を盛り付けてる!」
「キラキラ輝いてるぞ!」
人魚たちから声が上がり長老とアステリアスも視線を向けると大量のゼリーが量産されており、レナとペティートとピピラが動き出し人魚たちに列を作るよう声を掛ける。
「本日は土筆さまが貴方達に振る舞いたいと腕を振るって下さいました。多く用意しておりますが一人にひとつお配り致しますので、列を作りお並び下さい」
レナの言葉に人魚たちは列を作り、その中でも子供たちは甘い香りにキラキラとした瞳を向ける。
「それでは長老へ最初に食べて頂きましょう!」
何やら司会進行を始めた笑美の言葉にココアがゼリーと木製のスプーンを長老へと手渡す。
「何と美しい……これは海、海なのですな……何と、何と、何と甘く……口の中が海と果実のハーモニー」
ひと口食べた長老が瞳をとして感想を言い、その味に酔いしれる様を見た人魚族たちは息を飲む。
「美味い! 美味いぞーーーーー!」
咀嚼し飲み込んだ長老の叫びに盛り上がる人魚たち。
「それでは列の先頭から受け取って下さい。川の水が入らない様に気を付けて食べて下さいね~兄ちゃんのゼリーは美味しいからほっぺを落とさないでねえ~」
司会進行する笑美の言葉にゼリーが配られ始め人魚族はワクワクしながらも列を乱す事はなく入れ替わりゼリーを受け取り、川岸に腰掛けゼリーを口にする人魚たち。
「食べるのが勿体無いわ!」
「本当に海みたいだ」
「甘い! 海は仄かに甘く、上の果実はもっと甘い!」
「お母さんこれおいしい!」
「そうね。お母さんもこんなに美味しい食べ物ははじめてよ」
そんな声が耳に入り作って良かったと思う土筆と、その手伝いをしたレレにペティートに聖女。
「人魚の皆さんが喜んでくれていますよ!」
「ん……手伝って……良かった……」
「あんなにも喜んでおられると達成感がありますね」
手を動かしながら人魚たちの反応を嬉しく思うレレたちと土筆。
「人魚の友に感謝を!」
「感謝を!」
長老の声に多くの人魚たちが続き、大きな波の様に声を上げる人魚族たち。
「みんなー、ゼリーは美味しいかー!」
「おおおおおおおお!」
「兄ちゃんに感謝してるかー!」
「おおおおおおおお!」
「人魚は可愛いかー!」
「おおおおおおおお!」
「エルルは小さくて可愛いぞー!」
「おおおおおおおお!」
「キャロ姐さんの胸は大きいぞー!」
「おおおおおおおお!」
集団心理とは恐ろしいもので、笑美の発言に何を言っても歓声で返す人魚たち。
エルエルは嬉しそうに飛び回るが、キャルロッテは大きな胸を抱え恥ずかしそうに土筆の後ろへと隠れる。
「笑美さま、そのぐらいに致しませんと、後が怖いですからね」
後ろから肩に手を置き冷たい視線を向け耳打ちするレナに、笑美はこれ以上ふざけたら大変な事になると理解する。
「了解です!」
「おおおおおおおお!」
こうして人魚族たちとの挨拶が終わり、お礼に受け取った多くの生きた魚を指輪の保存機能で収納する土筆。
「海と陸の友好がこれからも続く事を願います」
「うむ、我も、我らも願っておるのじゃ」
長老とアステリアスはお互い手を出し、固い握手を交わすのだった。
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