エピローグ
「おはよう」
「夕ちゃん! おはよう」
「おはよーユッコ」
「おはよ」
教室の扉を開けると、一学期より女の子らしくなった友人達が出迎えてくれた。緊張で飛び出しそうだった心臓が、ゆっくり落ち着きを取り戻していくのがわかる。
夏休みの間は、毎日と言っていいくらい、彼女たちと過ごした。変わったね、なんて言われたり、変わらないね、って言われたり。どっちやねん、って突っ込んだり。
そう、重大なニュースと言えば、「女子力向上委員会」の発足ですよ。記念すべきメタモルフォーゼ☆サマー。
今までおしゃれに無頓着だった私たち、だいぶ頑張った。走ったり、腹筋したり。おしゃれ雑誌を読み出した数分後に旅動画で爆笑してたり? 服を買いに行って、私はッ 今ッ 清水の舞台から飛び降りるッ と叫んで、ペンタブを買って帰ってみたり? 挙句、帰りの電車賃を皆からかき集めたり?
……まあ、あんまりは頑張ってない、かも。なりに、だね、なりに頑張った。あはは。
からかってくる男子は居ない。なんという平和だろう。
どうやらあたしは自殺未遂したことになっているらしくって。まあ、それはちょっと不本意ではあるんだけれど、からかわれないならそのままにしておこうかな、なんてな。
「何あいつら、あれで可愛くなったとでも思ってんの」
「ねー。地味ブスが必死って感じ? ウケルんだけど」
突然の、聞こえよがしな言葉に、はしゃいでいたあたしたちは凍りついた。
……ああ、駄目だ。ここに戻ってきてしまった。この恐ろしき、弱肉強食の世界へ。我々は、まだここでは戦えぬ。まだ装備が万全ではない。今までが無課金すぎたのだ。
友よ、あたしに構わず逃げろ! 安全なところへ!
「思ってますけど、それが何か?」
……え? は? 落ち着いて! 友人A! 確かに君はかなりの美少女だ。今まで眼鏡と髪型だけで隠し切ってたのは、逆に見事だったよ。でも口調が絶妙にキモイ。なんでどっぷり腐っちゃってるの?
「そうやってさ、悪口ばっかさ、いってるとさ、口が曲がるんだよ」
天然でアニメ声なのに頑張るんじゃない、友人B。人の悪口なんて、生まれてから一度だって言ったことないのに。声が震えてるよ。無理スンナ。下手したら命を落とすぞ。
「そちらは勉強に必死になったほうが良いんじゃない?」
言い過ぎ。言い過ぎだよ。学年一位連覇中の友人C。君が真性のどSなのはわかってるけど。今まで積み上げた優等生という立場を捨てる気かっ!
……みんなどうしたの? って、全部あたしの為か。うん、そうか。
「はあ?」
「マジ言ってんの?」
こええ。リア充様たち、こええええ。まさかの反撃に、かなりご立腹のご様子。でも、あたしも頑張らないと。 うれし涙が流れそう……って、感動している場合じゃない。
「先に言ったのはそっちだよ。あ、あたし達、あにゃた達に全然興味ないから、関わってこないで……ください」
うまく嫌味を言いたいのに、噛むわ尻つぼみだわ。最終的に敬語。かっこわるい。
「興味ねえのはこっちだし!」
「バカなんじゃないの?」
始業のベルが鳴って、あたしたちは慌てて席に着く。きっとみんな動悸がすごいだろうなあ。見回すと目が合った。くすりと笑い合う。うん、誇らしいね。でも、仕返しは、ちょっと怖いね。
「はい、おはよーう」
先生が入ってくる。教卓はいつもより、少し明るい。
「起立、礼、着席」
「えー突然だが、今日から、二人、クラスメイトが増えることになった」
突然のスコールみたいに騒がしくなる教室。そっか、うちのクラス、もともと一人少なかったのに、一学期に一人転校して行っちゃったからな。
「はいはい、わかったから静かにしろ~。入れ」
あたしは喧騒の中、ふと窓の外に目を向ける。青空に白い月を見つけた。
ガラリ、と教室の前の扉が開く。
……これは残念な女の子が生まれて初めての恋に落ちる、ほんの少し、前のお話。
最後までお読みいただき、ありがとうございます♪
夕子の旅はいかがでしたでしょうか。
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