第1話 友情執事万歳
こんにちは。
いすみ 静江です。
この度は、『友情執事伝』へお越しくださいましてありがとうございます。
シフェーン次期長へ、アスカは友情執事を申し出る。
篤い友情をいだき各々最愛の人と出逢いながら、敵を斃して新しい未来へ突き進んでいく。
蜜より甘い冒険の世界をお楽しみくださればいいなと思っております。
拙いながらもがばりますね。
よろしくお願いいたします。
「シフェーン! シフェーン様、今朝もですか?」
「おう、アスカ。ポヌペイの貝塚へ向かうぞ」
五千年前の国造りだと語り部は言う。
ここは陽ノ国の森の中にある。
長老一家は耳が尖り老いを知らない民族が代々続いている。
いつだか旅人がエルフのようだと呟いた。
長老の血筋にあるものは精霊が見えると言う。
月の満ちるとき、亀の甲を使って豊作祈願までなさるから、我々人間は苦労を少なくして稲作ができると父も拝んでいた。
「いいか、貝塚のジャリッとする音を立てては駄目だ。隠密行動ができなくなる。横に向かって歩いてみろ。この動きはいずれ役に立つ」
「分かりました」
シフェーン様は長老フューエル・ダイナの長男だ。
シフェーン・ダイナ様は孤独を抱えていたのに、私に対しては元気いっぱいの笑顔で接してくれる。
母ルルシュを病気で亡くし、妹ミズキは敵国氷刃国からの呪詛でドロドロに血を吐いて亡くなった。
それを機にシフェーンは左中指に紺のリングを付けている。
風の魔法使いと出逢ったときに使えるとか。
「シフェーン様も足がはやくなりましたね」
「そうか?」
母上も妹御も陽ノ国次期長、逞しい男性七歳となったこの日を見たかったであろう。
無念としか言いようもない。
ウエーブの金髪が背中まであり、ヘテロクロミアの左目と頬を隠している。
左目は銀色、右目は金色が特徴。
「脱ぐと凄いんです」と言ったらアスカが興味を示す程の体格だ。
衣類は被って腰に帯を巻く。
今は未成年だから紺だ。
日本の弥生時代の服装に似て、赤に黄色い帯だった。
ハイテンションなタイプ。
魔法に長ける。
また、次期長が亡くなったら【風の大帝】となる。
「シフェーン様、下の船着き場へ寄りませんか?」
「いいな」
元々近くに暮らしていたから、直ぐにいい友達となった。
遊びに行くにも仕事をするにもなんでも一緒だ。
「先に降りて白湯の支度をしてきます」
「頼むよ」
私はアスカ・マホロバだ。
細目の目と右目元の黒子が目立つ。
ストレートの銀髪で、前髪を上げて後ろで一つの団子にし、細く髪を垂らしている。
両目とも深緑色。
「鷹の目」が使える。
七つになれば水色に紺の帯だ。
シフェーンの友情執事として右腕となる。
弓に長ける。
女みたいだとシフェーンは笑うが、目上の方に対して無礼のなき言葉遣いを気にかけている。
「今日はお互いの誕生日だな。僕と同じ陽明歴一五三年蕾吹月三日の真昼、太真時で、産声を上げたのも一緒だと聞いたよ」
「シフェーン様と生まれる前から決まっていたようですね。なんでも亀甲占いで同じ星のもとに産まれると出たそうです」
「成程な」
ジャリ……。
ジャリ……。
「眺めがいいな。岬の眺めは最高だ」
「そうですね。よく風に当たって汗を乾かしてください」
私は太陽が昇り切る前に岬の下にある洞窟に入る。
塩風が強いが、一つだけ覚えた魔法『ピット』で火を起せる。
塊の座り易い石を選んで、竈にする。
その上に蓋つきのカップを釣るし、腰に巻いて持ってきたカパイオの泉の水を注ぐ。
白湯を作るなら私がお勤めしたい。
いつだか執事という登場人物を洋書で。
「シフェーン様、一休みしましょう」と、上へ向かって話す。
「おう!」
カササの鳥が啼いた。
ヒューイー。
ヒューイー。
私は脇道から降りたのに、シフェーン様は岬から飛び込むというちょっと迷惑なはっちゃけぶり。
岬まで、私についてくるなと子どものように追い払ったが、それでも追ってきた。
私は、二人とも同時刻に産まれた命運から、シフェーンのお供を義務的にしている。
執事にしては決心が緩い。
「旨いなあ、アスカの白湯は。薬湯なんて要らないよ」
「光栄です。次期長のあなたから」
「それは御免だ。長とかオカシイって」
「と仰ると……」
「これから分かるって。帯の式は太真時で明らかにする。僕は伊達に七歳になるまで生きていた訳ではない」
白湯の一式を片付けて、きた道を戻る。
森を抜けると、炊事の煙が方々で立っていた。
昼餉だし祝の膳もあるだろう。
去年と一昨年は子どもがいなかったから参年ぶりの着帯の儀だ。
クナガイへ戻ると私の姉スシュンがいた。
「アスカは自分で支度していてね。昨日話した通りだから」
「うん。姉さんのいう通りだね」
「そうそう。お隣を手伝ってきます」
珍しい魚などを焼いて皆で乾杯を楽しめるよう、女も子どもも男らも、家々の前で支度を進めていた。
着帯の儀は今年、シフェーン様と私だけ。
なんか特別な気がする。
「お父上。それにアスカのお姉さん、この度は着帯の儀に当たってお手数をおかけいたしました。立派なエルフになります。そして、いつかは……。いつかはよき妻を娶りたいと思います」
「あら、シフェーン……。ご挨拶が早いわ」
「そうだ。広場でしろ」
「ははは。ちょっと緊張しています」
ガタリと戸から一段下がった所に気配があった。
「なんだアスカか」
「私は支度できたよ」
「分かった、僕も家を出るよ。広場まで一緒にいくか?」
広場に両の手を広げた位の切り株がある。
「ようきたのう、シフェーン」
「お祖母様、僕も待ち焦がれていました」
「アスカもお供します」
エーベルの祖母は森の外れに籠っている。
なんでも敵国氷刃国から弓一つで亡命してきたそうだ。
いつも驚かされるが、この国一あたたかい人だと私は思っている。
「村の者、皆集まったか?」
シフェーンのお父さんは三年前の氷刃国と天の川結界戦で左半身が思うようにいかない。
スシュンが訪ねてきたのは知ってのこと。
不自由なく滞りなく行えるように体の方を庇った。
「うんぎゃー! ほげらげら」
「赤ちゃんはお返事しなくていいからね」
はははは……。
スシュンの甘い声が素敵だ。
「シフェーン・ダイナ、アスカ・マホロバ。両名とも切り株に上がりなさい」
「はい」
「分かりました」
次期長のシフェーンが上がり、私も上がる。
いよいよ衆目の前で新しい帯を授かり、エーベルによってシフェーンは赤い服に身分の高い黄色の帯、アスカは水色の服に普通の身分の紺を巻いて貰う。
「なんか違いますね。今まで麻の帯でしたから」
「もっときちんと前を向かなくて駄目だ。アスカ」
「はい……」
シフェーンが大きく張った声を上げる。
「僕はシフェーン・ダイナだ。ダイナ家のものとはいえ、次期長が決定している訳ではない。この村は人もいいしお互いを疑わないのがいい所だと思っている。しかし、気の緩みで外交が下手だ。僕ならば、身分制度を撤廃し、長老も相応しい者を選出、戦に応じられるように、次期前衛と後衛を鍛える日を設けたい」
私は目を丸くした。
シフェーンがそんなことを考えていたなんて。
私を恥ずかしいと思った。
「シフェーンの覚悟を聞いたよ。中でも身分制撤廃を目指すことに心惹かれた」
背中がぶるっと身震いした。
「では、エーベルより魔法のマントを授けよう。今後十年間、着帯の儀を済ませた者は敵に見えないように」
「では、十七歳まで」
「そうだ」
「は! 風の神シルフィーナのご加護を、シフェーン・ダイナとアスカ・マホロバへかけ給え。以後十年無事を願わん」
ぐ、お……。
う――。
「よし、これで二人とはいえ、村人にマントを被せることができた。十年は長いようで短い。自由に育てよ」
「はい」
「分かりました」
シフェーンの帯は自分でまた麻に戻してしまった。
美味しいものを沢山食べたところだ。
「ははは。食べ過ぎたな。もう一度岬へ行こう!」
「はい!」
再び貝塚へ走って行く。
シフェーンは今朝のシフェーンではない。
アスカは、この方についていきたいと思った。
岬の上で白湯を支度すると、意外な言葉を閃いた。
「シフェーン様」
「なんだ。冷めてないから熱いよ」
「すみません」
仕切り直し。
「シフェーン様」
「ん? なんだ」
「私を『友情執事』にして欲しいのですが」
くすっとシフェーンが笑う。
おかしかったかな。
「熱い白湯で乾杯な」
土器でお互いが酌を上げた。
「いいのですか? これからがんばります。がんばりますから」
またカササの鳥の声を聞いた。
ヒューイー。
ヒューイー。
きっと我々には幸運が待っているとアスカは信じる。




