第30話 閃斗の機密の提示
閃斗と結月のダンジョンデート。
当然、各々が武器を持って現地に再集合することになったが……。
「海賊の船長のような豪快さを持ってるとは思ってたが、まさか武器もサーベルとは恐れ入る」
「そういう閃斗君は刀だね。ただ……すごく、ナマクラに見えるけど」
マリアの洞窟。
50層にて。
本来ならAランクが挑む階層に、Dランクの閃斗と、元Bランクの結月が来ていた。
「ほう、鬼か。ここは久しぶりに潜ったから忘れてたよ」
身長三メートル。
金棒を持った赤鬼だ。
「オオオオオオオオオオオオオッ!」
赤鬼が接近して、結月に向かって金棒を振り下ろす。
結月は余裕をもって回避すると、サーベルを赤鬼の胸に向けて、真横に一閃した。
「オッ……オオオォ……」
一太刀。
それだけで、赤鬼は地面に倒れて、魔石を残して塵となる。
「……元Bランク。と言ってるけど、定期的に潜ってる人の強さだな」
「でしょ? 『探索者としての成果を世間にアピールする』と言う意味での『タレント探索者』はBランク時代に辞めただけで、別に探索者は辞めてないからね」
「辞めてないというか、辞められるわけないでしょうね」
「それはそうだね」
ダンジョンが出現して50年が経過し、探索者も増えて、魔石の価格は値崩れしている。
ただ、『魔石』とは、浅い階層だろうと深い階層だろうとモンスターを倒せば出てきて、魔石の中に含まれる魔力の量が違うだけで質は同じだ。
しかし。
モンスターを倒して得られるドロップアイテムや、深い階層の採取スポットから得られるアイテムは、まだまだ需要がある。
Bランクは『上級』だ。
タレントとして辞めるのは『本人の都合』だが、探索者を辞めるのは、市場ではなく、政府側が難色を示すだろう。
「……その様子だと、閃斗君。私の『身体強化の運用』は知ってても、『事情』は知らないのかな?」
「別に興味もないので」
「そっか……」
赤鬼に、また遭遇する。
閃斗は鞘に納めた刀の柄を握ると、一瞬で、その場から消えた。
赤鬼の胸が一閃され、魔石を残して塵となる。
「……閃斗君。探索者としてはDランクってなってるけど、魔力量はFランク相応だよね。身体強化で脚力を上げてないのに、なんでそんな動きができるの? ナマクラなのにAランクモンスターの体を斬れるし」
「……うーん」
閃斗は少し考えて。
「先に、結月さんの話を進めましょうか。話したいこと、まだあるんでしょう」
「……そうだね」
結月は苦笑した。
「タレント探索者として、自分の成果を公表してた時、40層のボスに、パーティーで挑戦したんだよ」
「40層ボス……BランクがAランクに上がるための壁ですね」
「そう。突破すれば、『上級』を超えて、『天才』と呼ばれる。そういう段階だった。『配信魔法』もしっかり用意して……あの時の私たちは勝てなかった。しかも、仲間の一人が大怪我してね」
「大怪我……」
「もちろん、Bランクポーションをたくさん使ったよ。怪我は治ったけど、攻撃された時に体内の魔力が狂ったのか、それが後遺症になってね」
「……」
当時は、40層のボスに勝てなかった。
しかし、今、二人は50層にいる。
結月がマリアの洞窟の50層の転移スポットを使ったことがあるからこそ、ここに直通で転移することができた。
収録の合間に来れるような距離ではないので、以前、来たことがあるのだろう。
要するに、ここにきて戦うだけの動機が、結月にはある。
「……『魔力内科』の医者が言うには、50層よりも奥、Sランクの階層のポーションじゃないと完治できないってさ」
「だから、Aランクとして戦えるくらい強くなって、今もダンジョンで潜っている。でも……」
「50層のボスは、勝てないんだよね。何度やっても」
赤鬼に遭遇する。
しかも、金属の鎧を身に着けた、先ほどよりも頑丈な個体だ。
「50層のボスに、ソロで挑んだ後だったかな。スキルが、私の中に発現してたんだよね」
「……」
結月はサーベルを掲げる。
「『絶対叶わぬ切なる願い』」
次の瞬間、結月のサーベルが、一気に豪華なものに変わった。
その豪華なサーベルが、左手にも出現。
さらに、腰にはそのサーベルたちを納める鞘が出現。
両足の太ももにはレッグホルスターが出て、拳銃が納められている。
「それまではサーベル一本で戦ってたけど、このスキルを手に入れてからは、サーベル二本と拳銃二丁。このスタイルが戦いやすくてさ」
「……武器生成系スキル。しかも四本ですか」
「うん」
二本のサーベルを構えて、結月は突撃する。
そのまま、鎧の上から、赤鬼を切り裂いた。
「ゴッ、ガッ、ガアアアアアアアッ!」
そのまま、赤鬼は倒れる。
魔石を残して、塵となって消える。
それとは別に、宝石が一つあった。ドロップアイテムだろう。
「私。強いと思うんだけど、でも、50層ボスには、勝てなかったんだよね。なんでだと思う?」
「まずその……」
閃斗は内心で、ため息をついた。
「俺が、Sランクだと思ってるんですか?」
「そう、ダンジョンの中には、『50層の食材エリア』が用意されてるところもある。そこよりも、あのワサビは格別だった」
大将の寿司を食べて、『45層の味がする』と言っていた。
ただ、元Bランクであるなら、潜っているのは40層が上限のはずだ。
経験と比較して言い当てられるなら、当然、45層の食材を食べたことも、その奥に食材を食べたこともある。
それで判断したのだろう。
「……はぁ」
閃斗はため息をついた。
「法則を、教えておきましょう」
「法則?」
「そう。50層を超えるというのは、どういうことなのか」
結月の目は真剣だ。
はぐらかしたところで意味はない。
機密で通している部分は閃斗の中でいくつもあるが、その『一部』には、触れていいだけの格を有している。
「Aランクは『天才』と称されますが、Sランクは何と言われてますか?」
「『人外』って言われてるね」
「そうですね。ただ、人が、別の形になるわけじゃない。何をもって人外とするのかと言う話」
「……何をもって、人外とするか」
「結論から言いましょう。考えてたどり着けるものじゃないので」
「!」
結月が目を見開く。
結論から言われるとは思わなかったのだろう。
「『頭の中のリミッターを、躊躇なく外せること』です」
「リミッターを外すって……」
「人間の体は、壊れないためにリミッターがいくつも存在する。でも、人間の本気とか全力って言うのは、リミッターを外した先にあります」
魔力がなかったとしても。
火事の建物の中で、華奢な女性が箪笥を持ち上げた。と言った話はよく例えとして出てくる。
よく言う『火事場の馬鹿力』というヤツだ。
「リミッターを外すこと。外せてしまうこと。これが一つ」
「えっ?」
「これは『素質』の問題です。『資格』の問題もある」
「資格?」
「はい。50層のボスには、『スキルを発現させる権限』があるんです」
「スキルを……」
「挑んだことがあるって言いましたよね。勝つ必要はありません。認められれば、スキルは手に入ります」
「……」
絶句している。
自分の中の素質が開花して手に入れたと思った力が。
まさか、『ダンジョンのボスから与えられた力』だったというのは、気持ちの整理をつけるのが難しいだろう。
「50層ボスから認められるスキルと言う『資格』。頭の中のリミッターを外せる『素質』。この二つが揃って、50層のボスを倒せる。『そういう難易度になってる』んです」
「……じゃあ、私に足りないのは……」
「戦闘スタイルとスキル。双方を掛け合わせつつ、『頭の中で、何かのリミッターを外す』……それができていないゆえに、突破できない。ただそれだけの話です」
「……」
結月は自分が握るサーベルを見た。
「……じゃあ、閃斗君も、スキルを持ってるんだよね」
「そうです。51層にたどり着いていながら、スキルを持っていないということはあり得ません」
「……」
「……スキルは教えませんよ」
「ケチっ」
「第一、教えたところで真似できないので。スキルは原則、一人につき一つまでですから」
「はぁ、じゃあ、その、リミッターを外した何かって……」
閃斗は一瞬、話すかどうか、迷った様子だが……。
「俺の魔力量、見えてますよね」
「うん。正直、『ダンジョン非推奨』だよね。頑張っても、ライターくらいの火しか出せなさそう」
「そうです。魔力量が少ないし、『高出力を扱う才能』も有りません。ただ、『出力をミクロレベルに絞る』ことはできるんですよ」
「ミクロ……って、まさか」
結月は驚愕しつつも、口にした。
「そのミクロの魔法を、『自分の体に使ってる』の?」
「そうです。火属性の応用で体温の維持。水属性魔法の応用で保湿したり血の流れを良くしたり……あと、地属性魔法の応用で、『角質を除去したり』とかね」
「角質の除去!?」
結月は閃斗の顔を見た。
「じ、じゃあ、閃斗君の肌がめっちゃきれいなのって……」
「そう。俺が自分の体を実験して作った『体内魔法』で、常に最善のコンディションを維持してるからです。もちろん、コンディションの良さは戦闘力にも直結します。肌質が良いのでセンサーとしても高性能で、危機回避も抜群です」
「……」
結月は無言になったが、顔が『嘘やろ……』と言っている。
少し経つと復活する。
「……なんで、隠してるの?」
「普通の人は魔法の出力をミクロレベルまで下げられないからです。結月さんも、下手に真似したら、体がズタズタになりますよ」
「なるほど、閃斗君の肌の秘密は女性からよく聞かれるだろうけど、教えて真似して……」
「事故になったら、二度と肌が戻らない可能性もあります」
出力をミクロレベルにまで絞った魔法を自分に使って、強引に体調を整えている。
それが、閃斗の『機密』の一部。
「安易に真似されないために、普段は『機密』で通してるんだね」
「そういうことになります」
「なんで、私には教えてくれたの?」
「基準は話しません」
「えっ?」
「だから、結月さんも人には教えないでください」
何故教えたのか。
その基準を教えるということは、『結月もその判断基準で、何かあったときはそれを誰かに漏らしていいという判断』に繋がる。
だからこそ、『何故言ったのか』は教えない。
「基準を教えないことで、私が『誰かに漏らしてもいい判断材料』を与えないってことか……徹底してるね」
「はい」
「……で、スキルは教えてくれないんだよね」
「それは機密です」
「そっか……」
結月の目線が、閃斗の刀に向かった。
「ついでに聞いていい? その刀。何なの?」
「このダンジョンの浅い場所で手に入る刀ですよ。内部の魔力が荒れていて、一見するとナマクラにしか感じませんが、その荒れている魔力を中和する『少量の魔力』を流すことで、魔力が急激に安定して、業物になります」
「……その刀があるからこそ、魔力量が少なすぎて、身体強化をまともにできない閃斗君が『攻撃力』を持ってる。そういうことだね」
「そういうことです」
魔力量が少ないことは間違いない。
火属性魔法を使おうとするとライターの火にしかならないのだ。
身体強化で筋肉を強化しようとしても、一ミリも影響がない。
それでは、危機感知がどれだけ優れていても、攻撃力が足りない。
しかし。
特定条件下で業物になる武器があるからこそ、閃斗は戦える。
「ついでに、魔力の荒れ具合は毎秒変わるんですが、肌質が良すぎてセンサーが敏感なんですよ。その魔力の荒れ具合をリアルタイムに把握できるので、俺の愛刀になってるわけです」
「……スキルが何なのかはわからないけど、腑に落ちたよ」
結月は、大きくため息をついた。
「収録の都合でね。ちょっとここから離れた場所に行くことになったんだよね。軽くここに来るのも難しいから、その前に、納得できる話を聞けて良かった」
「そうですか」
「うん。あと……」
結月は朗らかな笑みを浮かべた。
「閃斗君は、私がSランクになれると思う?」
「仲間の後遺症が完治していないという『事情』を抱えていながら、『純粋な精神』に惹かれるミーちゃんが懐いてたんです。頭を狂わせる素質はあると思いますよ」
「もう! そういうこと言わないの!」
プンプン、と怒る結月。
どうやら、調子が戻ってきたようだ。




