㉛ 苦い結末
巨大な獣が、二人に跳びかかる。
その瞬間に、フルカネルリ卿のライフルが火を噴いた。
弾丸は、見事にヤツの眉間に命中した。
バケモノは、その場に倒れ込んだ。
しかし、三秒もしない内に、そいつは再び立ち上がった。
「おかしい、そんなバカな!ゾウ一頭分の致死量の毒が入った弾丸だぞ!?」
フルカネルリ卿は、いよいよ焦り出した。
「……僕がお手伝いしましょう。」
雪村が野獣の正面に回り込み、両手を広げて仁王立ちになった。
バケモノが、彼に狙いを定めて突進する。
その鋭い牙が、あわや彼に食らいつこうとする寸前に、雪村は両手を素早く合わせ、パン!と一つ柏手を打った。
するとどうだろう。
"ジェボーダンの獣"として、何年もフランス全土に知られ、恐れられて来たその巨獣は、ほんの一瞬の内に、その場の空間ごと左右から潰されて、すっかりペシャンコになってしまったのだ。今や肉も骨も砕け、血まみれの、ほぼ毛皮だけになって横たわるその姿は、哀れですらあった。
「……後の始末は、任せますからね。」
雪村は無表情のまま、それだけ言い残すと、すっかり青ざめた顔になった弓子の手を引いて、現場を後にした。
フルカネルリ卿は、ただ呆然として、その場に座り込むしかなかった。
二人で黒いビートルに戻ると、雪村は無言でクルマを上昇させ、リセットボタンを押して帰路についた
帰りの道すがら、まるで独り言のように、運転席の彼は呟いた。
「人工的に生み出された実験動物とは言え……いや、それに加えて、たくさんのヒトの命を奪ったバケモノとは言え、悪魔でもないモノを殺すという行為は、やはり後味が悪いモノだよ。」
「貴方が決して、無慈悲な人ではないという事は、誰よりもこの私が、一番良く知っているわ。」
慰めるように助手席の弓子が言った。
「多分、妹のユッコならば、殺さずに何とか出来ないか、その道を模索した事だろうと思う。アレは悪意の無い、無垢な魂だった。ただそこには、純粋な殺意と食欲しか無かったからね。」
「そうかも……しれないわね?」
「ウチなるアモン・ラーは、何と言うか解らないけど、僕自身は、やはり三次元の住人として、魂だけじゃなく、物理的な肉体も大切にしたい。だからこそ、あんなモノを創り出したフルカネルリ卿は、好きになれないな。」
「その点は、私も同じ気持ち。今、とてもイヤな気分よ。」
「この件に関しては、帰ったらしっかりと、伯爵に進言しておこう。」
「……そうね。」
こうしてまた、黒いビートルは、名護屋テレビ塔を目指して、時空の彼方へ消えて行ったのである。
以上で第26巻はオシマイです。
続く第27巻もどうぞよろしくお願いします(>ω<)




