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日本霊異記 現代語版  作者: はまゆう


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第二十七 偽の僧が塔の木を切って、恐ろしい悪報を受けた話

石川沙弥いしかわのしゃみという者がいた。役所の許可を得ず勝手に出家した(私度僧の)ため正式な僧名はなく、俗世の姓名もまた詳しく分かっていない。彼が「石川沙弥」と呼ばれた理由は、その妻が河内国石川郡(※現在の大阪府東南部)の人間だったからである。

彼は姿かたちこそ僧侶の真似事をしていたが、その心は盗賊そのものであった。

ある時は「塔を造る」と嘘の触れ込みをして、人々から財物をだまし取って集め、それを妻の元へと持ち帰っては、様々な品物を買い調えて贅沢に食い貪っていた。またある時は、摂津国島下郡(※現在の大阪府吹田市・茨木市付近)の舂米寺つきよねでらに留まり、なんと(寺の)塔の柱を切り刻んで薪として燃やし、仏法を汚した。これほど凄まじい悪行を働く者は、他にはいない。

やがて彼は島下郡の味木里あじきのさとに至ったとき、突然の病に襲われた。そして大声を張り上げてこう叫んだ。

「熱い! 熱い!」

その身体は、苦しみのあまり地面から一、二尺(約30〜60センチ)ほども宙に浮き上がるほどであった。

人々が集まってこれを見届け、ある者が尋ねた。

「なぜそのように叫ぶのだ?」

男は答えて言った。

「地獄の業火が、私の身体を焼きにやって来たのだ。この苦しみは言葉にならぬ、わざわざ尋ねるな!」

そして、その日のうちに息絶えた。

ああ、哀しいかな。罪の報いは決して虚しいものではない。どうして慎まないでおれようか。

涅槃経ねはんぎょう』にこうある。

「もしある人が善行を修めるのを見たならば、それは天人(天国の住人)を見たと言える。もし悪行を修めるのを見たならば、それは地獄(の罪人)を見たと言える。なぜなら、必ずその報いを受けるものだからだ」

とは、まさにこの男のことを言うのである。



解説

前二話の「聖なる奇蹟」の対比として配置された、人間の業の深さと「現世で地獄が始まる」という臨場感あふれるホラーエピソードです。

1. キャラクター造形:「私度僧しどそう」という古代の闇

主人公の石川沙弥は、国家の許可なく勝手に髪を剃って僧侶の服を着た「偽僧侶(私度僧)」です。当時の律令社会において、僧侶は税金が免除される特権階級であったため、こうした偽僧侶が横行していました。

さらに彼は、詐欺(クラウドファンディングの元祖のような「塔の建立」を謳った詐取)を働き、それを妻と消費するという、極めて世俗的で小悪党なキャラクターとして描かれています。

2. 「塔の柱を薪にする」という大罪

彼の悪行の極みとして描かれるのが「舂米寺の塔の柱を切り倒して燃やした」という行為です。仏教において「ストゥーパ」は仏(お釈迦様)の身体そのものであり、宇宙の中心を意味します。その柱を生活の薪にするというのは、当時の価値観からすれば言語道断の国家反逆レベルの不敬罪であり、信仰への冒涜でした。

3. 「宙に浮くほどの熱悶」という卓越したビジュアル描写

この物語の最大の見せ場は、彼が死ぬ直前に「熱い!」と叫んで、地面から一、二尺(30〜60cm)も体が浮き上がったという描写です。

これは、死んでから地獄に落ちるのではなく、「生きながらにして、すでに目に見えない地獄の業火で焼かれているため、熱さで体が跳ね上がっている」という超常現象を視覚化したものです。

野次馬が集まってきて「どうしたの?」と呑気に話しかけ、苦しむ男が「聞くな!」とキレながら絶命するカット割りは、非常にスピーディーでドラマチックです。

前回の「多羅常が楊枝と錫杖をピタリと自立させた(聖なる静寂)」に対して、今回は「悪人が苦しみで宙に浮き上がった(邪悪な動揺)」という、見事な対比構造になっています。景戒の「読者を飽きさせない編集手腕」が光る一編です。


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