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風鈴の契約者  作者: 海藤
1/15

00 始まり


世界は人ならざるモノ達によって、見守られ、時が過ぎていく



温かき大地は全ての生命の源となり、蒼き水の流れへと繋がる



優しき水は生命の繋ぎとなり、深き緑の風と踊る



力強き風は生命の運び手となり、紅き炎が舞いあがる



大地、水、風、炎はひとつとなり、光と闇が生まれる



希望と救いの光は生命を創り、人々を導く



静寂と安らぎの闇は生命を還し、そして生命は世界を巡る









この世界は、精霊達が愛する世界ゆえに自然があふれている。

人々が多く暮らす大きな街中であっても、近くに山があり、川がある。

自然と共にあることは人々にとって当然であり、それを壊そうと考える者は少ない。


空を移動しながら”彼女”は暇を持て余していた。

”彼女”は退屈で暇な事が嫌いな事は、”彼女”と同類の彼らは分かっていた。

だが、”彼女”の退屈に付き合わされては、彼らの身がもたない。

ゆえに彼らはこう思うのだ。

わが身に降りかかりませんように…と。


”彼女”は決して残虐非道なわけではない。

ただ、退屈が嫌いで面白い事が好きなだけだ。

そして賑やかで楽しいことが好きなだけなのだ。

そこに悪意は全くない。


”彼女”はふと面白い事を思いつく。

その視線の先には、声を上げて走り回る6~7歳程の少年達。

この周囲の国々では対して珍しくもない黒髪の少年たちだ。

瞳の色も珍しくもない紺や茶。

”彼女”が気にかけるような何かトクベツを持つ者がいるわけではない。

だが、”彼女”は思いついてしまったのだ。


時間が経ち、少年たちがパラパラと自然に家に帰って行くのを見る。

そのうちの1人がまだ遊び足りないとでも言うような表情をしていたのが見えた。

もっと遊びたい、楽しい事をしたいと言いたげだ。

その気持ちに”彼女”は大きく同意したいと感じた。


その少年は何を思ったのか、小さな山の方に駆けだした。

小さいとはいえ、その山には獣もおり、子供1人で遊ぶにはそろそろ危険な時間帯だ。

だが、少年は自分の楽しみを満たす事を優先した。


案の定というべきか、しばらくすると少年が恐怖に顔を引きつらせながら山の中を走り回っているのが分かった。

”彼女”は、ふっと口元に笑みを浮かべて降りる。

恐怖で更に山の奥へと向かってしまっている少年と、目の前の柔らかい肉を得ようとしている鋭い牙を持つ狼達の間へと。


ふわりっと舞い降りた”彼女”に重さは感じられない。

本能で何かを感じたのか、狼たちは足を止めてその場で”彼女”をじっと観察する。

少年は幼いながらの感覚で足を止めてゆっくりと”彼女”の方へと振り返る。


「ね、取り引きしよう」


にこりっと笑みを浮かべながら”彼女”は少年に手を伸ばした。

差し出された手は白くとても綺麗な手で、さらりっと舞う長い髪は新緑の色。

少年にとって見た事もない美しさを持つ”彼女”。

かけられた声が自分へ向けられたものとは思いもせずに、少年は”彼女”に見惚れた。


「君を助けてあげる。だから、取り引きしよう」


尋ねるのではなく、選択肢を与えるわけでもなく、その言葉はすでに取り引きが決定付けられたかのような言い方だ。

少年にはそんな事分かるはずもなく、引き寄せられるように”彼女”の手を取る。


「取り引き成立、だね」


にこっと再び”彼女”は少年に笑みを浮かべる。

少年がぎこちなくだがこくりっと頷くと、ざあっと大きく風が舞う。

その風は狼達に恐怖を抱かせ、狼達は怯えるように少年と”彼女”から逃げ出す。


「君の名前は?」


笑顔のまま問いかけられ、少年はぽつりっと自分の名を口にする。


佐久耶さくや…」


この近隣の国では貴族以外に姓はない。

少年は、本当にどこにでもいる普通の少年なのだろう。

だが、それは今日のこの日迄の事。


「サクだね」


自分の名前の呼び方を縮められても全く気にせず、少年…佐久耶は頷く。


「じゃあ、サク。聞いて」


そして”彼女”はとても意味ありげな笑みを浮かべる。

ふわりっと風が”彼女”の声を外に漏らさないようにと2人を包み込む。


「私の名前はね…」


ゆっくりと少年の耳に届くその名はどこか心地よく、それでいて耳に残る。

”彼女”の名前が少年に浸透し、そして少年はゆっくりと意識を落とした。


それが始まり。

普通の少年が、普通でなくなった始まり。

”彼女”と佐久耶の始まりだ。



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