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風鈴の契約者  作者: 海藤
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01 これが俺の現状


俺は汪秦オウシンっつー、この世界ではそこそこ大きい、周囲の国々とはちょっと違う変わった文化のある国に住む普通の17歳だ。

汪秦オウシンでは、髪が長いのが普通だから勿論俺も長い。

黒い髪を後ろでざっくり1つにまとめてある、目の色はどこにでもある紺色だ。

たいして珍しくもない、本当にごくごく普通の容姿だ。


家は商家だ。

家庭で扱う小物を主に、海外から珍しいものを輸入して売ったり、色々。

俺は三男坊で別に家を継ぐ必要もなかったりするもんだから、のんびりと家の手伝いをしながら親兄弟と一緒に暮らしてる。

一番上の兄貴は結婚して嫁さんもらって、後継ぎとして一生懸命親父に仕事を教わってる。

長男は大変だ。

二番目の兄貴は農業に興味を持ってたらしくて、どっかの農村に行ったきりだ。

どっかと言っても農村の名前をしらないだけで、どこにいるかは知っているし暮らしも充実しているようだから、何の心配もない。


そんなこんなで、俺はのんびりのほほんっと三男坊生活を続けるのが今の夢だ。

まぁ、勿論、将来的には可愛い街娘をお嫁さんにもらって独立とかもしてみたいが、それはもうちょっと先でいいだろ。

家の商品運んだり、お客さんとにこにこ談話したり。

うん、平和でいいよな。


(つ・ま・ん・な・いーー!!)


ぐわぁぁんっと頭に響く女の子の声。

勿論俺以外には聞こえないだろう事は分かっているから、表情を引きつらせる程度に反応をとどめておかないと、周囲に変に思われる。


(うっさいぞ、フィラ!)

(だって、だって、サクってば最近普通の日常でつまんないんだもん!)


脳内で会話をする俺達。

昔はこの脳内会話するのも慣れなくて大変だったが、今では悲しい事に面白いほど会話が続くほどに慣れてしまった。


(つまんなくて結構!お前がつまらないってことは平和ってことだ、うん!)

(えー、刺激欲しい。刺激的な日々がいいー)


俺くらいの年頃になると、ちょっとくらい無謀な、でも刺激的な日を過ごしてみたいって考えるのが普通らしい。

けど、悪いが俺は十分すぎるほど刺激的な日をおくらせてもらったから、もうそんな日々は必要ない。


(ね、ね、サク。今度はどこ行きたい?)

(くぉらっ、まて!どっかに行く事は決定か?!)

(だってこの国そこそこ平和だから、取りあえず街中で事件なんて起こらないし。となればっ!!やっぱり、外に行かないと!)


外出が決定となってしまって、思わずため息がこぼれてしまう。

普通に旅行するなら俺も別に構わない。

けど、コイツと一緒だとロクなことにはならないのは経験済みである。


(この間、風の噂で西方でソコソコ強い盗賊団がデカイ顔して困ってるらしいって聞いたんだけどなぁ)

(誰が行くか!)

(えー、だって、盗賊団なんていたらそのあたりに住んでいる人達困るよ?大変だよ?)

(……ぐ、軍が一応あるだろ)

(田舎の方だから、軍隊なんてだせないし、かといってその辺の警備兵とか傭兵じゃ無理だよ。軍隊が簡単に出てこないってのはサクも分かってるでしょ?)

(そ、そりゃそーだけどな…)


汪秦オウシンもそうだが、大国ってのは総じて田舎を軽く扱いがちだ。

少数を切り捨て多数を取る。

仕方ないっちゃ仕方ない事だ。

軍人らが暇していて田舎に出向かないわけではない。

色々理由があって、軍隊を派遣できないだろう事は分かっているのだ。

だが、そうは言っても助けられるものならば助けたいと考えてしまうのが、きっと俺の悪い所なんだろう。


(…で、どこだ?)


盗賊団相手に普通ならば1人でどうにかしようなんて思わないだろう。

生憎と俺はどうにかできる手段があるにはある。

この頭に響く声の主であるフィラのおかげで。


(西方でも一応国内だよ。風秦フウシン地方はずれの国境ギリギリあたりの小さい村の近く)

(今夜、行くか)

(うん!そうこなくっちゃね、サク!)


楽しげな声に思わず普通に再びため息がこぼれてしまう。


(けど、これで最後だからな!次は行かないからな!)

(うんうん。そうだといいね~)

(断定を勝手に希望に変えるなぁぁ!)

(いや~、だって、サクってば、なんだかんだと言いながらも結局は助けられる人は見捨てられないからさ~)


分かっている。

いくら退屈しのぎとはいえ、フィラの提案は結局は悪い事ではない。

大抵誰かを助けたり、なにかの為になったりする事ばかりだ。

被害をこうむるのは俺だけ。

と言っても、俺は自分が犠牲になって皆が幸せになるならいい…なんて正義心は持ち合わせていない。

結局は自分が可愛い。

けど、今の自分にとって出来る事ではあるから、引き受けるだけだ。

決して刺激的な毎日を望んでいるわけじゃないんだ!

絶対、絶対、いつか、のんびりのほほんっと空を眺められるような日々をつかみ取ってやるっ!!





唐突だが、この世界には精霊がいる。

汪秦オウシンでは精霊に対して信仰心が大きい訳ではないが、その存在は当たり前のように信じられている。

なぜならば、汪秦オウシンの代々の王は精霊の契約者であるからだ。


精霊ってのは、人間と違う大きな力を持ち、自然を操り、長き時を生きるこの世界に当たり前に存在するものだ。

土、水、風、炎、光、闇の6つの属性の精霊がいる。

精霊たちの中でも色々強さはあるらしいが、どんな精霊とでも契約を交わした人間を契約者と俺たちは呼ぶ。

元々精霊は小さな頃は見えても、大人になるにつれて段々とその存在を感じ取れなくなるのが普通らしく、精霊と契約できる人間はごく少数。

その少数のうちの1人が汪秦オウシンの国王だ。


契約者がどんな存在であるのか、契約者となる事で何が変わるのか。

それを詳しく知っているのは契約者となった者だけ。

まぁ、何ができるかは契約する精霊の属性や、精霊の位によって結構変わるらしい。


「ねぇ、ねぇ、サク。もうっちょっと速度上げないと、帰りは明け方になっちゃうよ?」

「…つっても、これ以上は寒いんだよ」

「そう?」

「こんだけ高度上げて飛んでりゃ、寒いに決まってるだろっ!」


ふ~んと気にしていないかのように俺の隣を一緒に飛んでいるのは、普段は頭の中に声を飛ばす存在、フィラである。

今、俺はかなりの高度と速度で雲の上を飛んでいる。

時間は太陽が沈んで月が出てきている夜だ。

普通の人間は空なんぞ飛べん。

なんで俺が空を飛べているかと言えば、俺が先に述べた契約者であるからだ。


契約相手は俺と同じように飛びながら寒さも感じない隣にいるフィラ。

さらさら風に揺れる新緑の髪は綺麗で、同色の瞳も綺麗だと思う。

月明かりで髪の色は新緑に蒼がかった色に見えて、神秘的にも見える。

誰がみてもフィラはきっととびっきり可愛いと思う。

フィラがにこっと笑えば、顔を赤くする野郎どもは多数だろう。

断言できる。


俺が何でこの国でも数少ないだろう契約者であるかといえば、フィラの気まぐれだったとしか言いようがないだろう。

元々俺には契約者になるような才能なんて微塵もなかった。

だが、契約した時期が幼かったから、素晴らしく綺麗に契約が馴染んでいしまっているらしい。


最初の頃は精霊と契約した事でものすごく喜んだ。

そうだろ?だって、契約者ってのは数が少ないトクベツな存在だ。

自分がトクベツだと優越感ってものがあってちょっと嬉しいもんだ。

だが、その優越感が消え去ったのは結構すぐだった。


フィラの属性は風。

風の精霊ってのは退屈嫌いで、暇も嫌いで、面白い事が大好きな気まぐれな存在らしい。

退屈嫌いなフィラに振り回される事何百回か…国内はおろか、国外にも連れ出され、危険な場面に出会えばフィラの精霊の力を借りて一掃。

何度この理不尽な行いに叫んだ事か…。

しかし、上目遣いで「ごめんね」とうるうるされてしまうと、結局何も言えない駄目な俺。

し、仕方ないだろ!フィラは可愛いんだっ!性格がアレでも可愛いんだっ!


そんなこんなでフィラと契約して10年。

色々あって体術もフィラに教えてもらったり…つか、なんで精霊が体術できるんだ?

契約者の特権である、契約相手の精霊の属性の力を使えるようになったり。

強くなれたってのは良かったのかもしれない。

けど、けどな!

人助けが多かったとはいえ、殺伐とした場所に連れて行かれる日々を10年間だぞ!

平和でのんびりした日が恋しくなるのは当然だろ?!


「サク、そろそろ色変えないと」

「あ、ああ。そう言えばそうだな」


すっと目を閉じて集中すれば、自分の髪の色と瞳の色が変わっていくのが分かる。

フィラと契約した事で変わる髪の色と瞳の色。

変わる色はフィラと同じ新緑の色だ。

別に変えなくても風の力は使えるんだが、フィラの力を限界まで借りる時は色が変わるのは強制らしい。

今、わざわざ色を変えるのはフィラの力を全力で使いたいからではなくて、その方が俺が俺だと分からないからだ。


契約者ってのは国内でも数が少ない。

万が一姿を見られて俺だと知られてしまって、契約者である事が分かれば問答無用で軍入りだ。

軍隊が厳しい所であると噂で聞いていた俺は、絶対に問答無用の軍入隊は嫌だと思ったのだ。

幸い、強制軍入隊はフィラの面白い事には入らないようで、正体がバレない為に色を変える事はフィラ的にも賛成のようだ。

フィラは、自由きままに色々な所へ飛んでいって、厄介事に巻き込まれるのが好きらしい。


「それじゃ、盗賊退治。張り切って行こう!」

「退治っていうより闇打ちだと思うんだが…」

「卑怯上等!」


そんな事をはっきり言い切るフィラは、本当に精霊なのだろうか?と思ってしまう事がある。

まぁ、精霊には精霊の考えってのがあるんだろうけどな。

正々堂々やらないと駄目って言われるよりはいいのかもしれない。


俺とフィラは速度を落としてある地点で空に止まる。

ゆっくりと高度を落としていくと、そこが森の中である事がこの薄暗い中でもなんとなく分かる。

森の中にぽつぽつともる明かりは盗賊団の住処がそこにある証拠なんだろう。


「声拾って確かめる?」

「いや、もう確認した」


明かりが見えた時点で、風をささっと使って下から聞こえる音を拾った。

聞こえる声とその内容は、どう好意的に考えても普通の村人たちの会話ではないだろう。

とにかく早く終わらせたい。

俺はさっさと帰って寝るぞ!


俺は右手を上げて手の平を空に向ける。

それだけで風は応えてくれる。

さわりっと優しく頬を撫でる風、力強く舞い上がる風。

風が手の中に集まるこの瞬間が、俺は結構好きだったりする。


「吹き飛べぇぇ!!」


勢いよく上げていた右腕を下げる。

その瞬間ざあっと風が嵐のように舞い、森の木々の間をすり抜けて、そこにいる存在を巻き上げる。

風の塊ぶつけて、押しつぶすってこともできるがそれは色々後味が悪いからやらない。

適当に盗賊どもを気絶させておいて、日が昇った後に通報でもされればどうにかなるだろうと思う。

一度盗賊団を根こそぎ潰して、後々その周囲の村々が困っていた事があったから、根こそぎ潰す事はあんまりしない。

程良く平和に解決が一番だ、うん。


「なんか、地味…」

「十分だろうがっ!」

「えー、でも、ほら、降りて1人ずつなぎ倒した方が面白そうだったのに…」

「んなことしたら、日が昇っても終わらんわっ!」


1人ずつなぎ倒した事も以前はあった。

はっきり言ってあれは、果てしなく時間がかかる。

デカイ盗賊団ならば尚更だ。


「ま、日帰りじゃ、こんなものだよね」

「今は家の仕事手伝ってるから、泊まりでの外出は難しいしな」


家の手伝いが出来ない幼い頃ならば、適当にごまかして何日か家に帰らない時もあった。

だが、今はそうもいかない。

とはいえ、商家の手伝いにも休みはある。


「サクの休みの日に合わせて、何かないか探してみようかな…」

「俺はのんびりした休日を過ごしたい!」

「無理無理」

「即否定?!」


のんびりした休日は確かに望んでいる。

それでも、多分休日はフィラに連れまわされるんだろう。

のんびりした日々を望みながらも、最終的にはフィラの頼みを断れない俺。

それは多分、こんな日々も結局は嫌じゃないからなんだろうと思う。



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