憧れの旅を始めました
翌朝。本当にマーリンガンが旅に必要であろう魔法具をたくさん持ってきてくれた。
「使い方は作ってたから知っているだろ?でも一応説明書も作ってきた」
「何からなにまで本当ありがとうございます」
「これでチャラだからな。お互いな」
「わかってますよーう」
マーリンガンから説明書と魔法具を受け取り鞄にしまう。
「俺からはこれだ」
工房のおっさんからは大量の矢と矢筒。
「何だかんだと毎日来ては作品を誉めてくれる良い奴だったからな」
「おっさん…」
「へへ。頑張れよ!」
ロンロさんがパンを持ってきた。
「たくさん食べなさいよ」
「ありがとうございます」
わらわらとプレゼントを頂き、最後におばあちゃん。
「ディラ、元気でねぇ。使命を全うしたら帰ってきて良いからねぇ」
「うん。おばあちゃんも体には気を付けてね」
ハグをしながらボロボロと泣き出すおばあちゃん。その後ろでマーリンガンが口パクで「お前どんな説明をしたんだ?」と言ってきた。
俺も口パク返しで「記憶が戻って、やらなくてはならないことを思い出したので旅に出ます。と」って返した。
そうしたら何だか話が大きくなって使命がどうたらってなってしまった。
「あたしゃーもう心配で心配で。自分の事も忘れるおっちょこちょいなんだから。猪とかに泣かされないか心配で」
「ちゃんと気を付けるよ。弓もあるし」
昨日試し射ちしたら吃驚するくらい手に馴染んでいた。
「じゃあそろそろ行くよ」
「うんうん」
名残惜しくもおばあちゃんから離れ、荷物を担いだ。
重い。
「……分かっているとは思うが、弓の事は言うんじゃないぞ…」
「へーい」
気を付けますとも。
「行ってきまーす!」
村の人たちに見送られ、俺は異世界への旅を開始したのだった。
目の前でマーリンガンから貰った方位宝針がある方向を指し示す。
これは一定距離の間、指定された者を避ける為、安全な行路を指し示す物だ。
今回は三日間教会関係を避けるに設定したんだけど。
「細かく動くなぁ」
数が多い証拠なのか。
お陰さまで森の中を歩く羽目になっている。
「せっかくの旅立ちが森だぜ?エクスカリバー」
「どう思うよエクスカリバー」
「見てあの鳥。尻尾超長いぜエクスカリバー」
暇。
暇すぎてエクスカリバーに語りかけてる痛い人になっている。
ぶっちゃけ他にやることといったら地図見るくらい。
ちなみにこれもマーリンガン印の特性地図筒。
なんと地図をこれにセットすると、自動的に現在地を表示してくれる。
やっぱり異世界っていったら魔法だよ。
「あとは仲間とかー?友情、戦い、ドラゴン…」
ドラゴンっているのかな。
「せっかく異世界いるんだし、向こうで見られないもの見たい」
町の近くには絶対にいないだろうドラゴンは、一体何処で見られるのか。
「山か、谷か。どっちにしても情報がほしい」
あと一人寂しい。
「三日過ぎた辺りで町とかに入ろう。そして仲間を探そう」
ファンタジーらしく!
「!」
地震?
いや、これは何となく想像つくぞ。
近くの茂みに隠れて様子見していると、道のある方角に騎馬の集団が凄い勢いで駆けていった。後ろの方にある馬車は何かの模様が描かれていた。
あれがマーリンガンが言っていた教会のやつか。
「てゆーか、兵士の数おおいな」
くわばらくわばら。
こそこそと隠れながら森の中を進む。
一日、二日と用心していたが、三日目辺りで飽きてきた。
「そろそろ狩りがしたい」
モソモソとパンと干し肉囓りながら暇をもて余していた。
どうせ俺はいわゆるメインストーリーとやらに関わることは無いだろうから、少しぐらいはしゃいでも良いのではなかろうか?
このエクスカリバーだってきっと遊びたいだろう。
だってこんなにも元の俺の弓に似ているし、たくさん使ってやりたい。
というか、色々確かめたいこともあるし。
──ズズゥゥ…ン…
「ん?」
なんだこの音?
音の方向を見てみればトラックサイズの大きなダンゴムシが森の中をゆっくり進んでいっていた。
「よーし」
「おい、聞いたかあの話」
「なんだ?なんの話だ?」
「アルミタマ虫が一撃で殺られていたって話だよ」
「ああ、あの話か。デマだろ?」
「デマじゃねーんだって。本当にあの岩よりも硬い虫が一撃で仕留められていたんだって。俺の友達が虫の死骸を見たっていうから本当だよ」
「お前の友達って、ハンターのか?」
「そうだよ。誰がやったのか見てないから知らねえけど、近くに凄いハンターでもいるのか?」
「いんや。全く聞いてないな。でもそうならきっと町は大騒ぎになるぞ」