パスダンジョン『ダレット』
チョコレートの匂いが残っていたせいなのか、3~4匹ほど蟻がやってきてしまった。
だが、そんなに強くなく、クレイの盾でボコり、ロエテムがボコり、クロイノがパンチをしただけで簡単に倒せてしまった。
「……近くで見て思い出した。これあれじゃん。アントバチじゃん」
蜂のような羽と刺を持っちゃった蟻。
レベルは7と低めだが、群れると一気に危険度が増す特殊モンスター。
そのアントバチをジルハが嗅ぐ。
「この匂いだったんですか。蜜みたいな匂いしますね」
「このアントバチって、お腹に蜜を溜める習性があるんだって」
ブリテニアスオンラインではこのモンスターを倒すと蜂蜜がドロップするんだけど、ここでも出れば良いのに。
「クロイノ、今は食べるでない」
目を離していた隙にクロイノがアントバチを咥えていたが、アスティベラートに叱られて離した。
美味いのかな、あれ。
そんな疑問を抱きつつ蟻塚の前へ。
偽チョコレートの方向からトンカチで叩くような音が聞こえている。
頑張ってるな。
頑張ってるけど、それ、岩なんだよなぁ。
「ここだ」
蟻塚の中で扉のようなものを見つけた。
花のデザインで枠組みされ、上方には蜂の巣に似た六方形の模様と太陽の模様。
なんでこんな蟻塚なんかにダンジョンを作ったのか。
エクスカリバーを取り出していつものようにノック。
すると扉に『ダレット』の文字が浮き上がった瞬間、モザイクになって突然バラけ周囲に飛び散った。
? 水の音?
白く眩んだ視界に水のせせらぎのような音が聞こえた。
「……は?」
目を開けると一面のお花畑であった。
薄い青空には色とりどりの花びらが風に乗ってひらひらと舞い、心地の良い陽射しが柔らかく降り注いでいる。
その花咲き誇る花畑に横たわっていた。
なんで?
「とにかく起き上がらないと」
皆が無事かどうかの確認もしないといけないし。
「うーー…………、……」
起き上がれない。
なにかで固定されているわけではない。
ただただ、怠い。
体が重すぎて沈みそう。
実際に重いわけではないのだけれど、あまりの緩い空気に感化され、全てがどうでも良いと、動くなんてめんどくさいと体が主張していた。
目の前で大きな鳥がこちらめがけて突っ込んで来ていたとしても、何処か他人事で、きっとこのままだと避けることすらしなかっただろう。
だけど、俺の対応危険領域にその鳥が到達した瞬間に、ほぼ条件反射で体が戦闘態勢に入った。
【千里眼/見極め】【千里眼/見通し】【身体能力向上】【動作加速】がほとんど同時に発動し、鳥の鋭い鉤爪が体を掠めながらも間一髪回避に間に合った。
「ふぅー、あっぶねぇー」
あのままだったら即死、もしくは生き地獄な状態になってただろう、
『ルルル…、ッジャーーーーー!!!』
翼を広げ突進してくる大鳥。
嘴の中に見えるのは鋭い牙。
その鳥の首に矢が突き刺さり、更に頭、胸と矢が貫いたところで力が抜け、大鳥は花畑の中に崩れ落ちた。
「あっけな」
もう少し強いと思ったけど。
何のモンスターだったんだと近付くと、大鳥の姿がぼろりと崩れて花びらの塊になって飛んでいった。
「……幻覚?」
にしてはやけにリアル。
「……うわまた…」
ぐわんと再び怠さの波が襲い掛かってきた。
その瞬間、背後から虎が飛び掛かってきていた。




