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同盟記念パーティー、当日。
「私が美人なのは認めるけど、皆、考えすぎだと思うのよね」
朝から風呂に入って念入りにしたくをして、夕方、侍女の手を借りてドレスを着つけ終わったカリンはゆるく首を振りながら寝室を出た。
「ライ、お待たせ。準備ができたわ」
居間と食堂を兼ねる部屋では、すでに白い神官服に着替え終えたライアンが待っていた。長椅子に座り、本を広げている。
「はい、ではまいりましょうか……」
本を閉じ、ライアンはこちらを見て、ぽかんとした。
今日のカリンは、赤をメインに、黒いリボンを使った大人っぽいシックなドレス姿だ。スカートはマーメイドなので、黒いストッキングをはいた足が綺麗に見えるので気に入っている。長い黒髪はきちんと結い上げて、黒いレースがついた赤い花飾りでとめた。
小ぶりのアクセサリーと、婚約指輪は忘れない。
「ライ、かっこいいわね」
神官の盛装はたいして変わらないから見慣れているが、前髪を上げているライアンは珍しいので、カリンはよく見ようとライアンに近づく。
「カリンさんって、美人なんですね」
たった今、初めて気づいたという顔でライアンがつぶやく。
カリンはわずかに首を傾げた。
「お前の目は節穴か、それとも今更気づくなんて馬鹿。どっちで怒ればいい?」
「綺麗な人だとは思ってましたけど、好きになってから数倍可愛く見えるんですよね。どうしたらいいでしょうか」
「それ、本人に聞かないでよ。照れるでしょ」
さしものカリンも動揺し、顔を赤くする。他の人間ならリップサービスだと思うが、ライアンみたいな純粋な男は、本気で言っていると分かるだけに。
カリンは気を取り直し、ふふっと笑う。
「まさかライと婚約するなんて思わなかったわ。みんな、驚くでしょうね」
「周りの反応より、魔物のことが心配です。僕の傍から離れないでくださいよ」
「適当にあいさつしたら、早めに撤退しましょ」
「それがいいですね。いつも通り」
平民出のカリンとライアンには、パーティー会場は居心地が悪い。
「キラキラお姫様って憧れだったけど、社交は苦手だわ。あれ、楽しい人はいるのかしら」
「楽しいとは思いませんが、情報収集と人を紹介してもらうにはちょうどいい場ですよね。勇者一行の旅でも、宴会でだいぶ利用させていただきましたし。カリンさんは飲み食いしてるだけでしたけど」
「ちゃんと女性から噂を拾ってきたでしょ。仕事だと思えばがんばれるわよ。でも、いつものことになったら、苦行じゃない?」
我らが女王陛下リリーアンナをすごいと思うのは、社交の花として君臨していることだ。
輝かしいだけでなく、噂で他人を持ち上げたり貶めたりと、影も付きまとう世界だ。
カリンは着飾るのは嫌いではないが、楽しくもないのに笑顔で武装するのは気疲れするから面倒だった。
一方で、ライアンは社交に溶け込んで、情報を集めるのが上手い。神殿という場所で集団生活をしているだけあって、気づけば他人の懐に入っているのは見事というほかなかった。
「お時間でございます。会場までご案内いたします」
ノックの音がして、廊下から女官が声をかける。
「さあ、行きましょうか」
「まいりましょう」
カリンはライアンの左腕に、するりと右手をからめる。
そして二人は、戦場に飛び込むような面持ちで、客室を出た。




