01話 樹海~初めての邂逅
敵(ラスボス級)との初めての出逢いです。
大量の木々に、大量の岩の破片、大量の土砂、半壊した扉。
「岩で扉が塞がれてた感じか?」
岩の破片を手に取り、まじまじと眺めながら呟く。
「それにしても、中々に騒がしいところだな。」
地鳴りに、何処からともなく聞こえてくる獣の鳴き声。ゴァァ!!とか、ギャース!!とか、ブロォォン!!等の鳴き声が獣と言って良いのであればだが。
「詰んでる?サバイバルとかヤダよ?」
とにかく、このまま此処に居たら確実に詰む。
手にしていた剣を、徐に床に垂直に立てて手を離す。右斜め前方に倒れる。
「良し!あっちに進もう。」
原始的な方法で進行方向を決める。昔からこんな方法がうまく行く。
木を避けながら進む。泥濘はあるが、特に問題無く進めた。
運が良いのか悪いのか、獣?には出会さなかった。
木々の切れ間から見上げると、突き抜けるような青い空が広がる。
森林浴日和だなぁ、と軽く現実逃避もする。
途中、ハート型で黄色の果物らしき物が木になっていたので、手に取り匂いを嗅ぐ。甘い匂いがする。
お腹が空いていたこともあり、木にもたれ掛かり、あっさり5つほど完食する。普段は[最悪の少し斜め上を想定して行動する]と豪語しているにも関わらず、果物に毒があるかもしれないなどとは、微塵も考えなかった。日常と思えないこの環境と、精神的な疲れが影響しているのかもしれない。
「水気が多いな。リンゴ、いや梨に近い味だな。」
ようやっと一息付けた感じだ。
剣を腰に差し、両腕で抱えれるほど、とは言っても5つほどだが、梨擬きを持って再び歩き始める。
程なくして、開けた場所が目の前に広がる。
「ミニサッカーが出来そうだな。」
呑気な事を呟きながら、足を踏み入れる。
ほぼ同時のタイミングで、空間の丁度真ん中辺りが明滅を始める。
「魔方陣ってやつ?…何事?」
昔から読書が大好きで、小説と呼ばれるものはかなりな量も読破していたため、非現実的とはいえ、魔方陣と直ぐに理解できた。
突如浮かび上がった魔方陣は明滅の周期を早め、最後には強烈な光を放つ。
手で目を覆い、目が眩むのを防ぐ。心の中では、まともに見たら[目が!目がァァ!!]ってなるのかな?などと考えていた。余裕があることである。目の前に広がる光景を見た瞬間に、そんな余裕は無くなるのだろうが。
手を外して見れば、その先には体が爛れた、いや腐ったドラゴンのような醜悪な物体が、これでもかと存在感を出していた。
両腕から梨擬きが落とす。
「………マジですか?」
一言発するのにも、かなりな時間を要していたようだ。
腐ったドラゴンは、既にこちらを敵と認識したのか、全長20メートルはあるだろう巨体にも関わらず、素早く回転する。尻尾での打撃攻撃だ。
腐っているという嫌悪感が強かったおかげで、身構え、動く準備は出来ていた。
「汚ないッ!!」
咄嗟に剣を引き抜いて、尻尾を防御するように構えることができた。
ガインッ!と聞き慣れない音が、少し遠くで聞こえた気がした。
鼻を襲う腐臭、木々の囀り、宙に浮いた感覚、歯に挟まった梨擬きの果肉、腐肉と飛び散る日光に煌めくドラゴンの鱗、目の乾き、背中に感じる強烈な風、様々な感覚に脳内処理が追い付かない。今は不要な事が多い気もするが…。
『ドンッ!』『バギッ!』吹き飛び、そこにあった大木に激突した音と木が折れる音が耳に届くのは、ほぼ同時であった。
「ガハッ!!」
大量の空気が口から吐き出される。
意味も分からず死亡かよ…。等と考えながら、ずるずると大木を背に地面にへたり込む。
走馬灯って見れなかったなぁ、子供達の成長を見守りたかったなぁ、昇進試験の結果が知りたかったなぁ、集めてたラジコンは棄てられちゃうのかなぁ、即死って痛くないんだなぁ、死んでも手に力って入るんだなぁ、…あれ?
ここで目を開くことを漸く試みる。普通に開く。
生きて…る?何で?普通に死ぬよね?あ、ドラゴンは?
ドラゴンゾンビを視界に入れると、大きく息を吸い込んでいるのか、胴体が膨らんでいる。口からはドス黒い煙のような物が漏れている。
「ブレスッ!?」
喰らいたくない!!とばかりに、地面に差した剣を起点にして、全力で右に跳ぶ。
バババババと又も耳慣れない音を聞き取る。
目の前からドラゴンゾンビが消えた。
「?逃げられた?」
安堵感が広がる。
彼は気付いてないが、とんでもない跳躍力であった。100メートルは跳んだだろうか、もはや飛んだといっても良いレベルである。
「あ、梨擬き…。」
人間、食い気の優先順位はかなり高い。
怪我の確認は、そっちのけのようだ。
まだここは深い森。
受難は終わらない。
普通は闘えませんよね?
腐ったモノは何でも駄目なんです!