閑話 騎士の少女
「ユエル様は神殿騎士だったんですね」
「そうだな」
「あれ?陛下はあまり驚かれていない感じですか?」
「神殿で剣を扱う職なんて、騎士くらいしかないじゃないか。何となく予想していた」
ヨハンは少し考えなるほどと頷いた。
「確かに、そうですね。陛下の推理力には感服です」
そんなこと思ってもないくせに、と相変わらず邪気無く笑う家臣に呆れた表情を向けた。
そういえば、とレオは思い出した疑問をヨハンに訊ねた。
「ユエル殿は、何故騎士であることを隠していたんだ?」
純粋な疑問にレオは首を傾げた。
心得たとばかりにヨハンは自分の机上に置いていた資料を手に取り、内容を読み上げた。
「リベル殿にお尋ねしたら、戦争をしにきたと思われたくなかったということでした」
「ほう」
「一番隊副隊長であったユエル様を送り込んで、陛下の首を狙っているのではないかと疑惑をかけられないために、敢えて言っていなかったと言うことでした」
「そんな事思いはしないのに」
「陛下はそうでしょうね。しかし、他の臣下はそうとも限りません。他国からの刺客と疑心暗鬼する者もいないとも限りません」
面倒くさいなーと呟きつつ、レオは窓の外を見た。
まだ日中ということもあり、空は明るく青が広がっていた。
彼女が騎士と聞いて、もしかして、と思う自分がいた。
昔逢った蒼い瞳の少女も騎士をしていた。
神子を護るために騎士をしていると。
その当時は神子騎士かと思っていたが、神殿騎士のことを少女は言っていたのかもしれない。
いやしかし、とレオは内心首を振った。
少女の瞳は確かに蒼かった。
とても明るい月明かりに照らされ、色ははっきりと分かった。
彼女は違う。
そこまで考えるとレオは息をついて、執務机に向き合った。
余計な模索をするのではなく、明日する予定だった仕事に手を着けた。
「今日くらい休めばよろしいのに」
「明日の仕事を少しでも楽にしておきたくてな」
やれやれと、両肩をすくめてヨハンはお茶の用意をしに部屋を出ようとした。
ドアノブに手をかけたところで「ああ、そうそう」と些末なことでも思い出したかのように振り返り、邪気のない満面の笑顔でレオに告げた。
「宰相様が他国を説得するためにしたためた、あの初恋メモリアルストーリーの文を聞きつけた有名な作家が、是非、本にさせてくれないかと、申請が来ておりますよ」
やめてくれ!
いつにも増して短くてスミマセン(*_*;




