被疑者三人目 駄菓子万引き犯「勇太くん(6歳)」
通常の司法手続きでは裁くことのできない者がいる。
口を割らない凶悪犯、テロリスト、武器密輸人――。
そして今回、情報特捜部【Echo】が確保したのは……
駄菓子を万引きした6歳児だった。
国家最狂の拷問官【IVE】は、
果たしてこの少年にどのような「処置」を施すのか。
──《東京駐屯地 地下 第Ⅳ区画》──
控えめな明かりに照らされた通路を部下と共に歩く男の姿があった。
彼は立派な制服に負けない体躯をしており、
胸に飾られている数多くの勲章が明かりを受けて輝きを放っていた。
「平田3等陸佐、案内ご苦労」
「ここからは私一人で大丈夫だ、先に戻っていてくれ」
部下に対するねぎらいを忘れない真摯な精神を持ち、
荘厳な声を響かせる彼は、第Ⅳ班の休憩室前に立っていた。
「はっ! 何かございましたら、いつでもお呼びください!」
隊員達からの信頼も厚い彼こそ、【袴田】陸将である。
普段は来る事の無い珍しい来客が第Ⅳ班を訪れた。
【袴田】が第Ⅳ班の休憩室の扉を開け、声をかける。
「失礼する。ここにIVE中将はいらっしゃるだろうか?」
「私がIVEです。本日はどのようなご用件でお越しに?」
【IVE】は手に持っていたコーヒーを置き、
大きめの椅子で組んでいた足を解き、
美しい髪を揺らしながら立ち上がる。
「突然の訪問、ご容赦いただきたい」
「本日は相談させていただきたい事があって参りました」
「ま、孫……孫が……駄菓子を万引きしたのです」
恥ずかしさと悲しさから俯き、
握りこぶしを作りながら【IVE】に孫のことを語る陸将
「"国家"とは人々が作り上げるもの、孫もまたその内の一人だと考えています」
「故に勇太、私の孫である勇太に更生を促していただけないだろうか」
【IVE】は、鍛え上げられた肉体を持ち、数多くの勲章が胸を飾っている男性が、
迷いなく職権乱用する姿を見守っていた。
「お孫さんの尋問……ですか、私たちがどのような"手段"を用いるかご存じですか?」
【IVE】が率いる第Ⅳ班チーム【Echo】が、
"拷問のスペシャリスト集団"である事を仄かに匂わせる。
「……悪の芽は、摘める時に摘むのです」
「よろしく……お願いいたします」
【袴田】は全て理解した上で、
【IVE】に依頼を持ちかけていた事を言葉と態度で示す。
「……わかりました。では連れてきてください」
【袴田】の覚悟を受け取り、
第Ⅳ班一同は休憩室から拷問室へと向かった。
──《第Ⅳ区画 拷問室内》──
拷問室内は薄暗く、無機質なコンクリートの壁と質素な椅子だけが置かれている。
明かりはオレンジ色の蛍光灯が一つ、
被疑者が座る椅子の頭上で、
子供の目が悪くならないようにいつもより明るめの光を灯している。
拷問室内には、頭に黒いビニール袋を被せられたりすることもなく、
質素な椅子に手足を縛り付けられていない不安そうな被疑者が居た。
「あ、あの、おねえちゃん誰?ここどこ……?」
当然の疑問が【勇太くん】の口からこぼれる。
地面に膝を着き、目線の高さを被疑者に合わせる国家最凶拷問官。
「私は、あなたのおじいちゃんとお友達のIVE中将。突然連れてこられて怖いよね」
柔らかな手つきで被疑者の頭を優しく撫でる。
「勇太くん。私は怒っているわけではない」
「大丈夫、おじいちゃんがあなたの事を心配しててね、私に少しの間だけ預けたの」
「ただし、君が何をしたのかは、君自身に理解してもらう」
「……では、早速だけど、勇太くん。あなた駄菓子を盗んだのよね?」
普段と大きく変わらない声色だが、
そこに鋭さはなく、柔らかな音だった。
「……ごめんなさい」
"力を行使"するまでもなく、
被疑者はすでに従順であった。
「謝れるのは偉い事よ、だけど、誰に謝っているの?」
陸将が求めていたのは"更生"である事を胸に刻んでいる【IVE】、
6歳の【勇太くん】を迷う事なく詰め始める。
「えっと、えっと、おねえちゃんとおじいちゃん」
【勇太くん】は真っすぐな瞳で【IVE】を見つめながら、幼く可愛い声で答えた。
「謝る相手を間違えてるわ」
「あなたが謝らなきゃいけない相手は、駄菓子屋の人よ」
【IVE】は部屋の隅に置かれていたホワイトボードを引き寄せると、
黒いマーカーを手に取り、インカムに細く美しい指を伸ばす。
「1233(ヒトフタサンサン)、状況開始」
《……あ、了解》
「……?」
【勇太くん】が不思議そうに首を傾げる。
「第一問……いえ、問題ひとつめ」
「駄菓子屋の人は、なぜ商品を店に並べている?」
「……売るため?」
「正解」
【IVE】は淡々と答え、ホワイトボードに大きく「① せいかい」と書き込んだ。
「問題ふたつめ」
「では、君が持っていった駄菓子の代金は、誰が払う?」
「……ぼくのおじいちゃん?」
「違う」
【IVE】が即答する。
「君のおじいちゃんが払うのではない」
「君がお金を払わないまま持っていったせいで、お店の人は損をする」
「本当なら勇太くんからもらえるはずだったお金をもらえなかったんだ」
「そのせいで、お店の人がごはんを買えなくなるかもしれない」
「……うん」
【勇太くん】の顔が、少しずつ暗くなっていく。
「問題みっつめ」
「その損をする人に、君は何をした?」
「…………」
【勇太くん】が、俯いたまま呟く。
「……ごめんなさい」
「誰に?」
「駄菓子屋さんのおばあちゃんに……」
【IVE】は小さく頷いた。
「正解。ではさいごの問題」
「あなたがこれからしなければいけない事は?」
「駄菓子屋さんのおばあちゃんにごめんなさいする」
回答を受けた【IVE】は、
目にも留まらぬ速さでホワイトボードに大きな"はなまる"を描く。
「はなまる大正解よ、ほら、おじいちゃんが外で待ってるわ。」
「おじいちゃんと一緒に駄菓子屋に行って、ごめんなさいできるかしら?」
しばらく俯いていた【勇太くん】が、ゆっくりと顔を上げる。
「……うん、ごめんなさいできる。もうしない、ぜったいしないよ」
「そう、なぜ?」
「おじいちゃんと、お店のおばあちゃんと、おねえちゃんが悲しいから」
【IVE】は優しく微笑みながら、【勇太くん】の頭をそっと撫でる。
その柔らかな手の温もりを感じながら、
【勇太くん】は満面の笑みで【IVE】を見上げていた。
国家最狂の拷問官によって、
一人の民が悪の道に進む事のないように、
更生へと導かれたのであった。
「1237(ヒトフタサンナナ)、状況終了」
《……あ、中将、お見事でした》




