VTuber事務所の社長はお見舞いが来る
入院して数日が経った。
医者の方が言うにはどうやら僕は三日三晩寝ていたらしい。助かる可能性は五分くらいの確率だったものの、自分はどうにかその五分に買ったようで生き残った。
忙しいのにスタッフとかライバーがお見舞いに来るので、別に僕のことは気にしなくていいと言っている。それぞれ忙しいはずなのに態々時間を縫って来てくれているのは本当にありがたいけど。僕は僕の所為で皆に迷惑を掛けるのだけは避けたい。
でも、みんな僕の言葉を素直に受け入れてくれる感じが全くない。
『明日もお見舞いに来るので』
『退院したら、私の部屋で療養しましょう』
『オレが支えます』
なんかほっておいてくれる感じが全くしないんだ。社長が倒れたら嫌でもお見舞いに来ないといけないという義務感に囚われているんじゃないだろうか。別に僕なんかのために来なくていいのに。
そして大事なこととして僕を刺した人は捕まったらしい。これはお見舞いに来た、ライバーのマネージャーから聞いた話なんだけど、どうやら僕を刺した後に警察が追跡をしたところすぐに見つかった。
その取り調べの中でどうやらただの通り魔とかではなく、僕を狙っていたらしい。一番の驚きは犯人は『視聴者』だったというところかな。
詳しい動機については本人が語っていないらしいが、僕を殺したいという気持ちがあったのは間違いないようだ。
「まぁ…ライバーやスタッフが襲われるよりはよかったかな」
社長としてはそれぐらいしか思うことがない。雇用主としては雇用者に被害が出なければ、それでいい。
視聴者から叩かれたり、炎上させられたりするのは始める前からある程度覚悟は決めていた。でも、まさか実力行使に出られるとは。
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今日も病室のベッドの上で読書をしたりして時間を潰していると、ノックする音が聞こえたので、『入って大丈夫だよ』というと、イケメンが入って来た。
服も派手で、指には指輪や装飾品が色々と付いている。
身長は180ぐらいで、金髪。
誰が見ても派手な人だと分かるイケメン。
「元気そうで良かった、しーくん」
「僕も久し振りにキミの顔が見れて嬉しいよ、レオ君」
桜花レオ。それが彼の名前。ライバーで事務所に入った順番だと4番目ぐらいで、かなり序盤に入ってくれた子だ。僕も最初はチャラい人だなぁと思ったけど、接していくと真面目なところがあったり、お茶目なところがあったりと一人の人間としてとても魅力的な方だと思った。
レオ君はお見舞いの人が座る椅子に腰を下ろした。
「レオ君も忙しいんだから来なくてもよかったのに」
「しーくんのピンチに駆けつけないわけにはいかないよ」
このしーくんという呼び方はずっと続いている。前になんでその呼び方なのかと聞いたら、「社長だからしーくんだよ」と言われた。社長の頭文字の『し』を取ったらしいけど、そんな呼び方をされたのが初めて過ぎて最初は呼ばれても反応ができなかった。
「お仕事の方は大丈夫そう?」
「そっちに関してはしーくんが心配する必要はないよ。ちゃんとやっているから」
「それはよかった」
皆の仕事に影響が出るのだけはどうしても避けたかったし。
「しーくん、退院したらどうする予定?」
「どうするって?」
「いや、元の家に戻る予定?」
「それはそうだよ。もちろん、自分の部屋に戻る予定ではあるよ」
「たぶん、難しいんじゃないかな」
「難しい?」
「うん。みんな、しーくんのこと大好きだからさ」
「どういうこと?」
「まぁ…その時がくれば分かるよ」
レオ君が一体何を言っているんだろうか。
そんなことを気にしているとレオ君の目が真剣になってきた。
「一応、確認だけしてもいい?」
「大丈夫だよ」
「しーくん、これからも徒歩で通勤とかは考えていないよね?」
「本当は徒歩で行きたいけど、完治をするまでは無理かな」
どうやら僕の言葉はレオ君にとっては望んでいない回答だったらしく、目付きが鋭くなっていた。
「だめだよ。しーくんはこれから絶対に車」
「で、でも…」
「でもはだめ。こんなことになったんだ。これからは絶対に車。というか社内ではしっかりとしたボディーガードを付けるって話にもなってるよ」
「え、そんな話になってるの!?」
「うん。しーくんが一命を取り留めてから会社内で色々と話し合いがあったんだよ。その中には僕を含めたライバーに執行役員、スタッフなどかなり幅広かったイメージ」
そんな話し合いがあったなんて一言も聞いていない。見舞いに来たライバーもスタッフもそんな話はしていなかった。僕の秘書ですらも全く口にしていなかったのは少し問題じゃないのかな。
「そこでしーくんはちょっと無防備すぎるって話になって。ボディガードや通勤の車などを含めてこれからのしーくんについて話し合われたの」
会社ってそんな話し合いをするの。でも、一応社長だし、しっかりとしないと。僕がこんな風に倒れると会社がちょっと揺らぐし。
「しーくんは自分で思っているよりも会社の柱なんだよ。だから自分の体を一番に考えて行動して。僕を含めて、みんな協力してくれるからさ」
「そうだね。ありがとう、レオ君」
やっぱりみんな優しい。
「僕はしーくんのためだったらどんなことでもするからさ」
そして最後にそう言い残して、レオ君は病室を去っていった。




