VTuber事務所の社長は刺された
VTuber事務所の社長というのが自分の役職。社長という役職になったからにはこの会社と心中すると心に決めていた。どんな結末になったとしてもその結末をしっかりと見届けると。
でも、まさか自分がその結末を見るよりも前にくたばることになるとは思っていなかった。
――――――
その日の僕はいつも通り、会社に出社して仕事をしていた。
会社を立ち上げた頃は色々と表立ってやることも多かった。社員だって全然いないし、僕が動かないと人手が追い付かないぐらいだった。ライバーのマネージャーとしてスケジュール調整もしていたし、現場に付いて行ったりもしていたっけ。動画の編集などを含めて本当にある程度のことをした。
そしてそれからライバーの活躍によって、少しずつ一目に付くようになっていった。イベントやコラボなどライバーが勢力に活動してくれるお陰だ。ライバーの数が増えていくにつれて、スタッフの数も増やさないといけないので自然と会社も大きくなっていく。そうなると僕が前に出ることも減って来て、後は社員たちが上手いことしてくれる。僕よりも技術がある人も入って来たしね。
オーディションの応募人数も今までじゃ考えられない位に多くなってきて、本当に会社の知名度も上がっているのだと実感していく。
今ではライバーも男女合わせて15人だ。それぞれが個々に配信者として頑張ってくれているお陰だと思っている。
スタッフも入れれば、最初の頃は考えられない位に大きくなったのだ。その会社の社長の僕には全員を食べさせていく責任というものが付きまとうようになる。
僕の判断一つで一気に倒産とかはないにしても、良い流れのものが悪い流れに変わる可能性はあるのだ。
そう思うようになってからはより一生、責任感というものが出てきた。
その日も当たり前のように仕事を終えて、帰路に付いた。秘書からは「そろそろ車で出社することを考えてはどうですか?」と言われたりもするけど、僕には似合わない。
車で出勤するようにしていれば、あんなことにはならなかったのかもしれない。
簡単に言えば、僕は刺されたのだ。
相手はフードを目深に被っていたこともあって、顔は見えなかった。
刺された痛みで相手のことなど考える余裕もなかった。
鈍痛がしているし、みぞおちに刺さっている包丁からは血液がたれている。膝を付いて、朦朧とする意識の中、誰かが自分の名前を呼んでいる気がするが、それに返事ができそうにない。
たぶん、自分はここで死ぬと思う。死ぬ直前になると走馬灯のようなものが出るというが、嘘だな。だって自分は死にそうなのに走馬灯がでないから。
ちょっと心残りなのは事務所の未来を見れない事と、ライバーやスタッフたちに迷惑を掛けてしまうことだな。
そして僕の意識は途絶えた。
――――――
もう意識が目覚めることはないと思っていたのに、僕の目にはどこか分からない天井が映っている。一瞬、天国かと思ったが、天国にしては味分けない場所だ。出来る範囲で辺りを見渡すと、窓があったり、カーテンがあったりと、ここが病院だと気付くのに時間は掛からなかった。
「…助かったのか」
あの時は助からないと思っていた。生きることを諦めていたと言ってもいい。包丁を刺された瞬間から、もう自分に明日はないと。
だけど、そんな僕は今、心臓が動いて生きているのだ。
少しずつ生きていくという実感が湧いてくると、気になって来るのは会社のことだ。命と同じ位に大事なものだから。
そこで初めて、自分の右足の辺りに何かがのっていることに気付いた。体を起こす瞬間に痛みが走ったものの、それに耐えて起こすとその正体が分かった。
「…小守さんか」
茶髪、セミロングの少女が僕のベッドに突っ伏して寝ていた。年齢はまだ16歳で高校1年生。僕の立ち上げた事務所のライバー第1号だ。あんな怪しい事務所によく応募してくれたなぁ…と今になってはよく思う。
小守ヌイというライバーとして活動してくれている人で動画投稿サイトの登録者は40万人近くもあるのだ。最初に面接している時はまさかこんなに人気者になるとは思ってもいなかった。
「お見舞いにでも来てくれたのかな…」
起こすのも申し訳ないのでしばらく動かないようにしよう。動かないようにしようっていうか、しばらくはみぞおちが痛すぎて動けない。
でも、この状態だと元の状態に戻れるのは一体いつ頃になるだろうか。一応、会社には有能な社員が揃ってはいるものの、それだけはどうにもならないこともある。会社に迷惑を掛けないためにもなるべく早く復帰しないと。
この時の僕は別にこれからも今まで通りの生活ができると思っていた。体さえ、動くようになれば問題ないと。
だけど、そうはならなかった。
あの日から僕の周りの環境は大きく変わってしまった。
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「なんで…僕はここに閉じ込められているの?」
「そんなの決まってるでしょ。あんたがこれ以上、傷を負わないように」
「いや、そんなことしなくても」
「ダメ。あんたが居なくなったら…ダメだから」
彼女の寂しそうな顔を見ると、何も言えなくなる。
本当になんでこんなことに。




