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VTuber事務所の社長秘書は社長のために頑張る②

辞める理由を羽衣石さんから聞いて、一番最初に私が思ったことを口に出した。



「それってあなたが辞める必要ないですよ」



「でも、私が許せないんです。私が私のことを許せそうにない」


私はタレントではない。秘書だ。だから羽衣石さんの気持ちが全て理解できるわけではない。



でも、少なくても今聞いた理由が辞める決断をさせたのであれば、辞める必要はないだと断言できる。



「あなたは社長にとって大切な存在なんです。社長はこの会社に関わってくれている全ての人のことを大切に想っています」


それはあの人の側で支えているからこそ分かる。あの人がどれだけ他人のことを想っているのかを。



「あなたはあなたが思っているよりも、大切な存在なんです。だから社長のことを考えるのであれば辞めないでください」



「…倉掛さんには分からないと思います。私はどうしても私のことを許せないんです。自分が悪いとか、悪くないとかそういう話ではないんです。ただ私の所為で社長が襲われた可能性が少しでもあるなら私はもう社長の側にいれません」



羽衣石さんが辞めたいと考えている理由は、自分の所為で社長が襲われたかもしれないからだ。ではなぜ、彼女がそんな風に考えたのかと言えばそれは『犯人』だ。


犯人のことは全国放送でも色々とされていたが、その中で犯人が持っていたカバンのストラップが羽衣石さんのものだったのだ。




そこで彼女は自分のファンが社長のことを襲ってしまったのではないかと考えるようになった。自分の所為で社長が刺されたのではないかと。


もし、自分がこの活動をしていなければ社長が襲われることもなかったんじゃないかと。





そのことを誰かに相談することなく、彼女は一人で『辞める』という決断を下してしまったのだ。もちろん決めた後、マネージャーに伝えた時には反対されたそうだが、彼女の決心が揺らぐことはなかった。


彼女の中で社長は大切な存在だからこそ、その大切な存在が自分の所為で傷を負ったかもしれないというのは自分の体が傷つくよりも嫌なことなのだ。それこそ、自分が傷付けられる方がまだいいと考えるほどに。




「確かに私はライバーではないです。あなたのことを全て理解するのは難しいというか、無理だと思います。それは分かっています」


元々、私とあなたは違う人間だ。育ってきた環境が違えば、性格も全然違うし、仕事内容も全然違う。



「ですが、さっきも言いましたが、社長のことを想っているという意味では同じだと考えています」


私とあなたはそういう意味では同類だと思います。



「本気で辞めるつもりなら、せめて本当の理由を社長に話してください。そこで話し合った結果として辞めることになったのであれば、私は何も言いません。あくまで私は部外者ですので」


この件の当事者はもちろん、羽衣石花蓮と社長だ。一度話し合いましたが、それはあくまで嘘の理由を元に行われた。



今回は本当の理由で社長と話すべきだ。



「社長に嘘を付いたまま、終わりにすれば一生あなたは後悔すると思います。いくらそれが自分で決めた嘘だとしても」


これから先の未来を彼女が、ずっと悔やみ続けないためにもしっかりとここで一区切りつけておくべきだ。本当に辞めるのであれば尚更。


ここでのことを引きずって、これからの生活に影響が出るのは絶対に避けるべきだと私は思う。




私の言葉に羽衣石さんも納得していないわけもないらしく、俯いている。



「もう一度、社長と話してください。その方が羽衣石さんにとっても、社長にとってもいいはずです」



彼女は俯いたまんまだけど、私は話を止めない。



「私が言えるのはここまでです。あとは羽衣石さんが決めてください。あくまで部外者の言葉なので、全て言ったことを聞く必要もありません。やっぱりあなたの気持ちが一番大事ですから」



もう言うべきことは言った。


羽衣石さんはまだ俯いたまんまで、彼女から何か言葉が返って来ることもない。





そうであれば、私は席を立ち、羽衣石さんに対して「では、今日はお呼び立てしてすいませんでした。お先に失礼します。お金を置いていきますね」と言った後に金を置き、カラオケボックスを出た。








私は別に羽衣石さんに特別な思い入れがあるわけではない。


でも、羽衣石さんの社長への気持ちは知っている。



どれだけ強い気持ちを社長に対いて抱いているのかも。



私と羽衣石さんの共通点は、一度同じ人に対して特別な感情を抱いているだけ。





でもやっぱり一度でも社長のことを好きになったのなら、後悔して欲しくない。


たぶん、このまま別れれば羽衣石さんにとって社長は思い出しくもない存在になってしまうかもしれない。思い出す度に罪悪感に押しつぶされるから。




そんな風に社長と別れて欲しくない。



それが私の願い。


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