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おっさんAの異世界冒険譚 ~転生者、詰みそうな町を事業計画で立て直す~  作者: タツダノキイチ
第三部

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おっさんAという名もなき勇者の話

みんなとまた旅をしながら世界樹云々の話を聞く。

聞けば聞くほど、私の世界ではないという気がしてきた。

おそらくそれが、私に私の限界を悟らせるひとつの要因になったのだろう。

なにしろあの一連の事件は世界の根幹にかかわる英雄譚で、ジャック軍務卿とエリス様を一段と神格化させるに十分な話だったからだ。

しかし、それからも私は出来る限り「青春」を続けた。

十年も続けたんだから頑張った方だろう。

リズと一緒に取り組んだ、軍の兵站改善と美味しい行動食作りの日々。

サーニャが妙な依頼を引っ張って来て、ミノタウロスの大群に囲まれてしまったこと。

マイが方向音痴っぷりをいかんなく発揮して迷い込んだ森でケットシーに懐かれてしまったことなんかはかなりいい思い出になっている。

そんな過去を思い出しながら、私は荷馬車に乗り込んだ。

ガタゴトと音を立て、ゆっくり進む馬車に揺られる。

あぜ道を走り回る子供が足を止め、

「村長、いってらっしゃい!」

と手を振ってくれた。

「ああ。お土産待ってろよ!」

と手を上げて応える。

初夏の日差しに照らされた薬草畑はどれも青々とした輝きを放ち、よく肥えた土のいい香りをさせていた。

南へ続く裏街道に出る。

(ああ、そういえば、この街道の整備は大変だったな。結局村のみんなや冒険者の力を借りて整備したんだっけ。おかげで今ではこうしてゆっくり馬車が進めるいい道になった)

そんなことを思っていると、前方にゴブリンの小集団が現れた。

(この世界は相変わらずだな)

と思う一方で、

(マイとサーニャのおかげでこの程度で済んでいるのかもしれんのだから、そこは感謝しなければ)

と思って、馬車を止め、刀を抜く。

四十五を過ぎた体で十匹のゴブリンと戦うのはなかなかの仕事だったが、息を切らしつつもなんとか戦闘を終えた。

(なんとも情けないこったなぁ。今度からは素直に冒険者に護衛を依頼しよう。幸い、村の収益は順調に伸びているし、今年も昨年比で一割成長した。他の村にも薬草栽培が広まってきたから、あとは夢だった薬の製造拠点を村に誘致することだけだな。そうすれば、私の仕事は一応の完成を見るはずだ。今回はその辺もリズと相談してみるか)

そう考えながら、少し痛む腰をさすり、刀を納める。

そして私は再び馬車に乗ると、南の町に向かいゆっくりと進み始めた。

行商人や買い物客でごった返す南の町の市場をゆっくり通り抜け、目抜き通りにある商会を目指す。

やがて目に入ってきた「リズアレン商会」という比較的新しい看板を眩しいものを見るような感じで目を細めて眺めた。

「ふっ」と笑って商会の建物の裏に回る。

「お疲れ様。今日も蚊帳の納品にきたよ。あと、薬草もたっぷり持ってきたからあとで薬師ギルドに納入してくれ」

「アレン村長、いつもご苦労様ですね。ああ、会頭がいますから是非会っていってください」

「そうか。それはちょうど良かった。そろそろ未来の話をしようと思っていたところだからな」

「へぇ。それは楽しみですね。今度はどんな商売の種なんです?」

「そいつぁ後のお楽しみよ」

馴染みの店員とそんな話をして裏口から商会の建物の中に入る。

すれ違う店員たちに軽く挨拶をして二階に上がると、私は迷わず会頭の執務室の扉を叩いた。

「お疲れさん」

「やぁ、アレン。久しぶりだね」

「そうか? そう言えば前会ってから四、五十日経ってるな。時間が経つのはあっという間だ」

「ははは。相変わらずおっさんみたいに言うじゃない」

「ふっ。紛れもなくおっさんだからな」

「今、お茶を淹れるよ。緑茶でいいかい?」

「ああ。頼む」

爽やかな日差しが差し込む執務室で、少し甘味のある緑茶を飲む。

この緑茶を考案したのも私だ。

その緑茶の販売をテコにしてこのリズアレン商会を立ち上げたのがおよそ十年前になる。

その時、私は冒険者を辞める決断をした。

みんな悲しそうな顔をしたが、最初に背中を押してくれたのは意外にもサーニャだったのを今でもはっきり覚えている。

「アレンはさ。もっと違う楽しいを作りたいんでしょう? だったらやるべきだよ。アタシさ、アレンが作る楽しい世界が大好きなんだ。だから、アタシはアタシの楽しいをたくさん見つけていつか楽しいの見せ合いっこしようね!」

たしかそんな言葉を言ってくれたはずだ。

私はそれを懐かしく思い出しながらゆっくりと緑茶をすすった。

「そういえば、そろそろマイとサーニャが戻ってくるよ。昨日東の町から出した手紙が着いたからさ」

「そうか。それは楽しみだな」

「うん。またリネア村に遊びに行くね」

「ああ。村民一同歓迎するよ」

「あはは。あの村の料理は美味しいから大好きなんだ」

「だろ。なにせ私が村長になってからずいぶん改良したからな」

「ほんと、アレンってそういうところだよね」

「食い意地だけは誰にも負けんからな」

「ふふっ。ところで例の計画なんだけど、そろそろ詰めていかないかい?」

「おう。俺もそう思っていたところだ」

「薬師ギルドとの間の話がようやくまとまったんだ。薬師の仕事を奪うんじゃないかって相当ごねられたけどね」

「苦労を掛けたな。しかし、薬師の需要はおそらく尽きないだろう。うちの村で作るのはあくまでもご家庭の常備薬だからな」

「うん。そのことを話して、生産拠点に研究施設もつけるって言ったらなんとか納得してくれたよ」

「そうか。それならよかった。願わくばその研究施設からいい薬がたくさん世に出ていくことを願っているよ」

「そうだね。うちもそれなりの商売になるし、原料生産をしている村も儲かる。そしてなによりみんなの健康が守られるんだから、こんないい商売はないよ」

「だな。俺も誇りをもって進めていけると思っているさ」

「ああ、そうだ。サーニャとマイが国から勲章をもらうことになったらしいよ。おかげでマイはエルフの国に戻れるかもしれないってさ」

「そうか。そういえばマイは軍機違反のお尋ね者だったな」

「そうそう。ジャック軍務卿は貴族に取り立てたかったみたいだけど、それは断ったんだって。ほら、世界樹が安定して少し魔獣騒動も落ち着いたじゃん? だから、ジャック軍務卿は本当の貢献者にそれなりの地位を与えたかったみたいなんだけど、結局二人は、解決したのはジャック軍務卿とエリス様で、私たちはたまたま手伝いでそばにいただけってことにしたらしいよ」

「ほう。相変わらず耳が早いな」

「うん。王都の支店に情報員を配置したのは正解だったよ。おかげでこっちも大助かりさ」

「それはよかった。何しろ情報は商売の命だからな」

「うん。で、その情報員が二人に会ったらしいんだけどね。二人ともすっごい苦い顔で、『そんなことになったら冒険できないじゃん!』とか『私の自由は誰にも邪魔させません!』って言ってたらしいよ」

「ははは! いかにもだな」

「だね!」

そんな話に花が咲く。

それからしばらく昔話をして私はリズの執務室を後にした。

(さて。お土産はなにがいいだろうか? やっぱり魚だよな。燻製かまぼこと干物をたくさん買っていってやろう。サーニャとマイが訪ねてくるんだったらおそらく生魚を持ってきてくれるだろうから、久しぶりに寿司が食えるぞ)

そう思いながら、海辺の町に向かう船に乗り込む。

そして私は夕日に煌めく川面を見つめ、

(あの頃は楽しかったな……)

と少しだけセンチメンタルな気持ちになった。

リネア村に戻り、みんなにお土産を渡す。

そして、いつも通り小さな村役場で村長としての仕事に励んでいると、うちで家事を手伝ってくれているジーナさんが、

「村長、お客様がいらっしゃったみたいですよ」

と嬉しそうに伝えに来てくれた。

「おお、そうか! それは急いで帰らねば。みんなも、今日の仕事は適当なところで切り上げて早く帰ってくれ。今日は半休だ」

と告げ、さっさと帰る支度をする。

急いで家に帰るとそこには懐かしい顔が揃っていた。

あの頃と変わらずニコニコしているマイ。

髪が伸び、ずいぶんと大人になったサーニャ。

そして相変わらず元気そうなリズ。

私は微笑みながら三人に歩み寄り、軽く右手を掲げた。

パチンと音がしてみんなの温もりが伝わってくる。

「お久しぶりですね、アレン」

「また、おっさんになった?」

「あはは。で、今日はなに作ってくれるの?」

「生魚があるなら寿司でも握るぞ」

「やった! アレンのお寿司大好き!」

「あれ、海辺の町ですっごく流行ってるんだよ」

「うん。美味しかったよね」

「ああ。俺もちょっと前に食ったが、確実に美味しくなってたな」

「そのうち、あの町からどんどん他の町にも広がっていくんだろうね」

「そうなれば嬉しいな」

そんな話をしながら笑顔で家に入っていく。

玄関をくぐる時、サーニャが、

「ただいま!」

と言ってくれたのを嬉しく思いながら、私はさっそく台所に向かった。


懐かしくも変わらないあの頃の空気に包まれ、幸せな時間を過ごす。

みんなと話すのはいつもの昔話。

しかし、そこから必ず未来の話につながっていった。

サーニャは楽しそうに旅で見つけたいろんな楽しさの話をしてくれる。

それをみんなで聞き、みんなもまた新しい「楽しい」の話をした。

話は尽きない。

私は相変わらず続く青春の余韻を心から嬉しく思い、いつも通りきゃっきゃと騒ぐみんなの顔を見つめた。


長い夜。

爽やかだけど少し寂しい朝。

新しい冒険の始まり。

それらを見つめて今日も私は自分の仕事に向かう。

二日酔い気味で座った執務室の机の上には、いつも通り、事業計画書が置かれていた。

(さて、やるか)

気を引き締めてページをめくる。

(俺の仕事はまだまだ続く。そう。俺は俺にしかできない仕事でこの世界を少しでもいい方向に変えてみせるさ)

そう思って見る事業計画書には新しい「楽しい」がぎっしりとかき込まれているように思えた。


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